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至誠とテクノロジーで、モノづくり産業を変えよう。/キャディ創業3年記

「勇志郎さんすいません、僕ら当て馬でした…」

もう1年ほど前でしょうか、キャディの営業リーダーの1人が、数億円単位の大型案件のために、お付き合いしたばかりのお客様に数か月寄り添って頑張り続けた結果、自分がただの当て馬だったことに気づいた瞬間に発した言葉です。
彼はお客様の調達担当者を信じて動き回っていました。取引初期ということもあり、コストを算出した後、何回も仕様を詰めて希望の価格をミートし続けたのですが発注は来ず、毎回はぐらかされてその後何回も値下げ要求が来ていました。
見かねた私が「当て馬にされてるんじゃないか?もう辞めよう」と別の営業リーダーを送り込んだ結果、当て馬だったと分かったのです。
36歳男性・ベテランの彼は、悔しさのあまり涙を浮かべていました。

責任者ですから、私は成果を出せなかった彼を叱りました。
でも、本当の怒りは、至誠に溢れた彼をもてあそんだお客様の調達担当者、いやそれを通り越して、その先にあるモノづくり産業全体に向いていました。


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こんにちは。キャディ株式会社の代表をしている加藤です。
キャディという会社は、製造業の受発注プラットフォームを提供している、4期目に入ったばかりの会社です。

私たちは、製造業という重厚長大産業に向き合っています。
そこには、たくさんの人情味あふれる人たちがいます。モノづくりをこよなく愛し、要望されてもいないお節介を貫く人たちがいます。この日本を後進国から先進国に押し上げてきた、油まみれの、熱い人たちです。

一方で、今まで多くの人に裏切られてきた人たちが、たくさんいます。
「今度この案件出すからキャパ空けといてよ」と言われても、待てど暮らせど案件は来ない。
「今回だけ価格どうにかならない?」と言いつつも、定常的に来る論理のない値下げ交渉。
「品質はとりあえず図面通りで」と言うけれど、図面に記載のないことで再製作要求。

では果たして、これは裏切る人たちの問題でしょうか?
いいえ、違います。断じて違います。これは、産業構造の問題です。


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何か嫌な体験をすると、人間は不信感を持ちます。次は何か起こっても、裏切られてもいいようにと、その不信感はバッファを生み出します
「5%の値引き要請だと3%しか引いてくれないだろうから、10%値引きした金額で要求しておこう」
「どうせ後で値引きしろって言われるから、初回の見積価格に10%乗せておこう」

日本のモノづくり産業は、不信感の連鎖と、それによるバッファに溢れています。それが、既存取引先ですらたくさんあるのに、よく知らない新たな取引先だと格段に顕著になります。
だからこそ、新たな取引先を探せない。探してまともに付き合えるまでに、信頼関係の構築やQCDのすり合わせ、監査・監視などの、「取引コスト」という見えないコストがたくさんかかる。だからこそ、よしなにやってくれる長年付き合いのある会社に、値段が少々高いと分かっていても依頼し続ける。これが下請け構造の本質であり解決されない根本要因です。

これは発注者に限った話ではなく、発注者・受注者双方の問題です。
発注者が新しいサプライヤに依頼するときは、
「出てきた価格は安いけど何かあるに違いない、あとで金額を上げてくるのだろう。」
「1製品目の品質は良かったけど、最初だけ丁寧にやっただけに違いない。」
という不信感を持つ。

受注者が新しいお客さんと取引する場合は、
「最初にいい価格を出しても、後で更なる値引き要請をされるに違いない。」
「図面に書いていないことで怒られて再製作を要求されるかもしれない。」
という不信感を持つ。

こういった不信感が、バッファを生み出し、コストを上げ、スピードを下げ、産業全体の競争力低下に繋がっていきます


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具体的なケースを見てみましょう。食品メーカーから食品機械メーカーの営業担当に依頼を、そこから食品機械メーカー内の調達担当に伝達されて、最後に加工メーカーに見積依頼が行くケースを考えてみます。

よく、こんなことが起こります。

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最初から「100円・4週間」、という目標を全員が共通で持てていれば、1発目からそれを満たす方法を共に探せたかもしれません。

でも、万が一本当の目標値である「100円・4週間」を伝えて足元を見られ、駆け引きをされたときに、バッファがないと本当の目標を達成できないため、全員が金額にも納期にもバッファをとっています。このケースでは、この条件で作れる会社を探し回った結果、結局数週間経っても条件を満たせる会社が見つからず、短納期で価格が上がり、不良/遅延も勃発してしまいました。

