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介護業界に訪れつつあるデジタル活用・DXの大きなトレンド

こんにちは、BONX Team Growth Scientist楢崎 @nuta0326です。「ニューノーマル時代のデスクワーカー業界を考えるマガジン」、第3回目は介護業界について考えていきたいと思います。

過去の業界研究に関しては以下のリンクより。シェアとかしてもらえると泣いて喜びます。

介護業界を取り巻く「2025年問題」

さて、はじめに介護業界を長年に渡って悩ませる「2025年問題」について。

いわずもがな超高齢化社会の日本、あなたも私もいつかは必ず老人ホームやデイケア施設にお世話になるかとおもいますが、政府の試算によれば「2025年には国民の3人に1人が65歳以上の高齢者」になると言われています。これがいわゆる「2025年問題」です。

当然といえば当然ですが、介護業界を利用するシニア層が急激に増えても受け皿となる介護職員の方が同ペースで勝手に増えるわけもなく、業界全体として介護人材の確保が長年の課題になっています。

厚生労働省の推計によれば、現状の介護人材約190万人に対して2025年までに245万人の職員の方が必要になると考えられており、55万人の需給ギャップが発生しています。このグラフでは触れられていませんが、厚労省によれば平成13年時点での介護人材は約63万人だったため、ここ20年で既に3倍にまで増えてきます。

業界全体として多面的な取り組みをしてきた結果、すでに急ピッチで人員確保をしてきたにも関わらず、まだギャップが埋まりきっていないというのが現状だと言わざるを得ません。

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そもそも労働人口の減少が進む日本ですから、この人員ギャップを埋めるためには労働環境や待遇の改善による「介護人材の確保」だけでは不十分であり、様々なテクノロジーを活用した「労働生産性の抜本的な改善」が急務となっています。

「手厚いサービス」と「正当な対価」の両立という介護現場でおきている課題

それでは実際の介護現場では、労働生産性向上に向けてどういった課題があるのでしょうか。

介護の現場においては、入浴介助や見守り・生活支援など、どうしても人間でないと対応の難しい業務が多く、利用者のおじいちゃん・おばあちゃんのメンタル的なサポートも含めて、現場人員にかかる負担が大きくなってしまいます。

介護の現場で働かれる方々は非常に意識も高くやりがいを持って働かれているため、”よかれ”と思って通常よりも手厚いサービス・サポートを提供し、結果として長時間労働が常態化を招き疲弊してしまうことも少なくありません。

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加えて、介護も病院と同じ仕組みで、実際に提供した介護サービスについて”介護報酬点数”を報告しない限り収益につながらないため、実施内容のレポートが絶対に必要です。これまでは忙しい現場業務の隙間時間を縫って、PCデスクにむかって入力作業を行う必要がありました。

場合によっては本来の業務時間外に入力作業を行うケースもあり、介護現場で働く人の負担を一層ふやし生産性低下を招く一因にもなっているのが現状です。

私がお会いした介護施設の経営者の方から聞いた言葉が今も非常に印象的でした。

「介護の現場は”やりがい搾取”になってしまっている現状がある。働く人が正当な対価を貰えるよう、運営・管理する人間として仕組み化に真剣に取り組まないといけない」

もちろん、効率化が必要だからといって提供しているサービスそのものを簡素化するようなことは出来るわけもないため、なるべく手厚いサービスの提供と正当な介護報酬獲得の両立に向けて「人間でないとできない、単純な効率化が難しいこと」と「人間以外でも出来る、効率化が出来ること」を分けて考えていく必要があります。

現場の生産性向上に向けた「介護現場におけるロボット・デジタル活用」に対する政府の働きかけ

上記の通り「2025年問題」解消に向けたマクロな課題解決という意味でも、現場で実際に働く方々を支えるという意味でも、テクノロジーの導入による生産性向上はマストで取り組まないといけない課題です。これに対し、近年では厚労省中心に政府全体として介護現場でのデジタル活用を後押しする動きが非常に活発となっています。

一つの施策として、ここ数年介護施設に対するIT導入の補助金が非常に手厚くなっています。

以下は東京都の例ですが、施設内の通信設備も含めたICT環境導入支援や次世代介護機器の導入、介護ロボットと呼ばれる現場業務を支援する機器の導入など、かなり多面的に助成金が準備がされています。

デジタルツールが便利なことはもちろん皆さん理解されているでしょうが、どうしても初期導入コストがネックで導入に踏み切れなかった事業者の方々が大半かと思います。これらの費用を活用することで先行投資を抑えつつ、アナログ中心からデジタル中心の新しい業務オペレーションに切り替えるよう、強く働きかけが行われているようです。

