「新型コロナウイルス問題」は交響管弦楽の鑑賞のあり方を変えるか

6月下旬から、東京交響楽団や新日本フィルハーモニー交響楽団などの職業楽団が演奏活動を再開し、今月に入ってからは各団が来場者や演奏者の数を制限し、社交的距離の確保に配慮しながら演奏を予定していることは周知の通りです。

その際、来場者数が制約されることに対応するため、多くの場合で演奏の模様がインターネットなどで実況中継されています。

新型コロナウイルス感染症の治療薬の実用化や普及が実現するまで、たとえ当局による演奏会場の来場者の制限が緩和されたとしても聴衆が以前のように来場するかは分かりません。そのため、今後はこれまで以上にインターネットなどを利用した演奏会の実況中継の利用が活発になると考えられます。

このとき、主催者側にとっては撮影や録音の機材の質を高めて高品位な中継を行うことで事業化し、演奏会への来場者の減少に伴う収入不足を補おうとするでしょう。また、財政面でのゆとりのある団であれば、あるいは録画による事後的な配信を行い、新たな収入源を確立しようと試みることになります。

こうした取り組みは、人々が交響管弦楽に接する機会を増やすという意味で、職業楽団が担う重要な役割の一つである愛好者の裾野を広げることに繋がります。

また、もう一つの重要な役割である芸術性の追求という点に関しては、演奏会場で聞き手が発せられる音や会場の雰囲気、さらに作曲者と演奏者に加えて聴衆も一つの作品を成立させるという観点[1]からは、実況中継のさらなる普及が聞き手の鑑賞や作品のあり方そのものにいかなる影響を与えるかが注視されるところです。

もとより、演奏会場に演奏を聞くために、あるいは劇場に舞台を鑑賞するために赴くというあり方は19世紀に入って確立された様式であり、それ以前は演奏会場や劇場の担う主たる機能が社交の場であったことは、広く知られるところです[2]。

それだけに、西欧においては市民社会の勃興が新しい鑑賞のあり方をもたらしたのと同じように、「新型コロナウイルス問題」がこれまでわれわれが当然と考えてきた交響管弦楽や器楽などの鑑賞の様子を徐々に姿を変えることになるかも知れないと言えるでしょう。

そして、こうした変化は、交響管弦楽に止まらず、演劇や演芸などを含む、集客型の芸術活動にも生じるものなのです。

[1]鈴村裕輔, 録音が音楽に与えた影響について. 哲学年誌, 33: 1-16, 2002.
[2]鈴村裕輔, コロナで模索が始まった「新しい日常」のコンサート・演劇のかたち. 論座, 2020年6月3日, https://webronza.asahi.com/national/articles/2020060300007.html (2020年7月14日閲覧).

<Executive Summary>
An Outbreak of the COVID-19 Will Bring a New Form of Orchestral Concerts and Theatrical Performances (Yusuke Suzumura)


An outbreak of the COVID-19 will bring a new orm of orchestral concerts and theatrical performances and it might be rational changes. Since no form can be unchanging.

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