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【1年1組11番、11月11日生まれ】これ本当なんだよ #こんな学校あったらいいな

「いやぁ、久しぶりだなぁここに来るのも」メガネをかけたおじさんが言っている。
すると隣にいるその人より少しお兄さんに見える男の人が「そりゃそうだ小学校なんて卒業してから来たことあるか?」と答えている。

なんだか楽しそうに話ながら正門から昇降口へと向かっている。
おじさん達の声は低くて太いせいか、やたらとグラウンドにも響く。
ボクは朝の掃除を終えて、掃除用具を片付けて教室に戻るところで見かけた二人の姿だった。

「きっと先生が言ってた大人のお客さんだ」

そう思って二度三度振り返りながら、その二人のことを見た。
大人の人が学校に来るのにどうしてあんなに楽しそうなんだろう。僕たちは難しい勉強をやらされて、先生に怒られたりで、楽しみと言ったら給食と休み時間のドッジボールしかないってのに。

足早にボクは教室へと戻った。

「はい、皆さんもうチャイム鳴りましたよ」
担任の川上先生が少し強めの口調言いながらで教室に入ってきた。
今日の1年1組はいつも以上に騒々しい。
よく見ると先生もいつもはもっとカジュアルな服装なのに、なぜか綺麗な服装で雰囲気が違う。

それに気付いたダイ君が「ねぇ、先生なんでオシャレしてるんですか?」なんて、からかうように言う。
川上先生は人差し指を自分の鼻の前に立てて「静かにしなさい」とジェスチャーで示す。

「今日はね、昨日お話したけどお客さんが来ることになってます」先生が言う。

「掃除の終わりのときに見掛けた大人の二人のことだ、きっと」ボクはみんなより先に見つけたことで、妙な優越感に浸っていた。
子供って、内緒話を自分だけが知ってると偉くなって特別な人になったみたいで嬉しくなるんだ。

でも、これはどうやら大人の人も同じらしいね。
誰だってみんな秘密を持ちたがるものらしい。なんでだろうね。

先生が続ける。
「でも、今から来る人はお客さんではありません」

30人の生徒が一斉に静まり返る。
頭の上には「?」こんなとこだろう。

「え、でも先生昨日はお客さん来るからねって言ってたじゃないですか」と、今日の挨拶当番のさやかちゃんが言った。

「そうね…今から教室に来る人はみんなと同じ生徒なんですよ。だから、みんなと一緒にお勉強して、給食も食べるからね」先生は少し楽しそうに話す。
それじゃ…と、先生は言いながら入口の扉を開ける。

すると二人の大人の男の人がランドセルを背負って入ってきた。
ボクは驚いた。だって、確かにさっき見た二人なんだけどランドセルなんて背負ってなかったからだ。

二人は川上先生よりも背が高く、ボクらが見上げる川上先生がまるで子供みたいに見える。

「では!みなさんに新しいお友達を紹介しますね」

戸惑うみんなに先生が話す。

おじさんの男の人が自己紹介をする。
やっぱり声が大きい。なんだか先生みたいだ。
「大山タケル、40歳です」

そして、続いて若めの男の人も自己紹介を続けた。
「小林マサト、40歳です」少し優しそうだけど声は大きい。

よく見たら背負ってるランドセルは少しボクらよりも大きめだけど、それでも窮屈そうだった。
何よりも「40さーい?」クラスメイトが口々に言い出す。当然の反応だ。新しい友達が40歳ですって。

もう何がなんだかわからないって。
先生だけ、なんにもいつもと変わらない感じで淡々と進める。ちょっとオシャレしてるくせにそれ以外は変わらない。

タケル君は窓側の席に、マサト君は廊下側の一番後から1つ前の席に座った。
マサト君、ねぇ黒板見えないよぉ。なんで先生はクラスで一番ちびのボクの前に席を決めちゃうんだよ。

タケル君もマサト君もボクらと同じように授業を受けた。
漢字の山とか、川とかも一緒に習った。
たし算も習ったし、タケル君は頑張って手を上げて発表もしてた。なんだか楽しそうだった。
そうそう、マサト君はいつも優しくて、黒板見えないボクのために体をものすごく小さく丸めてくれてた。
先生、席を変えてあげようよ。


給食は40歳の二人には多めに当番がカレーをよそってあげたら「みんなと同じでいいよ」ってマサト君が言っていた。

休み時間のドッジボールでは、二人は別々のチームになっていたけど、体が大きいから一番のターゲットになっていた。
みんなやることズルいよな、同級生だから手加減なしなんだろう。

こうやって、40歳の同級生はボクらのクラスに溶け込んで行った。
数日も経てばすっかり仲良しの友達だった。

ある日、ダイ君が泣いていた。
クラスメイトが「ボクの言うことは嘘だって言うんだ」って声を震わせて泣いていた。
どうやら自慢話をしたけど信じてもらえなかったみたいだ。気の毒と言うかなんと言うか。

