ボイスドラマ「TOKYO-雨」

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【長編小説】東京、雨降りしきる廃都 終

終.

 廃都東京は、その日も雨だった。

 氷のように冷えた有毒雨の中で、男は建造物の軒先にいた。雨宿りをしながら紙巻煙草を咥え、マッチで点火すると、一度大きく呼吸をした。紫煙が口元から溢れる。

 足元に銀の猫型アニマロイドを伴い、男は暗い空を見上げている。そこに見えるはずのない星を探しているような目に、感情は見当たらなかった。

 左側頭部の二本の切創痕に手をやりながら、男は右手で煙草を一度

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【長編小説】東京、雨降りしきる廃都 十七

十七.夜明け 

「エマ、エマ、起きてくれ」

 エマはあの戦闘の音でも目覚めていなかった。レイジは白いワンピースを纏った体を揺さぶって起こそうとする。彼女は目覚めると、レイジの血に濡れた手に対して驚き、何も言わずに身を捩って寝台上を逃げた。

「誰、ですか……!」

「今説明している暇はないんだ。すまない、早くこちらへ。君をここから逃がさないといけない」

「エマの嬢ちゃん、オレっちたちは悪もん

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【長編小説】東京、雨降りしきる廃都 十六

十六.兄弟あるいは

 賢人脳会の居所は三十四階にあった。普段の立ち入りは禁じられており、最高権限を持つ一部の人間しか生体認証をパスできない、電子施錠が行われていた。

 エレベータでその階を訪れた時、レイジが感じたのは異様な寒さだ。それはニカイドウも感じたところらしく、吐息の白さに季節を確認してきたほどだった。女性職員もそこまで立ち入ったことはなかったらしく、肌寒いを通り越した室温に身震いしてい

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【長編小説】東京、雨降りしきる廃都 十五

十五.火の手は上がった

 ホームへの道中、高速道路は乗り捨てられた車両に塞がれてしまっている。レイジが過去に東京出征でそうしていたように、夜闇の中でインターチェンジを下り、下道の海岸線沿いを行く道を選んだ。

「ここまでで新たな検問とかってのはねェな」

「俺たちが脱出できると踏んでいなかったのか、それとも誘われているか、だ」

「あー、私どうしたら……。ホームにも居場所ないし、永遠の命ってのも

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【長編小説】東京、雨降りしきる廃都 十四

十四.帰還の時

 クリーナーたちの侵攻を遅らせるだけの時間は稼げた。プラスチック爆薬を素人が設置したにしては、建造物は思った以上にうまく倒壊、あるいは崩壊してくれた。それだけ老朽化が進んでいたのだろう。レイジたちに建築のいろははなかったが、目算で手当たり次第に柱を破壊すれば、さもありなんというところだった。

 爆発を聞きつけて、クリーナーの部隊はいずれレイジたちの装甲車両を発見し、攻撃を加えて

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【長編小説】東京、雨降りしきる廃都 十三

十三.昨日の友は

 レイジたちは、ガーデン本拠地跡からしばらく離れた先の手頃な倉庫で、夜明けを迎えた。スバルは、泣き叫び疲れたのか、崩れた表情のまま死を懇願していた。

「私はもう何も知らない……。本当です……。だからもう、楽にして、ください……」

 カルミアの拷問は容赦がなかった。尋問という体で開始された聞き取りから、十分と経たずに、ホームからの潜伏者は洗いざらいをぶちまけた。どんな手段を取

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【長編小説】東京、雨降りしきる廃都 十二

十二.名無しの

 レイジが高周波ナイフを振るう。ナガレたちがホームから持ち出してきたものだ。

 高速で振動する黒い刃はネームレスの強固な爪を裂く。その端から、ネームレスは不揃いになった爪を全て剥ぐ。すると、負傷と認識した再生臓器抽出物の再生因子が爪を急速再生させていく。異形は、異様なまでに自身の体を理解していた。異常な体になっても、まるで昔からそうであったかのように振る舞っている。

 レイジ

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【長編小説】東京、雨降りしきる廃都 十一

十一.小さな世界

「あんな、オレっちとしちゃァ、ここでぐだぐだやってんのが一番意味のねェことだと思うんだよな。だったらまあ、オレっちがとりあえず片付けるもん片付けりゃいいだろ?」

 頭を掻きながら言うニカイドウは、誰がどうやって見ても、正気だった。

 それが故に、周囲の面々は言葉を失った。唐突に過ぎる、自己犠牲を表す提案に、全員が何も言わなかった。

「で、どうやったらオレっちもあんな風にな

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【長編小説】東京、前降りしきる廃都 十

十.標の示す先

 当該地点は、過去に美術館であった建造物だった。入り口までの道が緩やかに傾斜した、半地下の部分にある。そこは有毒雨によって冠水しており、端末を操作することで排水が始まった。

 カルミアとナガレはそれぞれに視線を合わせない。厳密には、マスク越しに目を合わせようとナガレが試みるのだが、カルミアが抱きかかえたコルチカムに集中しているように振る舞い、それを避けているように、レイジには見

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【長編小説】東京、雨降りしきる廃都 九

九.繋がれた縁

 新たにガーデンの女が、頭ごと脊椎を引き抜かれた。これで都合、死者は三人目。見張りに立っていたはずの女を含めれば、四人だった。残るはカルミアとコルチカム、二名の女たち。

「コル! あんたは状況知らせて増援を呼べ! あたしがここで食い止める!」

 コルチカムが逡巡するが、カルミアの再度の呼びかけで地下へと駆け下りた。

 人型の怪物は当初、カルミアのみに集中して襲いかかっていた

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