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語学の重要性 〜フランスの場合〜

ある言語を「習得」するというのは、どのレベルまで到達することを指すのだろうか。私はフランスに来てもうすぐ丸5年になるが、フランス語を“習得”したと言えるレベルには程遠いと思う。側から見ればそれなりに喋っているようにうつるだろうが、未だにわからない単語は多々あるし、言いたいことが言えずにもじもじしてしまうこともしばしば。あと10年住んだら習得できたと言えるかと聞かれると、正直その自信はない。

フランスに住んでいるとよくされる質問の一つは、語学に関するものだ。どのくらいフランス語を勉強したのか、渡仏前からフランス語はできたのか、生活に困らない水準になるまでどれくらい時間がかかったか、効率の良い勉強方法はあるか、語学学校なしでフランス語は上達すると思うか、そもそもフランスでの生活にフランス語は不可欠か、英語はどのくらい通じるのか、等々。
つまるところ、質問者の興味関心は、フランス語習得に必要な時間及び労力と、フランスにおけるフランス語の必要性という2点に絞られる。今日はこれらについて、私の実体験に基づいた話をしたいと思う。

私は元々語学が得意な方ではない。新卒で入った会社はアメリカ資本の会社だったが、英語が得意でない私はそれなりに苦労した。
フランス語に関しては、25歳を過ぎてから何気なく勉強を始めた(フランス語を勉強しようと思ったことに関しての記事はこちら)。ほぼ独学で1年ちょっとかけてフランス語検定2級までは取得し渡仏した(が、渡仏時のシャルル・ド・ゴール空港で発した、「カフェはどこにありますか?」という質問すら通じなかった…)。
その後、語学学校に1年ちょっと通い、さらに大学院に1年半ほど通うこととなる。
つまり、ある程度基礎的な文法的知識を持っていると、現地の語学学校に一年ほどしっかりと通えば、フランスの大学院で授業を受けられるレベルに到達できるということだ。また、それに加えて大学院で1年半ほど勉強すると、フランスで働くのにも困らない水準にはなる。私のような外国語習得が苦手なタイプでそうなのだから、人によってはもっと早いかもしれない。

一方で、冒頭部分にも書いた通り、どれだけ勉強したところで、ネイティブのように話せる日は、きっと永遠に訪れない。その点において、生活したり学校に通うのに必要なフランス語力は、上記の時間と労力である程度まかなえるが、それ以上のこととなってくると、さらなる積み重ねが必要になると思う。

これは重要なのであえて強調するが、日本でしっかり文法の基礎を勉強したことは後々とても役に立った。例えば語学学校の中級レベルのクラスでは、あまり勉強していないスペイン語圏やポルトガル語圏の生徒がフランス語でベラベラ喋っているのを目の当たりにした。しかし、これらの生徒のうち、きちんと勉強しない者は、いつまで経っても間違ったフランス語を話し続けることになる。
また、上級クラスにいた時に一緒だったイギリス人の女の子が、かなりしっかり喋れるにも関わらず、中級レベルの文法をきちんと理解できていなかったため、上級クラスの授業でかなり苦戦していた。
ヨーロッパ系言語を母語とする人がフランス語を学ぶ上でのアドバンテージである、「文法構造が近い」ということは、実は諸刃の剣で、あまり勉強しなくてもかなり喋れる反面、きちんと細かい勉強をしないと、ちゃんとしたフランス語を話せる日は永遠に訪れない。
日本人の場合、ここまで文法構造が違うので、諦めて一から全部やる以外フランス語が喋れるようになる方法はない。しかし、最初からロジカルに文法事項を積み上げる勉強をしておくと、上級レベルで非常に楽になる。
文法の勉強をする際の私のお勧めは、日本語で書かれたテキストでしっかりと勉強することだ。学習効率は日本語で書かれているぶん高いし、日本語のテキストは細かい部分までしっかり説明していることが多い。日本語話者用に向けていることから、より我々が勉強しやすい形にもなっている。

