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「Tell Me Why」感想:現実と非現実の微妙な交差が生み出す、トランスジェンダーと家族関係


ゲームのメインな物語に対するネタバレはありませんが、細部のネタバレやスクリーンショットを掲載しているため、ご注意ください。


Tell Me Whyとは

Tell Me Whyは、Life is Strangeシリーズでお馴染みのゲーム開発会社、Dontnod Entertainmentによる最新作です。
Xbox OneとSteamで遊べるのかな? 私はSteamにて遊びました。PS4、SWITCHでは販売されていないですね。

私自身、Life is Strangeが大好きで、続編(前日譚)のLife is Strange: Before the Storm、Life is Strange 2(その前日譚のThe Awesome Adventures of Captain Spiritも含む)全てプレイしており、全て大満足しています。
ある意味で、DONTNODの作品には全幅の信頼を寄せているわけです。

本田翼さんもお勧めライフイズストレンジ


そんなDONTNODの新作、Tell Me Why。
全3チャプターに分けられており、8月27日にチャプター1配信、9/3にチャプター2、9/10にチャプター3が配信されました。(日本時間は各配信日翌日の午前1時~2時頃)
日本時間の深夜配信でしたが、PCの前で待機し、配信されるとすぐにプレイしていました。


ゲームシステム

Life is Strageのように、やはり今作でも物語の重要な要素として組み込まれているのは「超能力」。そして、プレイヤーに求められる「選択」。
今作での超能力は、テレパシーおよび過去の記憶の具現化&共有です。

主人公は双子のタイラーとアリソン。2人は小さい頃からお互いの声を頭の中で共有できていました。そのため、誰かが目の前にいても、口に出すことなく2人で相談することが出来る。これがひとつ目の超能力です。

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ふたつ目の超能力は「記憶の具現化&共有」です。
これは見た目やアクションからしても、今作のメイン要素でした。
タイラーとアリソンは、過去の記憶を思い出す...というよりは、記憶をもとにしたぼんやりとした映像として見ることが出来ます。

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これはいつでもどこでもというわけではなく、決められたポイントでの、ある意味ストーリーテリングのひとつとしての演出です。
決められたポイントでアクションを起こすと過去の情報をプレイヤーは知ることが出来、ああ、そういう過去があったんだ、と把握することが出来ます。

というのも、このゲームは初めから過去に何があったかを詳しく説明するタイプのゲームではありません。物語を進めていくにつれて、段々と過去の事件の詳細がわかってきます。
ゲーム開始時点、序盤では、「よくわからないけど母親であるメリーアンがかなり精神的に不安定な人物で、タイラーもアリソンも忌避していた」ということは認識できるのですが、具体的にどんな生活だったかはあまりわかりません。

そのため、この「過去の状態を目で見る形で思い出す」というのは、それこそ言葉で伝えられるよりもはっきりと物語を理解できる要素となっています。

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「選択」する物語
今作でもまた、また、また、プレイヤーは選択をしないといけません。

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当然、この画像のようにセリフの選択もあるのですが、先ほど記載した「超能力」において選択を迫られることがあります。

一例を挙げますと...

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これはチャプター1で母と買い物に来たときの記憶を思い出すシーンですが、面白いのは今回超能力を使えるのが2人、というところ。
タイラーとアリソンがそれぞれ自身の立場から過去を思い出すことが出来るのですが、ここでは「母親が店内で怒っていた」のか、「母の友人である店員が怒っていた」のか、どちらの過去を思い出すのかを選択することとなります。

そして、その過去が「真実の過去」となり、物語が展開していくのです。
この選択がこのゲームのメインと言ってもいいと思います。超能力を使うか使わないかではなく、使った先の結論を選ぶという新しい選択システムです。

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チャプタークリア後には、過去作と同じく他のプレイヤーも含めた選択の統計を見ることが出来ます。

今までのDONTNODのLife is Strangeシリーズと同じように、選択する時点ではどっちを選んだらいいのかわからないような選択。今作でも同じでした。
そしてやはり、そこで迷うこと、迷って選択した結果がどうなるかが、このゲームの醍醐味です。

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よりリアルになったビジュアル

Tell Me Whyで過去の作品と違うな、と思ったのは、キャラクターや風景の描き方が従来のLife is Strangeシリーズとは異なり「リアル寄り」になっていることです。

まず、主人公のタイラーとアリソンが非常にリアル。Life is Strange 2と比較しても、その見た目のリアルさ、つまり現実にいそうな顔の造形は、違いが明らかです。