タケル君が低い声で泣いてるダイ君に語りかけた。
「目に見えないこととか、他の人が知らないことってさ、信じてもらえないことがあるんだよ」
「だけどね、自分にとって大切なことであればそれはダイ君の胸の中に大切に締まっておくといいよ」

いつも優しいマサト君じゃなくて、タケル君からの言葉にダイ君は「わかった」と頷いていた。

タケル君は笑いながら話してくれた。
「あのね、みんな。友達が一生懸命になっていたら聞いてあげよう。まず受け止めてあげようよ」

なんか先生に怒られたときみたいに、みんな半べそかいて頷いてた。

先生がある日話してくれた。ちょうど2人はいないときのことだ。
どうして40歳の同級生が来たのかってこと。

タケル君とマサト君はこの小学校の生徒だったみたい。
最近出来た国の新しい制度があって、自分が卒業した小学校に再入学出来ることになったんだって。
入学だからランドセルも背負ってるし、みんなと同じ授業も受けているらしい。
でも、そんなことを大人になってどうしてするのかはわからなかった。

だけど、それはずっとじゃないよって教えてくれた。

それを聞いたらちょっと寂しい気持ちになった。サヨナラしなきゃならないんだ。

そう思ったら目の前に毎日見えているマサト君のおっきな背中もずっとそこにいて欲しくなった。
先生、やっぱもう席変えないでいいや。

それから、数日間は変わらずにタケル君とマサト君とボクらは一緒に過ごした。
タケル君は誰よりも算数が楽しそうだし、マサト君は相変わらず給食は控え目だ。

今日の先生は、久しぶりにあの日と同じように綺麗な服装で教室にいる。
帰りの会が進む。すると先生が話を始める。

「今日はね、みんなに残念なお知らせがあります」
なんとなく予感はしてたけど、期日は聞いてなかったから、みんな動揺してざわついていた。

タケル君とマサト君が前に並ぶ。
やっぱり先生よりも大きな二人が並ぶのは変な感じだ。

タケル君から挨拶をしてくれた。
「ボクは子供の時にこの小学校にお世話になったんだ。みんなと同じクラス1年1組だったんだ」
聞いてよ、と続ける。
「ボクはねそのとき1年1組11番、11月11日生まれだったんだ」

みんな「えー?嘘でしょ!」と言う。

「そうなんだ。これは本当なんだけど、あまりに嘘っぽくて大人になって話しても信じてもらえなかったな。ねぇ、ダイ君話しただろ。自分の胸の中に大切に締まっておくといいよって」

「ボクにとっては大切な思い出だから、こうしていつまでも覚えてるんだ。まぁ、これは忘れっこないけどさ」と笑っている。

マサト君も挨拶をしてくれた。
「ボクも同じく1年1組だったよ。13番だったし、誕生日はゾロ目なんかじゃないけどね」と照れ臭そうに笑う。

「ボクとタケル君はみんなとクラスメイトになることでいっぱい勉強させてもらったよ。漢字もたし算も楽しかった」
「ボクたち二人が突然来たとき、みんなビックリしてたのは見ていてわかったけど、こうして今は仲良しになってくれたことが本当に嬉しいんだ、ねぇずっと友達だろ?」なんて言ってマサト君はボクの方を見た。

ボクはもう寂しくて悲しくて涙が止まらなくて「うんうん」って声にならない泣き声しか出なくて。

「これはこれから未来へ向かう大切な友達に向けたメッセージだよ」と、タケル君が言った。

「少しずつ成長していくとたくさんの出会いがある。たくさんの辛いこともある。すべてが経験となって、その経験がキミ自身になるんだ」

「そうしたときに、例え歳が離れていようとも受け入れて仲良くしてくれることは大切なことなんだ」

「男の人、女の人だけじゃなくて、性別や年齢や人種みたいなもので区別することなく、みんなが仲良しになれたらね、みんな幸せになれるんだよ。それをね、ボクとマサト君と仲良くしてくれたように忘れないで欲しいな。約束してよ」

気が付いたら、先生も泣いちゃってた。

40歳の友達はボクらクラスメイトにとって、ずっとずっと友達だ。
大切なことをこうやってたくさん教えてくれるために、こうして再入学して来てくれたんだね。

タケル君、マサト君ありがとう。忘れないよ。

#こんな学校あったらいいな

◆大人になれば、どうしても子供の視点になって考えることは難しくなってしまします。親子間だけでなく、教育の根幹である学校で今一度、大人が子供と同じ立場になって同じ学校生活をする。もしかしたら、それは現実的ではないのかも知れませんが、大人が伝えられる価値観やこころを育ててあげられることについてはたくさんあると考えています。

こころが健やかで、今を精いっぱい楽しめることが明るい未来を創るんだと私は考えています。

大人だって、もちろん子供でした。かつての自分自身と照らしながら、経験を伝える仕組みがもっと出来ると、子供たちはもっと大人になるのが楽しみになるはずです。そう信じています。

サポートして頂けるなんて本当に感激です。その気持ち、そのひと手間に心から感謝します( *´艸`) たくさんのnoteから見つけて下さりありがとうございます!!