「長期戦の覚悟」を指摘した安倍晋三首相は記者会見を適切に活用できたか

今夜、安倍晋三首相は首相官邸で記者会見を開き、新型インフルエンザの対策などを説明しました[1]。

記者会見において、安倍首相は「(新型コロナウイルスとの)戦いは長期戦を覚悟していただく必要がある」という趣旨の発言を行いました。

安倍首相の発言はこれまでに比べれば踏み込んでいるものの、現下の状況に鑑みれば適切というよりは、むしろ遅すぎるともいえる認識の表明と言えるでしょう。

それとともに、3月19日(木)行われた専門家会議の現状分析と提言[2]が今後の感染拡大の取り組みの難しさを訴えていたのにもかかわらず「間違ったメッセージ」として人々に受け止められ、 3連休中の行動をもたらす遠因となったように、今回の安倍首相の発言も「長期戦なら、生活物資の買いだめだ」と人々の衝動的な行動を促すことになる可能性があります。

緊急経済対策については、財政規律の維持の重要性は十分に理解できるものの、一人ひとりの国民や居住者の生命が危険にさらされ、企業活動も委縮したままであるなら、経済の基盤そのものが崩壊することは明らかです。こうした状況を考えれば、「財政規律を優先して国力が削がれる」という事態だけは避けなければなりません。

従って、「税の減免措置」や「金融政策」だけに止まらずあらゆる政策を「総動員する」という安倍首相の発言は適切です。

今後は、その適切な理解を適切に実行するだけの政治的な指導力を躊躇なく発揮することが安倍首相には求められます。

その一方で、「一気に日本経済をV字回復させたい」という安倍首相の発言は強気で、「市場向け」ではあるかも知れないものの、具体的な方策が伴わなければ希望的な願望となります。

また、「旅行」、「運輸」、「外食」、「イベント」が新たな需要喚起策を講じる分野として挙げられてはいるものの、いずれも消費者の可処分所得が足りないために消費が停滞しているのではなく、現在の状況がこれらの分野の利用を難しくしていることを考えれば、必ずしも適切な施策とはなりません。

むしろ、最も確実な「新たな需要喚起策」は「新型コロナウイルスの感染拡大の徹底した防止と治療体制の拡充」なのですから、この点を具体的な数値や時期を明示しつつ、より一層強調すべきであったと言えるでしょう。

その意味で、安倍首相は折角の重要な機会を必ずしも活かしきれていなかったことになり、「努力して事態に取り組む」という決意表明の域を脱し得なかったことになるのです。

[1]首相、最大規模の緊急経済対策を指示 新型コロナ対応. 日本経済新聞電子版, 2020年3月28日, https://www.nikkei.com/article/DGXMZO57375310Y0A320C2MM8000/?n_cid=BMSR2P001_202003281816 (2020年3月28日閲覧).
[2]鈴村裕輔, 「専門家会議の現状分析と提言」が持つ意味は何か. 2020年3月20日, https://researchmap.jp/blogs/blog_entries/view/76353/9a61437a71b001e5b1d249fc459d969c?frame_id=435622 (2020年3月28日閲覧).

<Executive Summary>
What Is a Meaning of Prime Minister Shinzo Abe's Latest Press Conference on the COVID-19? (Yusuke Suzumura)

Prime Minister Shinzo Abe held a press conference and explained a plan for measures of the COVID-19 on 28th March 2020. It implies that Prime Minister Abe failed to apply this opportunity to show his will to control the situation.


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