※助成金の内容につきましてはお住まい・ご勤務先の自治体によっても状況が違いますので、本noteの記載内容のみを信頼せず一次ソースを必ず確認するようにお願い致します。

介護保険施設等におけるデジタル環境整備促進事業

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次世代介護機器の活用支援事業
※令和2年のもの、令和3年についてはまだ情報公開前

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特に介護ロボットについては、厚生労働省が利用シーンのイメージを掲載しているので補足しておきます。一般的には「ロボット」というとアトムとかドラえもんを想像してしまいますが、介助者のパワーアシストスーツや安心安全にむけたセンサー機器など、現場オペレーションを直接的・間接的にサポートする各種機器が該当するようです。

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但し、これらの助成金については少し課題があり「継続的に利用するソフトウェアサービスについては申請年度のみが対象となる」ケースが多いです。

この辺り、各省庁の予算配分の仕組み上、単年ごとに決定する必要があるからだとは思いますが、初期導入費用を抑える分、継続的に費用が発生するサービス提供方法が主体になってきつつあることもあり、ぜひ見直していって頂きたいとは個人的に思います(このnoteを読まれた政府関係者の方がいれば、ぜひよろしくおねがいしますmm)

介護報酬改定によるデジタル活用のさらなる活性化

もう一点、忘れてはいけないのは介護報酬規定の改定です。特に令和3年の今年は介護報酬改定の年だったため、今後3年間の業界としてのトレンドを把握しておくためにも、しっかりポイントを抑えておきましょう。

まず、介護業界に詳しくない方向けに説明しておくと、介護報酬とは先に述べた通り「介護サービスを提供した場合に支払われる報酬」のことです。利用者の自己負担として1-3割の費用が支払われ、のこりの7-9割が介護保険から賄われます(引用元

この際、厚労省が定めるサービス提供に関する状況や利用者の状況など、様々な基準によって報酬が加算されたり減算されたりするため、より多くの介護報酬を獲得するためにも基準を把握しておくことが重要です。

介護報酬改定は3年ごとに実施されていますが、まさに今年令和3年が改定年度でした。改定に関する議論をしている中でコロナ禍が発生したため、感染予防対策のガイドラインなども内容に盛り込まれています。

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介護報酬改定の内容を全て網羅することは難しく、各種セミナーでも解説が行われているのでそちらを参照いただくとして、このnoteでは「デジタル技術の活用による現場生産性の向上」という観点でポイントをまとめたいと思います。

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なお、下記に厚生労働省が発表している一次ソースがありますので、興味のある方はぜひご一読ください。以下は全て上記ソースからの抜粋となります。

介護報酬改定1: 見守り機器・インカム導入による各種見守り基準の緩和

例えば、介護現場の業務負担をへらすための施策として見守り機器・インカムの導入によって夜間の人員配置基準を緩和することが決定されました。

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入居型施設では当然夜間の入居者の見守り(寝返りや徘徊、排泄介助など)業務が発生します。特に要介護度が高い利用者中心の特別養護老人ホーム(特養)では常に職員が見守りを行う必要があり、どうしても人数の少ない夜間では負担の大きな業務となっていました。人員配置基準をクリアできないために、夜間の見守りサービスを提供しているにも関わらず報酬加算が受けられないということもおきていたようです。

これに対し、夜勤職員がインカムを保有していて緊急時にすぐ音声で連絡が取れる状態となっていることを前提に、基準人員数を0.9人から0.6人に下げても報酬加算が受け取れる新設条件が設定されたり、加算にむけた人員配置基準をそもそも緩和することも決定しています。

介護現場では、インカムやトランシーバーといった話すだけですぐにコミュニケーションが取れるツールは非常に有用です。手が足りないときでもすぐに呼びかけるだけでサポートが受けられるコミュニケーションパスを確立しておくことで、少ない人数で安心安全な見守りを実現できます。

実際、厚労省主管の「介護現場革新会議」においてインカムを利用したパイロット事業の成果もまとめられていますが、インカムを介護現場に導入することがかなり有用であることが定量・定性両面で証明されたようです(画像は三重県のパイロット事業報告より抜粋)

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介護報酬改定2:介護サービス運営管理業務におけるデジタルツールの活用推進

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介護事業においては、現場でのサービス提供に加えて現場職員や施設運営者による取り組みも加算条件になっているケースが多いです。例えば定期的な会議によるPDCAのモニタリングや現場職員への情報周知など様々な領域で会議体の設定が条件とされていますが、今回の報酬改定から「テレビ会議等の活用でも会議実施でもOK」ということが正式に決定しています。

