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【AISTS #21】 16週目 グループワークと異文化環境での学び (2020/2/3-9)

今週は春のような陽気だったり雪が降ったりと不思議な天気でした。天気がいい日の湖畔は最高に気持ち良いです。この街のいいところです。

今週はテクノロジーの中のICT(Information and Communication Technologies)の講義と、3週間かけて準備してきたグループワークのプレゼンがありました。

今回はその内容というよりは、その過程を通した多様な文化の環境での学びを中心に書いていきます。

スポーツにおけるICTの講義

提携しているスイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)から講師を招いての講義が中心でした。キーワードとしては、

ウェアラブル、身体動作分析、IoT、ビッグデータ、機械学習、ブロックチェーン、AR/VR、5G

といったところです。

アリババのオリンピックでの取り組みは興味深いです。
2017年にTOP(Top Olympic Partner)として2018年平昌から2028年ロサンゼルスまでの6大会をカバーする大型契約をIOCと結びました。
ECや旅行関連サービスが見えやすいところではありますが、肝はアリババクラウドのオリンピックでの活用だと思います。

大会ごとに作ってきた運営システムをクラウド上で構築し、共通化とデータの蓄積で開催都市の負担を減らせるという趣旨です。本格的な導入は2022年北京大会からになりそうです。
当然その先に、データの取得や機械学習の精度向上などの狙いがあるのでしょうが、大型スポーツイベントにどのような変革をもたらすのか、注目です。

一方で、アリババの事例のような内容は一部で、大部分はその背景にあるテクノロジーの仕組みについての講義でした。
正直な感想としては、せっかく本物の専門家に来てもらっているにもかかわらず、各テーマで1〜2コマ(90分/コマ)だけなので、消化不良感が否めませんでした。
(余談ですが、メインの講師のフレンチアクセントが強烈で、ただでさえ耳慣れない単語が多いので、聞き取るのも大変でした。)
このようなプログラムの難しいところだと思いますが、カバーする範囲の広さと専門性のバランスはいつも議論に挙がります。

最後の講義の後には、今回のテクノロジーのプログラムについて学生から講師にフィードバックする時間があり、3週間でこの内容は無理があるのではという内容を中心に、忌憚のない意見が多く出ました。
また、学生の代表(Class Representative)を2人選んでいて、学期に一度、運営サイド(Scientific Committee)に学生の意見を伝える場もあります。

講義の内容に限らず、先日のユースオリンピックのボランティアでの役割などでもそうですが、与えられる環境をそのまま受け入れるのではなく、自分が求めているものに少しでも近づけようとする姿勢が強い人が多いです。
日本でいう「学校」という感覚とは大きく異なりますね。自分もこちらに来て変わってはきましたが、まだまだ染み付いた思考の癖が全く違うことを痛感しています。
そして、この手の違いを肌で感じることが、大きな学びの一つだと思っています。


グループワークとプレゼン

3週間の準備期間で、テクノロジーを活かしたスポーツに関する新製品/サービス(用具、施設、情報通信技術等)を提案するグループワークのプレゼンが金曜日にありました。

グループワークの始めに書いた記事はこちらです。

結局、ドーピング検査を簡素化する体内埋め込みマイクロチップのプレゼンをしましたが、その過程で様々な難しさを感じました。
そもそも、僕らがちょっと考えて思いつくものは、既に誰かがやっているか、できない理由があるかのどちらかなわけで、その事実とどう折り合いをつけるかが個人的には最大の難しさでした。

どうしても突き詰めて調べてしまうので、次々と「これじゃできないな」という発見が出てきて、でもプレゼンに向けてはどこかで結論を出さないといけないジレンマに悩まされました。
また、自分の中で整理ができても、それをメンバーに納得してもらうというのも難しいところでした。
慣れない分野になると、英語でのコミュニケーションによるストレスもいつも以上に大きかったです。

グループのメンバーはブラジル人、イタリア人、ウクライナ人、中国人、韓国人、日本人
このグループワークに取り組むスタンスも考え方も違う中で、みんなが納得する落とし所にもっていこうともがきましたが、結局はうまくできなかったなと思います。

そして、プレゼンの後は講師陣による評価で順位がつけられ、6チーム中4位以下(発表は3位まで)という結果でした。

このTweetでも書いた通り、欧米系とアジア系の差が顕著に結果に出たのが、(客観的には)興味深かったです。
僕はどうしても正解を探しにいってしまうのですが、今回の条件の中で現実的な範囲のゴールを設定することが、彼らはうまかったなという印象です。

更に、プレゼンの力も見せつけられました。
英語力の違いもありますが、それ以上に、(及ばない部分があったとしても)強調したい内容を堂々と伝える力がありました。

これまでは、なんとか自分を納得させる理由を探して直視しきれずにいた部分もありましたが、今回それがはっきりとした結果で出たことで、自分に足りない力を改めて認識することができました。


読書『五色の虹』

異文化の中での経験を中心に書いてきましたが、たまたま薦めてもらって読んでいた本からも考えさせられることが多かったので紹介します。

朝日新聞記者の三浦英之さんが書いた『五色の虹 満州建国大学卒業生たちの戦後』という本です。

【第13回開高健ノンフィクション賞受賞作】日中戦争の最中、満州国に設置された最高学府・建国大学。「五族協和」を実践すべく、日本、朝鮮、中国、モンゴル、ロシアから集められた若者たちは6年間、寝食を共にしながら国家運営の基礎を学んだ。そして敗戦。祖国へと散った彼らは帝国主義の協力者として弾圧を受けながらも、国境を越えて友情を育み続けた。スーパーエリートたちの知られざる戦後。
(Amazonより抜粋)

まず、恥ずかしながら、この本を読むまで建国大学の存在を知りませんでした。
今回のテーマからは逸れますが、元学生が高齢となり多くが鬼籍に入る中で、著者の徹底した取材へのこだわりと、複雑なテーマを読みやすい構成で伝える文章力に唸らされました。

建国大学は、5カ国から集まった若者が文字通り寝食をともにしながら、日本政府の批判も含めて言論の自由が保障されているという、特別な環境でした。
毎晩のように「座談会」が開かれ、お互いの主張を激しくぶつけ合いながらも、強い絆を育んでいきました。
「五族協和」は、傀儡政権を正当化するための表向きの理念という面もあったとされますが、言論の自由が保障された唯一の環境で、その理想の実現に向けて希望を持っていた若者たちの想いと覚悟が伝わってきます。

終戦をもって建国大学は解散し、元学生は危険分子として祖国で弾圧を受けることも多く、いまだに(著者による取材時点でも)インタビューを妨害される様子が生々しく描かれています。

今とは時代背景が全く違いますが、当然のように言論の自由があり、何を気にすることもなく活動できる恵まれた環境にいるわけで、志を持って異文化の環境に飛び込んだ自分はどのように時間を過ごしているか、改めて考えさせられる内容でした。

最後に、あとがきで著者が紹介している元学生の言葉が刺さりました。

「衝突を恐れるな。知ることは傷つくことだ。傷つくことは知ることだ」


来週の予定

月曜日の朝にテクノロジーの筆記試験があり、その後の一週間は社会学(Sociology)の講義です。またグループワークがあるようなので、異なるメンバーでまた違った経験をしてきます。

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