「大谷とルースの比較」はいかにして可能か

現在、大リーグで関心を集めている話題の一つは、ロサンゼルス・エンゼルスの大谷翔平選手による「ベーブ・ルース以来の2桁本塁打2桁勝利」の達成の可否です。

ベーブ・ルースが「2桁本塁打2桁勝利」を達成したのは1918年のことですから、現在9勝を上げている大谷選手が達成すれば、1918年以来の出来事となります。

昨年、大リーグ機構がニグロ・リーグの記録を公式記録として認定しました。そのため、公式記録全体としては1922年のブレット・ローガン投手以来99年ぶり、大リーグとしては103年ぶりの記録達成となりますから、大リーグ機構を筆頭に日米の報道機関などが様々な観点から大谷選手の記録を分析し、検討を加えるのは当然と言えるでしょう。

ところで、ここで注意しなければならないのは、「2桁本塁打2桁勝利」が103年ぶりに達成される記録であるという事実と、「大谷選手はベーブ・ルースより優れているか」といった選手同士の比較とは別の事柄であるということです。

もちろん、記録の上で両者を比較し、「1918年のルースは11本塁打、13勝であった」、「今季の大谷選手は本塁打を何本打ち、何勝した」と述べることは、事実に基づいています。そのため、誰もが検証可能ですから、意味のある比較となります。

これに対し、「1918年のルースのホームランは11本だったのに、大谷選手は40本を超えていた。だから大谷選手の方が打者としては優れている」とか「ルースの防御率2.22だったのに、大谷選手の防御率はこれくらいだから、投手としてはルースが上」といった議論の場合はどうでしょうか。

両者の選手としての位置付けの比較そのものは、様々な視点からの検討が選手の像や成績の特徴などを考える上でも意義のある手法の一つとなります。

しかし、一見すると記録に基づいているように思われるものの、実際には誰もが同じ結論に辿り着けるわけではなという意味において、検証可能な議論ではなく、「ルースは大谷選手より優れていた」、あるいは「大谷選手はルースよりもすごい」とは結論付けることは難しいものです。

むしろ、時代が異なるだけでなく、球場の広さや使用されていた球の性質の違い、戦術や技術、さらに本塁打の位置付けまでが異なる環境にあった両者を同列に論じることは、ルースの価値だけでなく、大谷選手の評価そのものを誤らせることになりかねません。

その意味で、記録そのものと記録を手掛かりとして選手を評価することとは、用いられる手法が異なるとということに十分注意し、慎重であることが求められると言えるのです。

<Executive Summary>
Is It a Meaningful Discussion to Compare Shohei Ohtani with Babe Ruth? (Yusuke Suzumura)

Mr. Shohei Ohtani of the Los Angeles Angels is close to achieving both double-digit victories and homers in a single season which is the first record since Mr. Babe Ruth in 1918. In this occasion we examine a meaning to compare Mr. Ohtani with Mr. Ruth.

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