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読書会で取り上げる本 その1

先日、お伝えしたように、4月から高円寺のコクテイル書房ではじめる「戦前・戦中・戦後史 読書会」で最初に取り上げるのは、
奈良勝司さん著『明治維新をとらえ直す― 非「国民」的アプローチから再考する変革の姿―』(有志舎、2018年)です。
これは小社の本だから取り上げるのではなく、私としては明治維新について今一番ラディカルで多くの議論ができる本だと思うので選ばせてもらいました。

本書の問題意識は、簡単にいえばこういうことです。
これまでのテレビや小説・ゲームなどで語られる明治維新のストーリーは、大体こういうものです。
「幕末、日本を植民地化しようとして迫ってきた欧米諸国に対し、無能で自らの地位保全のことしか頭になかった徳川幕府は譲歩したり言いなりになって日本を危機に陥れた。それを正して日本の独立を守るために坂本龍馬・西郷隆盛・高杉晋作といった志士たちが立ちあがり、日本を明治維新に導いた」。
今や、こういう「日本人ってすげえ!」「こんな立派な志士たちをもってオレたち幸せ!」という、「国民のための癒し」装置と化してしまったのが現在の明治維新に対する歴史理解だ、と著者は批判します(同時に、全体構造を軽視して精緻な実証にだけこだわるアカデミズムにおける明治維新史研究も批判されていますが、ここでは詳しく書きません)。
でも、実際の明治維新史の過程はこんな「国民のための物語」ではない、と著者は言います。だから、「非「国民」的視座からとらえ直す」なのです(「非国民」ではないので、お間違えなく)。
本書は、これまでの明治維新論を解体し、歴史学だけでなく社会思想史・社会心理学・国際関係論などの知見にも学びながら、世界史的な文脈のなかで維新変革の全体構造を明らかにしています。
つまり、「構造」の変化を叙述するので、「何年何月何日に何があった」「歴史上の個人が何をやった」という歴史事実を連ねた通史ではありません。もちろん、重要な歴史的事実は書かれていますが、そこから大きな構造の変容を読み取って、近世から近代への大きな構造変化と力学をとらえようとするものです。
この本を読んで、どういう意見・疑問が読書会メンバーから出て、どういう批評・議論ができるか、今から楽しみです。

なお、これからも、この読書会で取り上げる本については、ひと事コメントをしていきたいと思います。
興味を持っていただいて、少しでも歴史書を読まれる方が増えてくれると嬉しいです。

(本書の内容についてはこちら)https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784908672255