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ものレボ株式会社の資本政策の考え方

当社の資本政策の考え方を記録しておきます。
当社の起業目的は産業革命と呼ばれることをする、ミッションは未来のサプライチェーンをつくるです。

当社はスタートアップですが、短期で結果を出して売り抜けるというのではく、じっくり腰を据えて長期的に巨大な製造業のパラダイムシフトを目指して事業を営んでいます。

なので資本政策の考え方もこの事業を追従しています。

なぜ資本政策が重要か

事業を実行するには資金が必要です。
スタートアップの資金の調達手段は大体以下の三つになると思います。

  • 売上(顧客への価値提供の対価)

  • 融資(いわゆるローン。元本と利息を返済する)

  • エクイティ(いわゆる出資。返済義務はないが実質的に会社経営に影響を及ぼす権利を出資者に与える)

当社のように長期的な事業にチャレンジするスタートアップは投資し続けることが基本です。
特に創業当時は売上による資金調達より先行して投資する資金の方が圧倒的に多いです。

ゆっくり売上を積み上げてから先行投資に必要な資金を準備していくのであれば資金調達手段は売上と融資のみで運転できますが、スタートアップは急成長を求めているので売上と融資だけでは足りないこともしばしばあります。

そこでスタートアップはエクイティによる資金調達を実行します。
そのときに重要なのが資本政策です。短期決戦でM&Aで売り抜ける場合は知りませんが、長期的に株式公開(IPO)も含めてエクイティによる資金調達を実行するためには後で後悔のない資本政策が重要です。

株式会社は株主が持ち主です。創業者が100%株式を持っている場合は創業者が会社のすべての意思決定の権利と責任を負います。

先に述べたようにエクイティによる資金調達は会社の株式を何らかの形で売ることによって、外部の株主に対して直接的、間接的に会社経営に影響力を行使する権利を与えます。(普通株式や種類株式による様々な権利の違いは端折ります)

なので会社経営者にとっては株主と丁寧に対話し長期的な利益追求といった経営方針・戦略・重要な意思決定に対する株主の理解と賛同を得ることが重要な責務になります。

長期的なミッションに取り組む企業にとって短期的に利益を求める株主が経営に影響力を持つことはリスクとなることもあります。

当社は企業理念で定めた指針の一つに感謝を謳ってます。当社が長期的で壮大なミッションの実現にチャレンジし続けることができるのはすべてのステークホルダー(会社のミッション達成を信じて何かを賭けてくれている顧客・従業員とその家族・金融機関・株主)のおかげです。

資金が必要といって気軽に株式をどんどん発行して経営陣が会社運営の決定権を失ってまうと既存のすべてのステークホルダーとの約束を守れなくなるかもしれません。

場合によっては長期的なミッションに賛同する既存のすべてのステークホルダーが不利益を被ることになります。

スタートアップ経営者はこのような事態を避け、すべてのステークホルダーを守ることのできる責任ある資本政策を立てる必要があります。

ものレボの資本政策の考え方

長期的に誰も成し遂げていないチャレンジングなミッションを実現するには予期せぬ問題がたくさん起こるでしょう。

私自身は生まれて初めてものレボ株式会社で会社経営をしています。
常々無能とギリギリのブレークスルーの間を行ったり来たりして会社を前に進めてます。
実際、当社では常に問題が発生しています。(成長痛として健全な状態と思ってますが)

そんな問題を乗り越えるときにはそれなりの資金が追加で必要になることも多々あります。いついくらの資金が必要になるか計画外の事象に関する予測は難しいのが正直です。

さらに資本政策を計画するときに難しいのが、事業が多角化するのはいつで、そのときにいくら必要か、そのときの時価総額はいくらか、を計算する点です。

当社は工場向けのSaaSを提供しています。
SaaS事業だけであれば時価総額はある程度説明可能なものを設定できます。
現時点ではSaaS事業のみで株式公開(IPO)までの資本政策を立てています。

当社が工場向けのSaaS事業を展開しているのはミッションである未来のサプライチェーンをつくるためです。
例えば足元でつくろうとしている未来のサプライチェーンとは航空宇宙産業等といった少量多品種製造業向けに金属材料の精密加工部品を供給するニッチなサプライチェーンです。これをプラットフォームとして事業化することが目標です。

