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【AISTS #23】 18週目 東京2020における知的財産保護 ― アスリートの肖像権 (2020/2/17-23)

今週は、マネジメント(ステークホルダーコミュニケーション)の講義が3日間と、法律(知的財産保護とこれまでの振り返り)で2日間でした。

オリンピックにおけるアスリートの肖像権に関する「ルール40」の変更についての話が興味深かったので、その内容を中心に整理します。

オリンピックにおける知的財産保護

オリンピックに関するマーケティングで巨額の資金が動くようになり、お金を払っているTOPパートナー及び国内スポンサー(以下、オリンピックパートナー)の権利を守るため、知的財産の商業的な使用権については詳細なルールが定められています。
3日間の講義のアジェンダは以下の通り。時間的には、IIの商標とIIIの著作権に長い時間が割かれました。

I. The protection of Olympic properties
II. Trademark law and unfair competition law
III. Copyright law

IV. Patent law
V. Law of trade secrets
VI. Right of publicity / personality rights

オリンピックに関する知的財産(オリンピックシンボル、大会エンブレム/マスコット、大会呼称、画像/映像等)は、全てIOC(国際オリンピック委員会)が独占的に所有します。そこから、各大会ごとに組織委員会に管理権限が委譲されます。
東京2020組織委員会の収入見込み6300億円のうち、4000億円以上がオリンピックパートナーからのスポンサー収入です(2019年12月20日 公式発表より)。

オリンピックパートナー以外による大会名やエンブレムの直接の使用はもちろん、オリンピックを想起させるような用語やデザインの使用も問題となる可能性があります。
以下の画像は、公式のガイドラインの「アンブッシュ・マーケティングとして問題となる例」からの抜粋です。

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(組織委員会 大会ブランド保護基準 より抜粋)

スポーツの価値を維持していくためにも、正確な認識を広めていければと思います。


オリンピックアスリートの肖像権

中でも興味深かったのは、アスリートの肖像権に関するルールの変更についての話でした。

オリンピックに関するあらゆる規則を定めるのオリンピック憲章の中に、ルール40と呼ばれる規定があります。
アスリート個人の肖像権の取り扱いを定めたもので、ソーシャルメディアの普及を受けて、2019年6月に改定されました。
東京オリンピックが、この規定が適用される初めての大会となります。

具体的には、アスリートが大会期間中に自身の身体、名前、写真、あるいは競技パフォーマンスを大会期間中に宣伝目的で使用されることについて、「IOCの許可がない限り不可」だったものが「IOCが定める原則に従い許可できる」となりました。
この改定により、実質的にオリンピックパートナーに限定されていた、アスリート個人の肖像を使った大会期間中の宣伝が、アスリートの個人スポンサーにも条件付きで認められるようになりました。

オリンピック憲章の原文は以下の通りです。

(改定前)

Except as permitted by the IOC Executive Board, no competitor, team official or other team personnel who participates in the Olympic Games may allow his person, name, picture or sports performances to be used for advertising purposes during the Olympic Games (Bye-law to Rule 40 of the Olympic Charter)

(改定後)

Competitors, team officials and other team personnel who participate in the Olympic Games may allow their person, name, picture or sports performances to be used for advertising purposes during the Olympic Games in accordance with the principles determined by the IOC Executive Board (Bye-law to Rule 40 of the Olympic Charter, para. 3, in force as from of 26.6.2019)

日本国内においては、オリンピックパートナー以外(個人スポンサー等)が大会期間中(2020年7月14日~8月11日)にアスリートの肖像を使った宣伝活動をするためには、JOCへの事前申請が必要です。
内容については、2020年3月31日までに使用している広告素材であることが条件となっています。
これは、オリンピックのために特別に作ったものは認められず、あくまで継続的な活動を大会期間中に続けることを妨げません、という趣旨です。
オリンピックと関連づけたり、期間中に頻度が上がったりすることは認められていません。

申請フローは以下の通りです(JOCガイドラインより抜粋)。

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実務的に大会期間中にチェックするのは各NF(日本○○協会)となるようです。
どの程度厳格に運用されるのかは分かりませんが、大会期間中のソーシャルメディアや広告をこういった視点で見てみるのも面白いかもしれません。

より詳しく知りたい方は、JOCガイドラインをご参照ください。


ステークホルダーコミュニケーション

上記以外の3日間は、グローバルに展開するコミュニケーションコンサルティング会社 Leidar からスピーカーを招いての講義でした。

テクノロジーの発展、特にソーシャルメディアの普及によって、コミュニケーションの取り方に大きな変化がありました。
ポイントは、計測できるデータが増えたこと、リアルタイム性/速報性が強く求められるようになったことです。

一方で、メッセージアーキテクチャは普遍的に重要な概念として強調されていました(下図、AISTS講義資料より抜粋)。
伝えたいテーマについて具体的なメッセージを文で表現し、それを補強するデータや事実を交えたストーリーを描く、という手順です。
コミュニケーションの手段に関わらず、この構造が明確になっていることが重要で、逆にこれができていれば組織として一貫したコミュニケーションが可能になります。

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ベストプラクティスとして紹介されたのは、イギリスの "This Girl Can" でした。
周りの目を気にしすぎず、女性がスポーツを楽しめる社会にしていこう、という趣旨で、2015年に立ち上がり、今も続くロングランのキャンペーンです。ストーリーへの落とし込みが秀逸です。


来週の予定

来週は、月曜日朝に社会学の筆記試験、その後は1週間ずっと法律(Liabilities in Sport)の講義です。
もう2月も終わってしまいますね、あっという間です。気を引き締め直します。

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