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「デスクレスSaaS」とは?一体何がおもしろいのか。

私が所属する株式会社カミナシでは、すべての現場を持つ法人向けのSaaSを提供しています。最近では「デスクレスSaaS」と呼ばれるカテゴリで紹介されることも多くなってきました。

私自身は、これまで人事や営業などデスクワーカー向けのSaaSを中心にキャリアを積んできましたが、現場で働くノンデスクワーカー向けのデスクレスSaaSはそれらと違ったおもしろさがあると気づき、その魅力と可能性を感じる毎日を送ってます。

今回はそんな「デスクレスSaaS」をテーマに
・デスクレスSaaSとは何か
・一般的なSaaSとの違い
・何がおもしろいのか

について、記事を書いていきたいと思います。

そもそもデスクレスSaaSとは

デスクレスSaaSというキーワード自体に耳慣れない方もいると思うので、まずは本記事での定義から書いていきます。

■デスクレスSaaSの定義
1. 提供形態がSaaS(クラウド+サブスクリプション)であること
2. 現場で働くノンデスクワーカーを対象にした製品であること
3. PCがない環境下のユースケースにUXが最適化されていること(モバイル、IoT、ウェアラブルなど)

「1」のSaaS自体のおもしろさは、すでに多くの方が発信されていると思うので、今回は特に「2」と「3」のおもしろさに絞って、書いていきます。

デスクレスSaaSの市場

全世界の労働人口の約80%にあたる27億人が現場で働くノンデスクワーカーだと言われています。(日本での推定は約47.7%)
※ソース:The Rise Of The Deskless Workforce 2018

私自身は「働き方」に個人的な興味関心があり、過去にHRTech領域のSaaSに携わった経験もあります。そして、ここ数年で業務のデジタル化は進み、働き方は大きく変わった実感を持っていました。
しかし、カミナシに入社しノンデスクワーカーが働く様々な現場を訪れてみると、そこには自分が知っているはずの変わったはずの働き方は存在せず、いまだ紙中心でアナログな働き方がありました

自分が見ていた「変わったと思っていた働き方」は世の中全体の20%にしか過ぎず、HRTechやSalesTechなどのデスクワーカー向けのSaaSがどれだけ普及したとしても、全世界の20%の働き方しか変えることはできないということに気付いたのです。

さらに、スタートアップ投資におけるノンデスクワーカー向けソリューションの投資割合は、全体の1%にしか過ぎません。

80%の労働人口に対して、1%の投資しか行われていない。

このように市場の巨大さに関わらず、IT化が依然進んでいないという点が市場としてのおもしろさであり、世の中の80%を占める人たちの働き方をテクノロジーでより良くしていく取り組みは、非常に意義があることだと思います。

市場については、Coral Capital西村さんがこちらのブログでさらに詳しく紹介されてますので、ぜひご覧ください。

デスクレスSaaSのスタートアップが次々に台頭

実際に最近では、デスクレスSaaSのスタートアップが注目を集める機会も増えています。

21年5月には現場向けの点検業務・チェックリストを管理するSaaS「iAuditor」を提供するSafetyCultureがシリーズCで約7,300万ドルを調達し、評価額約16億ドルのユニコーン企業になりました。

その2ヶ月後の21年7月にはノンデスクワーカー向けにスケジュールや業務プロセス管理を行うSaaSを提供するSkeduloがシリーズCで約7,500万ドルを調達しています。

日本でも現場で働くノンデスクワーカー向けにSaaSを提供するスタートアップのプレイヤーが増えています。
建設業界向けにはアンドパッドさん、先日上場されたスパイダープラスさんなどが先行して事業展開されていますが、シード〜シリーズA前後のスタートアップも、倉庫・物流業界向けのロジレスさん、店舗・フィットネス向けのhacomonoさん、産業廃棄物業界向けのファンファーレさんなど、ほかにも多くのスタートアップが続々と出てきています。

