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歴史書編集者私論

歴史書編集者の中には、仕事で編集をしながら自らも研究をしている(していきたい)という人もいるが、私はそうではありません。
私はあくまでも、「プロの研究者が放ってくれた学問成果を世の中へ広げていく(アウトリーチしていく)プロでありたい」ということ。
そのための勉強はしたいが、自分が研究者(ないしセミプロ研究者)になりたいという事ではないです。

これから学術書の編集者になりたいという人がよく間違えるのは、「編集の仕事につけば、(研究者になれなかったとしても)日常の仕事の中で勉強もできるだろう」と思ってしまうことのように思う。
でも、私の場合は、編集自体のスキルアップでさえ仕事時間内では足りなかったし、ましてや企画立案や専門家である著者との対話をきちんとやっていくための勉強(たくさんの研究の流れや現状、さらに研究史を理解していくために論文・単著を読んでいくような勉強)は仕事時間以外の自分の時間を使ってやらないと間に合わなかった。
言い換えると、自分の時間の中で必死に勉強をして初めて、その成果が編集仕事に反映されるというものでした。

でも、有難い事に新米編集者の私に(勤務時間外で)それを叩きこんでくれたのは田中彰・由井正臣・中村政則先生といった、著者・編者として関わってくれた研究者の方々だった。特に田中先生は「編集者は常に勉強していないといけないよ」と言って、私がどういう歴史学の勉強をしていけば編集者としてやっていけるのかを示して鍛えてくれました。教え子でもない私に、しかも無料で、1年間くらいレクチャーを続けてくれました。大恩人です。
きっと、「この若い編集者を鍛えてやらないと」と思ってくれたのだと思いますが、いま思うと由井・中村先生も田中先生と「結託」していたのだと思うけど、3人がかりのレクチャーは私にとって大学院みたいなもので、ここで歴史書編集者としての基礎が培われたことは間違いないです。

まあ、私より優秀な人はいっぱいいるので、もしかするとそういう方は、自分のテーマを持って研究しつつ仕事もするという二足のワラジも出来るのかもしれないのですが、編集者になれば仕事時間のなかで自動的に勉強もできるなんて考えていると痛い目をみると思う。
「編集者は常に勉強していないといけないよ」という田中先生の言葉は、「自分自身で編集者としての勉強をしていくことが何よりも大事」ということ。そして、それだけでもとても大変なこと(研究は日進月歩なので)。
編集者としての勉強と、研究のための勉強は性質が全く違うものだろうから、私はあくまでも編集者としての勉強をし続けていくつもりです。