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Life is Strange 2


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Tell Me Why


また、冒頭でタイラーとアリソンがフェリーに乗るシーンや、生まれ育った家へ行くシーンがあるのですが、遠くに見える風景が非常に美しかったことに、プレイ早々に驚き、心を奪われました。

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物語

タイラーとアリソンが、10年前に死んだ母親が死んだ真相を突き止めようとするのが物語の大筋です。
ゲームは、過去に一人の子どもが警察署で「母親が自分を殺そうとしたから刺した」と、震え、落ち着かない様子で証言するシーンから始まります。

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その演出の後、時代は過去から現代になり、タイラーが、ファイヤーウィード(おそらく少年院ほどではないが、非行を行った少年少女が更生するような施設なのかと解釈しました)を離れて出ていくシーンからプレイヤーの操作が始まります。10年ぶりに会う双子のアリソンの車で、生まれ育った町へと帰るタイラー。

タイラーとアリソンは、幼少期に自分たちの住んでいた家を売却するために、その家へ向かい荷物の整理を始めます。

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そもそも、母親であるメリーアンに対しては、過去の思い出から最悪の印象を持っている二人。母親への愛情という点では全く感じられません。


そんな中、メリーアンの部屋を調べていくうちに、自分たちの知りえなかった情報を知り、事件の真相を確かめるために奔走する、という物語です。

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感想

過去のLife is Strangeシリーズと同じく選択が重要な今作。
この作品でも、インターネットを通じて、自分が選んだ選択を他のプレイヤーも同じように選んだか、または別の選択肢を選んだかがわかります。
今までの作品と同じく、2択の選択肢において、それぞれの選択をプレイヤーの何%が行ったかがわかります。

初代Life is Strangeをプレイしたときは、最も重要な選択肢が見事にほぼ五分五分であったことに、ゲームのストーリーテリング、およびプレイヤーを迷わせる演出のうまさに驚嘆しました。

一方で今作ですが、私がプレイした時点では、重要な選択肢でのプレイヤーの選択が、多数派と少数派にかなりしっかりと分かれていた印象でした。

正直なところ、ストーリーの流れからすると「迷うけど、さすがにこっちだよなあ」という選択が多かったのかなと思います。
つまるところ、ストーリー上の感情の揺さぶりや、選択肢を悩み、葛藤するという部分についてはどうしてもLife Is Strangeシリーズに比べて抑え目だったかなと感じました。

それはもちろん、この作品が合計3エピソード(Life is Strangeは5エピソード)であるということも関係していると思いますが、それよりはどちらかというと全体的に「コンパクト」な作品であったというのが理由だと思います。

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このゲームが持つ「コンパクト」な印象
チャプター数が少ない分、当然登場人物や舞台となるロケーションが限定されてきます。また、旅をするわけではなく、家や警察署など限られた場所で物語が展開していくので、その部分でもコンパクトさが感じられました。

コンパクトだから何か悪いわけではないのですが、どうしてもDONTNODの作品と考えると地味さが目立ってしまいます。
Life is Strangeでの時間を巻き戻しや、Life is Strange2での物質を持ちあげるサイコキネシスではなく、今作のテレパシーや記憶の視認という点もややおとなしめな超能力でもあります。そして何より、主人公のタイラーとアリソンが精神的に大人なのです。

正確な年齢は覚えていませんが、おそらく20歳前後でしょうか。行動が理論的で、しっかりと物事を考えてから動くような印象でした。もちろん感情的になることもありますが、そこもやはり大人であるという感情のリミッターがあるように感じました。

クロエやダニエルのような、若く感情に任せた行動をする主要キャラクターがいないため、常識の幅を出ないのです。
このあたりでも、物語展開がとても破天荒になることはなく落ち着いた、箱の中で物語が展開しているような印象でした。

そして、大人なのはキャラクターの年齢だけではなく、このゲームの扱っているテーマもそうであったと思います。

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深い理解が必要な「テーマ」
この作品のかなりコアなテーマとなっているもののひとつが、トランスジェンダーについてです。私自身が勉強不足なことが最大の理由なのですが、トランスジェンダーのキャラクターの心情についてが、今一つ把握しきれていないところがありました。

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例えば、超能力を授かったキャラクターなら、その戸惑いや不安、高揚感などをほとんどの作品では細かく説明してくれると思います。しかしこのゲームではそこまでの説明はなかったように感じます。
このゲームではあまりそのあたりが詳しく説明されることはなかったように感じました。

トランスジェンダーの人や話題については、どこか周りのキャラクターも接し方を試行錯誤しているような印象を受け、同時にその話題を自然と避けようとしているようでした。
そのため、この辺りは私自身、没入するほどの経験値が不足しており、キャラクターの心理を感じる能力に不足してしまったところがありました。