多くの投資家の方が、2021年の注目領域としてデスクレスSaaSを掲げているのを見ると、今後この流れはさらに加速するでしょう。

デスクワーカー向けSaaSとの違い

では一般的なデスクワーカー向けのSaaSと、デスクレスSaaSはどのような違いがあるのでしょうか。

■利用環境
一般的なSaaSはデスクワーカーがオフィスや自宅で利用しますが、デスクレスSaaSは職場にPCを持たないノンデスクワーカーが、現場で利用することを前提にしています。

■主要なユースケース
一般的なSaaSの主要なユースケースはPCです。モバイルアプリを提供しているサービスも存在しますが、あくまでPCが主でモバイルは便利機能の1つという位置付けが多いと思います。
一方、デスクレスSaaSの主要なユースケースはモバイルです。(ただし、管理者向けの機能はPCとなることが多いです)その他現場でのUXを最適化させるために、ハンディターミナルなどのハードウェアや、IoT、AR/VRなどのテクノロジーがインターフェースとして用いられることがあります。

■リプレイス対象
一般的なSaaSは、Excel管理のリプレイス市場が大きく、いかにExcel管理のペインを解決するかという点が重要視されます。一方、デスクレスSaaSは、現場で使われている紙のリプレイス市場が大きく、紙管理のペインを解決していく必要があります。

図にまとめると、以下の通りです。

メモ的なGoogleスライド

このようにデスクレスSaaSならでは特徴があり、セールスやカスタマーサクセス 、プロダクト開発まで、体系化されていない領域が多く、新しいチャレンジが必要という点もおもしろさの1つです

次に、はたらく上で具体的におもしろさを感じるポイントをいくつかご紹介します。

求められるユーザー体験の高さ

工場や店舗などの現場で働く方は、パートタイムで働く方も多く、入れ替わりが頻繁であったり、人数も1社で数百名〜数千名規模になることがあります。

また、利用ユーザーも様々で、性別・国籍・年齢などもバラバラです。カミナシの利用ユーザーの中には、70歳ではじめて使うモバイルアプリがカミナシというユーザーさんや、外国人比率が90%以上の工場もあります。

そのため、誰でも一目見ただけで使えるオンボーディング不要なプロダクトである必要があります。

また、リプレイス対象である「紙」は
・誰もが小学校からオンボーディングをされてきている
・レスポンスに遅延がなく、書いたらすぐに記録される
・起動時間を待つ必要なく、すぐに記録できる
など、こと入力体験に関しては、史上最強のプロダクトともいえます。

その「紙」と比較した時に劣らないような入力体験を作り上げないと、現場ユーザーの反対や、利用定着の段階で導入が頓挫する結果になります。

カミナシでは、主要ユースケースを完了するまでにかかった時間を計測し、紙に近い体験を実現できるように、コンマ1秒でも所要時間を削れないかと知恵を絞り、プロダクトの改善に取り組んでいます

UXリサーチの重要性

現場はオフィスと異なり、ネットワーク環境、温度・湿度、場所の広さや明るさなど利用環境が様々です。つまり、利用環境という変数を考慮してプロダクトを作っていく必要があるということです。

例えば、現場でユーザーの利用シーンを観察してみるとゴム手袋をはめながらタブレットを操作しないといけないので、縦スクロールをしづらいことがわかったり、タブレットで写真を撮影しようとすると暗い場所なので、フラッシュがないと映りが悪いことがわかったことがありました。

このように現場でユーザーがプロダクトをどのように利用しているかを直接観察したり、話さないと現場で最適なユーザー体験は作れません

そのため、カミナシでは「現場ドリブン」というバリューを掲げ、エンジニアやデザイナーが現場に足を運ぶ文化を大切にしています。最近では、デザインチームがユーザーインタビューのプロセスを体系化し、得られた知見を集積していくようなフローも作ってくれており、UXリサーチのプロセスを進化させるべく日々取り組んでいます。

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ユーザーが日常の中で身近な存在

働き手にとってはユーザーを日常生活で感じる機会が多いという点は、やりがいを感じる点です。

カミナシに入社して以来、コンビニや飲食店を訪れる度にバックヤードの業務オペレーションが気になるようになりましたし、カミナシユーザーであるオフィス近くの焼肉チェーン店にご飯を食べにいっては、スタッフの方にプロダクトの感想を聞くようになりました