はたまた、こんなケースもあります。今度は加工メーカーが見積を算出したものにどんどんバッファが乗っていくパターンです。

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このケースでは、価格交渉を各取引者同士で何度もした結果、無駄な時間を過ごしてしまい、他の業務に遅れが出てしまいました。

製造産業では、このようなバリューチェーンをまたいだバッファの連鎖とそれによる無駄、QCD悪化が、毎日いたるところで起こっています。


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そんなバッファに溢れた世界にも、解決策はあります。
それが「至誠」と「テクノロジー」です。一見対極にありそうな人情と論理、「論語と算盤(そろばん)」のような関係にある2つが、現状私に見えている光です。

この産業からバッファをなくすためには、下記の2点が成立する必要があります。
1:情報の伝達者同士の相互信頼がある
2:根本の情報の正確性に信頼がある

そこで、至誠とテクノロジーによる信頼が鍵になります。

■至誠による信頼:
情報の伝達者同士が、双方に対して「誠実である」という前提に立ったうえで、お互いの伝達する情報が知る限り最も正確なものであると信頼を置くこと。

例えばキャディでは、至誠による信頼を得るためにそのためにこんなことをしています。
・原則お客様・パートナー工場様いずれも経営者同士で将来ビジョンについて話し、合意し、お客様の人格について理解すると同時にキャディの人格についても理解してもらう=会社対会社及び人対人で信頼関係を築く。
・その上で共通ゴールを設定する。例えば3年間、どれくらいのQCDを共通で狙い、どの程度のボリュームを発注するのか。また、その共通ゴールの達成のために誠実にお互い努力し続けることも合意する。
・お客様・パートナー工場様のいずれであっても駆け引きはしないと最初から伝達し、合意の上で取引をスタートする。駆け引き・綱引きをしてゼロサムを目指すのであればキャディはお力になれないです、と明言し、原価低減などの共通ゴールをどう目指すのかについてだけ話す。

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テクノロジーによる信頼:
伝達される根本の情報自体が、人の感情抜きにデータに基づいて導き出されているということに対して信頼を置くこと。

キャディでは、例えば下記のようなことを目指しています。
・QCDの言語化/明文化・算出自動化
 (Q)品質の言語化・自動補完
 (C)見積の自動計算
 (D)生産・納期管理
鉛筆をなめて、相手の足元を見ながら見積や納期を作るのではなく、システムを用いて一定のロジックの元、論理に基づいて見積が算出されている、という信頼。また、品質に関しても、蓄積された過去の不良データなどを元に、ブラックボックス化せず言語化していくことに対する信頼。

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とはいえ品質などに関しては、最初からすべてのデータが完璧になることは難しく、一定の不確実性が存在し、バッファは乗り続けるので、そのバッファをゼロに近づけられるように改善し続けていくことも大事です。そこも、テクノロジーを用いることはデータの蓄積がしやすい性質を考えると適しています。(顧客ごとの品質情報を貯め、それに基づいて図面に自動で情報を付加していく、など)

但し、実際には色んな部品の組み合わせ・色んなサプライヤの組み合わせになるので1社だけが至誠×テクノロジーを保持してもほとんど意味がありません。

だからこそ、キャディのような発注者・受注者横断、産業横断でのプラットフォームが価値を発揮するのです。

テクノロジーで発注者・受注者・キャディの三者が皆、そもそものデータに信頼が持てるようにする。また、至誠をお互い確認し、三者全員の伝達事項に無駄な駆け引きがないという信頼がある。だからこそ、仮にトラブルが起きてもまた次の取引を信頼できる。
これが、キャディを通じた取引の最大の特徴であり、これが実現できつつあることが私の今の一番の心地よさであり、誇りです。

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「すべてのポテンシャルを信じる」「至誠で道を拓く」「仕組みで非連続を創る」
いずれもキャディのカルチャーブックに書いてある言葉です。

お客様、パートナー様、従業員。すべてのモノづくりに従事する会社・人のポテンシャルを信じ、テクノロジーの力を活用しながら「信頼構造」の非連続的変化を創る。そして、お互いに至誠と信頼感をもって向き合えた先にある、「バッファのない世界」は、どれだけ美しいでしょうか?

そんな世界を早く見たい。それが私の、キャディ拡大のモチベーションです。
そしてキャディという物語を通して、冒頭に出てきた営業マンのような、熱く不器用な仲間たちにどれだけ出会えるかが、私の楽しみの1つです。

2020年も、誠にありがとうございました。

加藤

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「CADDi Advent Calendar 2020」とやらの締めくくりだったようです。その他の記事は下記まで。