【258】父と子は沈黙はあの日のまま
父と子供だけの組合せ、これって我が家では意外ほどに珍しい。マンツーマンはありそうでないのだ。
子供が5人いて、上は二十歳手前から下は小学生の娘。一人だけと共に行動ってのは少ないものだ。
散々、stand.fmで好き勝手しゃべっているくせにも関わらず、実は親子マンツーマンではほとんどしゃべらないのは父親の私で。
いやはやこれはもう昔からなんだ。
本来は人前でしゃべるタイプでもなければ、人見知りで、コミュ障な方なので。
それはまぁ言い訳としても、子供と父親の構図(マンツーマン)になると何を喋ろうかやたらと言葉を選ぶ。
日頃から会話が多くないこともあるから、そのせいもあって珍しいシチュエーションでいろいろ話したいなぁってなるのだ。
意中の女性とたまたま帰り道が同じになったときのドキドキ感みたいなものだ。いや、父親がそれじゃ困るけど、なんにせよ不器用なんすよ。
さて、本日のマンツーマンは長男。
ちょっとスマホの機種変に付き合う話をしていて、やっとこさ時間が合ったから、ぶらりスマホを見に行ってみた。
私が運転する車内はそう静寂。
初めてのデートかよ!ってな具合の空気だ。
*
運転席でハンドルを握る父親の私、後部座席には友人が一人乗り込む。助手席には長男が座る。
もう15年ほど前にとある子供向けのイベントに行ったときのことだ。
なんだかそれは記憶に残ってて。
それはもうその沈黙と言うか、弾まない親子のやり取りで。思えば二人きりになるなんて、ほとんどなかったから。母親もいることが当然多かったから、会話って意識的に二人きりでしていなかったんだろうな。
だから、
いつもこちらからの一方的な言い方に対して「はい」と返事をさせるだけになっていたのかも。
指示とか「⚪⚪しなさい」とかそんなのばかりだったんだ。言って動かしているだけ。
今思えば、意思とか気持ちとか、もっと言うと子供が何を考えているのかなんてさほど考えてなかったかな。
子育てなんて教科書は読んだことなかったし、授業でも受けてこなかった。そもそも若くして親になった。
自分自身がまだ大人としても未熟だったのに、それで子育てってね。その点、母親になる女性は気持ちが整ってると思うのだ。
もちろん、相当な心身共に受ける負荷はあれど、それでも子育てを《楽しむ》ことをしている。
言うなら成長をしっかり感じているんだろう。
*
友人がコソッと言った。
「パパと息子の会話ってないの?」
言われてみたらそう。やけに沈黙で。
パパは怖い人のイメージは小さい頃は強かっただろうから、余計に萎縮してたのかも知れない。
少し話を振るけど、ちょっと小さな声で返す程度なんだ。
会話のキャッチボール?そうじゃないね、あれは。
なんともスッキリしない感じの道中、父親と友人の会話を黙って聞いてただけの幼少期の長男を助手席に乗せて。
まずいなと思ったのは、その車内の空気が微妙な感じになったことと、それまで子供としっかりコミュニケーション取れてなかったことだった。
イベント会場では催しがあるので、誤魔化しが効いたけど、それは帰りの車内でも同じ。
それまでに馴染んだ友人との会話の方がよっぽど楽しそうに弾んでいた。
なんかそれが切なかった。
誰も責められやしない現実だった。
そのときは、逆に友人がいてくれて良かったとさえ思えたし、間の持たないままでは息子に申し訳なかった。
*
相変わらずだよな。
こんなにも時は経ったってのに、運転席の父親と助手席の長男は沈黙なまま。ずっとこうして来たんだな。
ほんの少し父親は老けて、長男の体は大きくなった。
だけど、漂う空気はあのときのまま。ダメだよな。
そんな風に夕暮れ時の街並みを右に眺める。
目的地に到着する少し前、こりゃ辛抱ならんと私から口火(?)を切る。
「学校はいつまでオンラインなのよ?楽しい?」
なんて、当たり障りのない話。でも、聞きたいことだったから。
それからすぐに迫る将来のこと、仕事のこと、人との関わり方のこと、情報を集めるべきということを話した。
息子は頷きながら、言葉少なに返事をして考えてることを話した。
大きな進歩。そんなふうに苦笑いした、このやり取りだ。
Twitterやってるんだ?へぇって思ったりね。
そんな、やり取りでも妙に身軽になった。
身軽になったのは紛れもなく父親である私だけど。
あのときのままじゃいられないだろ。さすがにさ。
親として、してあげられることはあとどれぐらいあるだろうか。
成長を促し支える年頃とは違い、巣立つ未来へ背中を押してあげるのが今だ。
もう大人として考えを尊重しないと。
なんだか、幼少期よりも私は今の方が接しやすい。
そこには押さえつけるような感情は無用で、荒々しい必死さもない。
今の私にしてあげられるのは経験したことを伝えることと、今起きている時代を教えてあげること。
未来をつくるのは私ではなく、この先を切り開く彼らだから。
必要以上に会話はいらない。
ただ、互いにこうして話して前進の感触を確かめることは必要だろう。
父親にしてもらえなかったことが私にもたくさんあるけど、父親に出来なかったことでも自分に出来ることがあるから。
ちょっとずつ話してみよう。父親は不器用な生き物だ。
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