食品製造業のお客様も多いので、惣菜や弁当の製造元を確認するのが習慣になり、お客様が作っている商品を買って「この美味しいご飯を作る過程に少しでも貢献できているんだな〜」と実感するようになりました。

このように、プロダクトを通して世の中が変わっていることを実感しやすい手触り感のあるビジネスをできるというのは、デスクレスSaaSのおもしろさの1つだと思います。

ソフトウェアと物理的な世界がつながる

SaaSの世界では、ここ数年でソフトウェア同士がAPIを通じてオープンに連携してユーザーの利便性を高めるという動きが一般的になっています。

SlackやSalesforceなど海外の巨大SaaSはもちろん、国内でもfreee、SmartHRなどのSaaS企業がサードパーティー製のアプリストアを展開するなどしてサービス間の連携に積極的です。

デスクレスSaaSでもプレイヤーが増えるとともに徐々にサービス間の連携が進み、オープン化が進んでいくと考えています。
ただし、デスクレスSaaS独自の発展として、ソフトウェア同士だけではなく、ソフトウェアと物理的な世界がつながる未来が近々くるのではと感じています。

例えば、SaaSが以下のものと連携すると、どんなことが実現できるでしょうか。
・IoT(ex.センサー、製造機器など)
・VR/AR(ex.スマートグラスなど)
・ロボット、ドローン

特に製造業ではスマートファクトリー化の流れからIoT活用が加速していくでしょう。特に工場内の点検や記録などの定型業務は、IoT化により自動化できる余地が大きいです。

そのほか現場でのARの活用・検証も進んできています。例えば、建設業界では、ARを利用して施工中の建築物と設計図の照合を視覚的に行えるプロダクトが次々とリリースされていたり、スマートグラスを活用し製造現場で作業しながらマニュアルを見れるようにするプロダクトが開発されるなど、これからも新しい取り組みはどんどん出てくるでしょう。

カミナシでも昨年にはIoT温度計の製造メーカーと業務提携を行っていたり、小さいものでは、IoTメジャーを使って「長さを測る→結果をメモする→データ入力する」という計測作業を自動化できないかとプロダクトとのAPI連携を検証するなど、少しずつ取り組みが始まっています。

もしかするとカミナシを使って、「タブレットから完了ボタンを押したらドローンが自動的に点検作業をはじめる」という未来の可能性もあるかもしれません。

このようにSaaSから物理的な世界への広がりというのは、これまで無かった取り組みで個人的には非常にワクワクしますし、近い将来にカミナシでも実現していきたいなと思っています。
(こういった領域で情報交換いただける方はぜひご連絡ください)

デスクレスSaaSへの人材大移動は起きるか

最後に、個人的な考えですがスタートアップの人材流動の流れは3-5年スパンで定期的に起こっていると感じています。少し前まではソーシャルゲームやCtoC、ここ数年はBtoB SaaSにスタートアップ界隈の人材が流れてきた印象を持ちます。

そんな中、最近ではデスクレスSaaSのスタートアップにハイクラスな人材が転職したという情報を目にする機会も増え、カミナシにもSaaSスタートアップでCXOや事業責任者などの役割を担い、活躍してきたメンバーが続々と入社してくれています。

これまで書いてきた通り、デスクレスSaaSは市場の可能性や取り組む意義、SaaSとはまた別のおもしろさがある領域です。

特に上場を終えたSaaSのメガベンチャーも増える中、今後スタートアップ界隈の人材がデスクレスSaaSのスタートアップ各社に流れていく可能性は大いにあるのではないでしょうか。

デスクレスSaaSのスタートアップで働くことに興味を持ってくださった方は、ぜひカミナシの情報も見てください!

以上、今回はデスクレスSaaSをテーマに記事を書いてみました。
定期的にTwitterやPodcastでも発信をしているので、よろしければフォローしてください!

Twitter:@yusuke_kawauchi
Podcast:カミナシSaaS FM

おまけ

デスクレスSaaSをテーマに開催した過去イベントのイベントレポートのリンクです。こちらもぜひご覧ください。




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