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そしてもう一つのテーマは、家族愛、親子関係であると思います。
これは物語の核心に迫る部分であるため詳しくは書きませんが、様々な問題を抱えた親が子供に対してどのように接するか、どのような思いで接していたか、というところは非常に深い内容でした。

ですが、その分おそらくかなり「大人向け」な内容であると思います。

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この物語を咀嚼するには、トランスジェンダーの人とその家族といった、ある種専門的な内容について理解する必要があるのではないでしょうか。

昨今LGBT等について社会的に理解が深まってきたのを感じますが、しかし100%ではないと思います。年代によっても、差別的な行動や発言を行う人がまだ見受けられます。
そのような偏見を持たず、いや、どちらかというとそのような偏見や差別が存在している/存在していたということを認識したうえで、さらにトランスジェンダーと家族について理解している人ほど、このゲームが心に刺さるのではないでしょうか。

補足ですが、これらのテーマについてはゲーム開始時に下記のような説明書きが表示されています。

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公式サイトにも下記の記載があります。

カルチャー、メンタルヘルス、セクシャル マイノリティー支援団体の助言のもと『Tell Me Why』を開発しました。

真剣に、トランスジェンダーやメンタルヘルスについて取り扱っているからこそ、プレイヤーとしても真剣に向き合う必要があり、向き合った先に最大の理解を得られる作品なのではないかと思います。



つまり、プレイヤーに求められるのはトランスジェンダーや親子関係についてを双方理解し、ある程度経験値があり、知識がある人。そうなると、やはりどうしても知識を備えた大人向けなゲーム、という感想になってしまうところです。
その分、やや理解や物語の咀嚼に時間のかかる、ある意味では難解なゲームと分類される可能性もあるかと思います。

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そして、そのような物語を理解しようとしているプレイヤーを、おそらく阻害してしまっているのではないかと思えるのが、ゲーム内に導入されている、この作品のメインな謎解きともいえる読解ミニゲームです。

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読解するミニゲームの退屈さ
ゲームの要所要所、物語の重要な場面にたどりつく直前、このゲームはミニゲーム要素が入ってきます。
アクション要素があるようなものではなく、推理して正解を導き出すパズル的なミニゲームなのですが…。
そのミニゲームを解くためには、ゲーム内に出てくるとある書物に書かれたお話を読み解かなければいけません。
Tell Me Whyという物語の中に出てくるまた別の物語」を理解する必要があるのです。


この、パズルを解くための書物が相当なボリューム。10ページ20ページでは済まない物量なのです。
実際のところ、この書物もいくつかの項目に分かれており、パズルを解くには大抵その中の一つの項目を把握すればいいので、全部読む必要はありませんし、内容ではなく挿絵がヒントになっていることもあります。
しかしその項目ひとつについても、おそらく日本語で600~1000字くらいはあったんじゃないかなあと思います。

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このくらいの量×4ページくらいが1項目。
項目は20項目くらいあります。


この書物の内容自体も、物語を間接的に補強するものとなっているため理解すればこのゲーム自体の面白さが増長されるのですが、それにしても問題の解き方が単調だったりヒントが無かったりでかなり退屈でうんざりしました。

終盤になるとこの面白さ、つまり物語とのリンク度が高まり、モチベーションが高まるのですが、そこに至るまでの段階ではやや苦痛に近いレベルでした。
これは出来ればもう少し、何か違う形で謎を解きたかったなと思います。



選択の重さ
ここまでややネガティブな感想が多くなりましたが、一方でだからこそ生まれている魅力が存在します。

超能力がテレパシーや記憶を思い出すことであるため、決して人を傷つけたりすることはありません。その分、このゲームで重要になっているのは「言葉」「態度」です。

特に、過去の事件を取り巻く人々に対して、責めるか許すかという選択が多くなっていたように感じました。
超能力で物事を解決するのではなく、言葉と態度。
私たちの社会生活と何も変わりません。
このゲームと現実の重なりが、ゲームでありながら選択するということの重さを確固たるものにしており、物語へプレイヤーが介入しているという気持ちを強くさせていると感じました。

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インタラクティブ出来るオブジェクトの多さ
これはLife is Strangeシリーズと同じですが、相変わらず色々な物を調べることができ、そしてそこからキャラクターの過去や物語が理解できる仕様なのは見事でした。物語に直接は関係ないものの、調べたほうが物語が面白くなる、というバランスが本当に素晴らしいです。

ついつい、触れるものは全部調べてしまいましたが、どれにもフルボイス(英語ですが)でリアクションが発生するので、ゲームからの説明ではなく、キャラクターが話しているという印象を受けました。