加えて、各種書類の押印や書類関連の電子化が正式に認められました。これはかなり現場の業務負担をへらす画期的なものだと思います。やはり「ペーパーレス化」は大きなイシューと言えそうです。

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介護現場に限らず様々な業務シーンで共通の課題ですが、これまでは紙に印刷してはんこを押し自治体への報告など書類を紙で保存しておく、というのが当たり前になっており、書類の管理業務も現場の生産性を押し下げていたように思います。

この辺りはデジタル庁発足移行、取り組みが加速化している分野になりますが、介護業界でも急速にデジタル化が進んできています。

但し、この取組は介護事業者のみならずチェックする自治体サイドでも受け入れ体制をつくる必要があるため、今後どの程度のスピードで実際のペーパーレス化がすすんでいくか注視していく必要があります。

介護報酬改定3:ICT・デジタルツール活用に積極的な事業者に関する報酬加算

その他、施設型サービスだけではなく様々な介護サービス事業者に対してもICT活用に積極的な事業者に報酬加算を行うことが決定しています。

例えばケアマネ事務所の場合、ICT活用(または事務職員の雇用)によって効率的な運営を行っている場合、”逓減制”の適用人数を緩和することが決定しました。

逓減制とは一定のサービス利用者を超えた場合、サービス提供単価が徐々に下がる仕組みのことです。一人のケアマネージャーが過剰に利用者を抱えてしまうと、忙しくなりすぎて利用者一人ひとりのケアが疎かになってしまうリスクがあるため、適切な人数に収まるように導入されている仕組みです。

一方、逓減制により「利用者を増やせず収益アップができない」ためケアマネ事務所の経営を苦しめてしまうという議論もあるようですが、ICT活用で効率的な運営ができている事業者であればより多くのサービス利用者を抱えても対応可能であろうということで、今回の適用件数見直しに繋がったようです。

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また、通所リハビリテーションなどの自立支援サービスについても、直接訪問せずともビデオ会議などのデジタルツールによって適切な助言・機能訓練支援ができれば報酬加算が出来る新しい区分が設定されました。

これまでは対面でのサービス提供のみが適用対象だったのに対して、感染予防対策という意味も含めてオンラインでのサービス提供が加算対象となったのは、ニューノーマル時代の介護サービスならではとも言えます。

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積極的な政府の後押しで介護現場ではDXが進んでいく流れ

以上、令和3年の介護報酬改定についてデジタル活用という側面からポイントをまとめさせていただきました。

いずれの点においても、これまで対面でのサービス提供が前提だったものに対してデジタルツールの活用が推奨される内容となっており、まさにニューノーマル時代ならではの大きな変革といえるかもしれません。

政府は助成金による導入後押しというコスト引き下げ施策介護報酬改定という売上げアップ施策の両面でデジタル活用を促進しており、他業界と比較しても介護サービスにはかなり多面的な取り組みがなされているため、実は介護業界こそDXの素地が固まってきているとすら言えるかもしれません。

あとは、実際に介護事業者の方々がこのトレンドに踏み込むことが可能か、という点が最も重要なポイントです。

介護従事者の方々はこれまでアナログ中心のオペレーションだったため、デスクワーカーに比べるとどうしてもITリテラシーが低い傾向にあるのは事実です。

これは介護に限らずどのノンデスクワーカー向けITサービスにも言えることではありますが、ベースとしてのITリテラシーに関係なくデジタルの恩恵を受けられるように、現場DXに向けてはこれまで以上に直感的に利用可能なUI・UXが重要になってきていると考えられます。

その中で、音声活用というのは一つの可能性であるように思います。もちろん先に述べたようにインカム利用によってサービスレベルを落とすこと無く省人化・生産性向上が見込めるという点はもちろんのこと、画面をポチポチ操作すること無く、音声認識等の技術によって音声でのやり取りだけで各種手続きや事務処理を完了することができれば、現場でおじいちゃん・おばあちゃんにサービスを提供しながらでもデジタルサービスへのアクセスが可能になるからです。

BONXでは介護業界での活用ケースも増えておりますので、ぜひ一つの選択肢としてご利用を検討いただければ幸いです。



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株式会社BONX所属。20年11月よりNewsPicksプロピッカー就任。チームワーク、コミュニケーション、DX、知財、スタートアップなどが関心分野です https://twitter.com/nuta0326 https://newspicks.com/user/3315600