しかし2040年以降は月面基地と地球間のサプライチェーンの構築にチャレンジしているかもしれません。

これらの事業を実現するためには莫大な投資が必要となり、エクイティによる資金調達も必要になることが予想されます。しかし、そのタイミングはいつで、その金額がいくらなのか、をそれなりの精度で計画しておくことは難しいです。

なので当社ではまとまった資金調達を実施するときは目的を絞ってできるだけ金額を小さくした上でエクイティによる調達と融資による調達を組み合わせて株式の発行をできるだけ抑え、なるべく未来の株式を残しておくようにしています。

資金調達が常にギリギリの金額なので傍から見ればケチなリスクテイカーに見えるかもしれませんが、実は長期的な事業展開のためにすべてのステークホルダーに対するリスクヘッジをしていると自負しています。

創業者株の重要性

創業者が持つ株は非常に重要です。扱い次第で武器にも危機にもなります。

例えば時価総額1000億円で株式公開している企業があるとします。創業者は個人で50%の株式シェアを持っているとします。

そんな創業者が突然亡くなったとします。時価総額500億円の株式が遺族に相続されます。遺族は時価総額500億円の価値のある株式を相続したら当然のように相続税が課されます。相続税率を40%とすると相続税は200億円を現金で納めることになります。

超資産家の一族であれば現金で払えるかもしれません。しかし大体の人は払えません。そこで遺族は200億円の納税のために株式を売却することになります。20%ものシェアを突然市場で売却するのは困難でしょう。実行したとしても株価は暴落して既存のすべてのステークホルダーを混乱に陥れます。そこでまとめて株式を現金で買ってくれる者に売却することになります。場合によっては敵対企業や長期的な事業展開に反対する短期リターンを求める投資家かもしれません。そうなるとどちみち既存のすべてのステークホルダーを混乱に陥れます。

それらのリスクをヘッジするために創業者が実行すべきことは創業した企業の多くを資産管理会社に移すことです。

資産管理会社とは創業者が保有するスタートアップの株式を創業者の代わりに保有する法人です。
資産管理会社を持つデメリットは法人に関わる経費(年間数十万円)がかかることです。資産管理会社は売上もない会社なので経費はすべて創業者が個人で負担します。

では、創業者の代わりにスタートアップの株式を保有する資産管理会社を設立するメリットは何か。

それは既存のすべてのステークホルダー(会社のミッション達成を信じて何かを賭けてくれている顧客・従業員とその家族・金融機関・投資家)を守るための責任を全うすることです。

仮にスタートアップの創業者が既出と同様の条件で時価総額1000億円で株式公開している状態で亡くなったとします。
しかしこの創業者は自身の株式を自身が設立・維持している資産管理会社に全発行株式40%分を数年前の創業初期に譲渡していたとします。(創業者個人は全発行株式10%を保有)

創業者の遺族は10%=100億円分の株式を相続し40億円(既出同様の条件の相続税率40%)の納税のため4%分の株式を売却します。一方資産管理会社は創業者が死亡した時点ですでに株式を保有しているので相続は発生しません。相続税の支払いを目的とした株式売却をする必要はないのです。つまりこの例におけるスタートアップは創業者が亡くなっても株式4%分しか売却されるリスクはないことになります。

こうすることでスタートアップ企業は創業者の存亡に関わらず既存のすべてのステークホルダーを守ることができ、設立時に定めた長期的なミッション達成に向けて利益の再投資をし続けることができるのです。

ものレボ株式会社も先輩起業家から上記の助言を受けて、創業者の私が資産管理会社を設立・維持しています。
そうすることで株式という武器が招かれざる者の手に渡ることを防止しています。

ストックオプションの扱い

ストックオプション(SO)とは新株予約権のことでスタートアップではしばしば発行されるものです。

ストックオプションとは、発行時に認められた株価でストックオプションの権利発生日以降の株式を購入することができる権利です。

例えば時価総額10億円と認められたスタートアップがストックオプション0.1%分をとある従業員に与えたとします。
このスタートアップは幸い株式公開(IPO)して上記の従業員は3年後にストックオプションの権利を行使できるようになりました。
そのときの時価総額を300億円とします。時価総額300億円に達するまでに数々のラウンドで投資家向けに新株を発行するので、その従業員のストックオプションは0.05%となっているとします。

