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祝福されているのかもしれない

天気予報は日中の曇りと夜の雨を告げていたが、お昼過ぎの代々木上原は暖かい日差しに包まれていた。目的地までの道のりでは、数日前の花冷えの雨にも負けず、開花宣言から2週間以上経った今日も、桜がそのありあまる花弁をひらひらと落としながら春の訪れを楽しんでいた。

私は駅で待ち合わせをしていた友人と坂の上にある火葬場まで軽い足取りで向かった。黒い装いと白い花束を何か違うものに置き換えれば、私たちはピクニックに行くカップルのように映っただろう。

その友人は介護中の私を一番サポートしてくれた人だった。介護生活の後半、母からほぼ目が離せなくなった時、彼女が頻繁に家に来てくれたおかげで私はちょこちょこ外出することができた。加えて、家の掃除や必要なものの買い出しまでしてもらった挙句、話し相手にもなってもらった。彼女がいなければ、もしかしたら私は早いタイミングで“ギブアップ”していたかもしれない。


火葬場は思っていた以上に大きくてこざっぱりした施設で、どこかクラシックのコンサートホールのような趣があった。そこで介護を手伝ってくれたもうひとりの友人、çanomaのアシスタント(母は初対面の時から彼のことが大好きだった)、私の妹が合流した。

「火葬場が混んでいるため少々遅れが生じている」と葬儀屋さんに告げられた。火葬場の入り口の待合所からは春の日差しに照らし出された大きな桜の木が見えた。私たちはぽつぽつと会話をしたり、ぼんやりと桜を眺めたりしながら順番を待った。


15分ほど経ったところで私たちが呼ばれた。火葬炉の前の広いスペースに行くと、そこには母の棺が準備されていた。中を開けると、紺色のパジャマを着た母が白い布に包まれて横たわっていた。


1ヶ月半前、退院した母が我が家に来てすぐのこと。

腹水がかなり溜まっていたこともあり、母が持参したパジャマだとお腹周りがかなりきつくなっていた。そこでゆったりしたサイズのパジャマを購入することにした。

Amazonで探していると、シンプルな紺色のパジャマが目に留まった。とりあえずそれを2着購入した。翌日届いたものを母に見せると、デザインも生地感も彼女のお気に召した。

数日経って、看護師さんから母と私に、火葬の際に着る服は予め決めておいた方がいいという助言をもらった際、母は少し考えて「この紺色のパジャマにする」と言った。

「だって、裕太に買ってもらったんだもの」

そう付け加えた。


棺の中に、彼女が着ているのと同じパジャマを天国での着替え用に入れた。その他、ヘルマン・ヘッセの『知と愛』、いただいた手紙、彼女が大好きだったçanoma 3-17のお香、花束なんかを同梱した。

最後に、以前母へ贈られたCHANELのリップで紅を差した。顔全体が明るくなったような気がした。


参列者全員で棺に蓋をした。運ばれた棺は炉に吸い込まれた。

そこから45分ほどで火葬は完了した。燃え残ったのは棺に打たれていた金属製の杭と67年間母の身体を支え続けた骨だけだった。

火葬場の職員が流暢な説明と共に喉仏やら顎の骨やら頭蓋骨やらを見せてくれた。その説明は、高級な鉄板焼のお店でシェフが食材を紹介している姿を私に思わせた。


お骨を納めた骨壷を一度家に置いて、その後近くのカフェで友人とお茶をした。そのときにふと、今日一日悲しみを感じなかったことに気がついた。

それはきっと、私が母の生前にきちんとお別れができていたからだろう。加えて、春のうららかな日差しが、母の安らかな旅立ちを暗示していたように感じさせたことも影響しているかもしれない。


家に帰って簡単に夕飯を作った。疲れていたのか、食後に睡魔に襲われたので仮眠を取った。

1時間ほどで目を覚ました時、外は車軸を流すような大雨だった。こんなに激しい雨は久しぶりのように感じた。思い返してみると、友人とカフェにいる時から既に雲行きが怪しかった。晴れていたのは、母の火葬が執り行われた前後のみだった。


本当に祝福された旅立ちだったのだろう。もう母は無事に天国に到着しているはず。彼女の生前の行いを鑑みて、今回の天国行きのフライトにはファーストクラスが提供されたことだろう。もしかしたらプライベートジェットだったかもしれない。


まだあと少しだけ手続き等が残っているが、母との最期の日々はこれでようやくひと段落した。

やり遂げた。今は晴れ晴れした気持ちだ。


明日からは、仕事にプライベートに、また奔走しようと思う。

ランチ、ディナー、お茶等のお誘い、待ってます。


日常に、戻っていく。日常が、戻ってくる。


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