ここからはもう一つの質問、フランスにおけるフランス語の必要性について。
私の周りに、10年以上フランスに住んでいるにもかかわらず、満足にフランス語が喋れない日本人は結構いる。それらの人が日々の生活で困っているか、と聞かれると、私にはそのようには見えない。
(ちなみに、「住めば自然とその国の言語が話せるようになる」と思っている方、そんなのは幻想だ。勉強しないことには残念ながら外国語の習得はできない)
今は英語のコースを設けている学校もかなり多いし、なんだかんだでフランス人はある程度英語を話す。つまり、「フランスで生活するにはフランス語が必要不可欠である」という命題は偽である。
「フランス語ができないとフランスで成功できない」という命題にも反例がある。フランスで活躍している日本人デザイナーのうち、フランス語がきちんとできない人はそれなりにいる。もちろんきちんと話せる人も多いが、フランス語ができること以上に、デザイナーとしての腕が求められる世界であるようだ。当然のことながら、フランス語の重要度は業界によって変わってくるが、上記のことより、フランス語は、フランスで生活や仕事をする上での必須条件ではないことがわかる。

そもそも、何かやりたいことがあってフランスに来る場合、語学の勉強というのは本質的でなく、かつコスパが悪いものだと思う。本質的でない、というのは上記の例で明らかな通り、例えばデザイナーだったら、デザイナーとして優れていればフランス語を話す必要はない。コスパに関しては、私の例を見てもわかる通り、基礎がある程度できた上で、現地の学校に一年インテンシブに通ってようやく使い物になるレベルだ。語学学校の費用もバカにならないし、その間に当初目標にしていることに取り組める時間はかなり限定的になってしまう。

ただし、語学ができると、可能性が広がることは確かだ。フランス語でしか授業を開講していない学校に入学できるし、「フランス語ができない」という理由で採用が見送られることもない。

私はまだ自分のブランドのローンチにすら漕ぎ着けていないので、成功した、とか、何かを成し遂げたわけではないが、とは言えどうにかこうにかここまでたどり着いた。もしフランス語が喋れなかったら、全く違う道になっていたように思う。フランス語ができたから掴めたチャンスがいくつもあった(詳細は6回にわたる今日も今日とて自己紹介シリーズを参照)。
思うに、語学と学歴とお金は、海外での成功の確率をあげるツールの中で、比較的なんとかなるものだ。「なんとかなる」というのは、才能や運、縁などのどうにもならないものと比べたら、という意味だ。
その中でも、語学は一番とっつきやすいもののように思う。

考えてみれば、香水に関するなんの知識もスキルもない私がここまでたどり着けたのは、語学力のおかげだったのかもしれない。それ以外の部分は、全て運と縁でどうにかしてきた。本質的ではないし、コスパは悪いのは確かだが、語学学校できっちり勉強しただけの価値は私にはあったようだ。

付け加えると、語学の勉強は楽しい。というか、少なくとも私には楽しかった。また、意識しないと話せない外国語を話していると、無意識に話していた母語にも意識的になる。日本のテレビやラジオでの助詞に関する間違いに敏感になったのも、フランス語を日々意識的に話していることが影響しているように思う。

だいぶ長くなってしまった…そろそろまとめよう。
もしあなたが、フランスにて何かやりたいことがあり、そのためのスキルもすでにある場合、語学のことは一旦横に置いて、まずはフランスに来ると良いと思う。フランス語ができなくとも、そのスキルだけでなんとかなるし、どうしても必要になったらその時は諦めて勉強すれば良い。
もしあなたが、フランスにて何かやりたいことがあるが、そのためのスキルがない時、本屋さんにいって中級レベルまでのフランス語の文法が勉強できる本を手に取ることをお勧めする。そして、とりあえずフランスに来て、語学学校に入ることを検討してみてはいかがだろうか。語学はそんなあなたを、どこか素敵なところへと導いてくれるはずだ、私がそうであったように。収入がなくても一定期間フランスで生活するための貯金を開始することもお忘れなく。

ここまで読んでくださった方、ありがとうございました。今日も香水と関係ないことを書いてしまった…本当は今日は香料メーカーごとの調香師の特徴について書きたかったのですが、若干センシティブな話なので、こういった公の場に公開するか迷っています…書いて欲しい場合は、コメントください。

次回も乞うご期待!

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