権利行使時期にその従業員は300億円の0.05%の1500万円の株式を10億円の0.1%の100万円で購入する権利が与えられます。(そのときの利益1400万円に課税されるか非課税かは制度によって変わりますが割愛します)

従業員にとっては魅力的な話です。その従業員は100万円で300億円企業の0.05%の議決権を買うことができるからです。
でも従業員はボーナスとして0.05%の株式をそのまま1500万円で打って1400万円の利益を得るかもしれません。
同様のことを行う従業員が100人いれば5%の株式が会社経営に対する責任を負うことなく投機的な理由で売却されます。

なのでストックオプションという潜在的な株式シェアが10%を超えると投資家が違和感を覚えたり上場での足かせになったりするそうです。

では、ストックオプションを会社が発行するメリットとは何でしょう。

ストックオプションの発行には目的が色々あります。

まず資金調達を目的としたストックオプション。投資家や日本政策金融公庫などの金融機関から資金調達をするためにストックオプションを発行することがあります。

他には従業員のインセンティブを目的としたストックオプションもあります。スタートアップは資金がないことがしばしばあります。従業員の給与を抑える代わりにストックオプションを発行し、従業員に将来のリターンを約束することで”今”を少ない給与でがんばってもらうのです。ストックオプションを発行することで従業員に対して会社経営のオーナーシップや会社の成長へのコミットを求めることもあります。
しかもストックオプションは会社を辞めると権利が無くなる契約が常なので従業員を会社に縛り付ける役割も担います。スタートアップ業界のなかではそれは一つの解として機能しています。

当社は長期的なミッションを達成するために当社の従業員の中から次のリーダーが育つことを理想としています。そのために当社は従業員には利益確定までの時間を縛って働いてもらうのではなく会社の成長を通して自身の成長を楽しんで欲しいと考えています。

従業員が自己実現欲求を追求することと会社の成長がシンクロするような雇用制度を実現すれば、社会的欲求(金銭的な心配事)や承認欲求にモヤモヤすることなく従業員がやりがいを感じながら自身の成長つながる働き方を実現できると信じています。

例えば家族を持つ従業員が、
「おれ今の半分の給料で転職するねんけど将来会社が上場したらまとまった金入ってくるねん!まとまった金が入ってくるのは7年後以降らしいで!いくらかわからんけど数千万円とか数億円になるかもしれんって言われてる!」
って家族に説明したときに家族はどう思うのでしょうか。

先述したように当社は企業理念で定めた指針の一つに感謝を謳ってます。当社が長期的で壮大なミッションの実現にチャレンジし続けることができるのはすべてのステークホルダー(顧客・従業員とその家族・金融機関・株主)のおかげです。その大切なステークホルダーの一員である従業員とその家族への感謝を伝える一つの方法が報酬と考えています。

なので当社は従業員にはストックオプションを発行する代わりに大企業並みの給与水準で(プレAシリーズ時点では超一流企業並みではないが)、会社が赤字であっても各従業員のKGI・KPIの達成率に応じたボーナスも支給されるような報酬体系を設定しています。

そして世界一の時価総額を目指した戦いをする頃には当たり前のように世界最高の報酬体系を用意することになると考えてます。

そんな当社が現時点でストックオプションを発行する対象は資金調達のための投資家・金融機関または会社の支配権を得る権利のあるフルコミットの取締役に絞っています。現時点で当社は取締役に対して上場するまでは取締役個人が会社の連帯保証人になるくらい経営に対するコミットと覚悟を求めています。

まとめ

株式を持つということは非常に重大な責任を持つということです。同様に株式の発行や流通を通してリスクを排除しすべてのステークホルダーに対する責任を全うするのはスタートアップ経営者の重要な責務です。

長期的なミッションにチャレンジするものレボ株式会社は、ミッションに賭けてくれたすべてのステークホルダーを守りつつ未来に起こりうる問題や課題解決に必要な資金需要を満足するために、足元で資金が必要な時には極力その額は抑えた新株発行(または流通)をすることを資本政策の考え方としています。

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