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二転三転する展開
ゲーム開始時と、チャプター1の終わり際、そしてチャプター2の終わり際では、登場人物に対する印象ががっつりと変わりました。というより、物語を進めるにつれて明らかになる真実が、まさに予想を超えてくるのです。
やはりDONTNOD、意表を突くのがうまい。
記憶が物語の中で大きな要素になっていることを上手に利用した物語には、意外性がありつつも整合性を感じられるような仕掛けがあり、チャプターごとの引きは、次のチャプターを早くプレイしたいと強く思わせるものでした。
過去の真実が明らかになっていく中で、伏線が段々威力を発揮します。クライマックスへの盛り上がりも静かながら積み重なり、そして重要な選択をするラストを迎える。

コンパクトさは否めませんが、結末へと収束していく様は、プレイしていてぐいぐいと引き込まれるものでした。

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まとめ

Life is Strangeシリーズの、超能力を用いて運命を変える予想のつかないドラマチックな展開を期待すると、肩透かしをくらってしまう作品であると思います。これは確定していない未来ではなく、すでに確定してある過去の真実を求めていく物語であるからです。

一方で、家族愛やトランスジェンダーという現実的で難しいテーマを用い、プレイヤーへ選択を迫る従来のシステムを導入した面白さは、DONTNODの素晴らしいストーリーテリングによって完成されていると思います。

物語自体はアグレッシブではありません。派手さはありません。
逆に言えば、リアル感がかなり強めになっている作品です。
テレパシー等の超能力は抜きにしても、「もしかしたらこういう家族、こういう事件も過去にあったのではないか」と思わず考えてしまうような物語。

そして限られた場所、限られた人物とのコンパクトなやりとりだからこそ、密度の高い物語になっています。
しかも、物語の視線の先が常に過去のひとつの事件。
「これからのこと」について触れられる話もゲーム中には出てきますが、「これからのことを考えるには過去の事件をどう整理するか」という話に繋がっていくので、比重としては9:1くらいで過去を向いている割合が多いと思います。
そして「事件」だからこその、このゲームを覆う薄い陰鬱な膜のような雰囲気。
少し重い空気感が漂っているので、そこも特徴ではないでしょうか。

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このような、やや暗めで地味なところ、そして現実的で扱いの難しいテーマから、決して万人受けするゲームではないと思います。
しかし、そんな発展性の薄そうなコンパクトな物語の中でも、しっかりと意表をつく物語展開と悩ませる選択肢が存在するのは、さすがDONTNODとしか言えません。

私としてはLife is Strangeシリーズに比べるとキャッチーさが薄いこと、感情移入が深くは出来なかったこともあり、それほど刺さったゲームではなかったです。しかし、今までトランスジェンダーについてここまで主軸...というか、重要なポジションにおかれたゲームはプレイしたことが無く、しかもアドベンチャーとしてその設定が生きてくるゲームはなおさらなので、ある意味でゲームによって問題提起され、初めて正面からその問題に向き合ったかもしれないな、と思いました。

こういった動画をyoutubeで少しずつ見始めました



思い返してみれば、このゲームは常に過去の事件が主人公たち二人に、ある意味でつきまとっているようなゲームだったので、笑えるようなシーンがほとんどなかったんじゃないかなと思います。
そういった面からも、真面目で真剣なテーマをしっかりと扱った、それでいて超能力を用いて非現実さも混ぜてゲームとなった作品だと思います。

物語は、もちろん超能力の部分でプレイヤーの想像を超えたり、物語の展開のうまさで驚く面白さもあります。ただ、総合していえば、プレイヤーが落ち着いて真剣に「現実にもあるような」問題と向き合える、現実と非現実がないまぜになる面白さも楽しめるような作品であったと思います。
テーマやビジュアルから伝わる現実感の比重が大きいからこそ、ゲームの中の問題にもまるで現実の問題のように取り組めるのです。
ゲームに価値を求めるのはなんとなくナンセンスに感じますが、しかしこのゲームはそういった「現実感のあるテーマや物語」「非現実的な超能力」の交わりのうまさもまた、面白さの軸となっていると思います。


先ほどの通り、このゲームは万人にはお勧め出来ないかなと思いますし、もしゲームを勧めるのであれば初代のLife is Strangeのほうを勧めます。
一方で、自分の選択で物語が分岐したり、アドベンチャーが好きだったり、リアルなゲームが好きな方はガツンとこのゲームの魅力に落ちていく可能性も大きいと思います。それでいてLife is Strangeシリーズが好きな方は、なおさらです。

興味ある方はぜひ。なかなか無いテーマだからこそ、多かれ少なかれ心に何かが残る作品であることは、間違いないと思います。

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