見出し画像

青と赤に染められたグラスゴー

 銀色の空が頭上を覆う。その下をエスパニョールの青と白、セビージャの赤が差す。グラスゴーへの再訪。半年の間に大西洋を二度も渡るとは思わなかった。モダンな趣と伝統を伝える街。その街も、この日はスペインの情熱によって染められていた。

 リヴァプールから夜行バスに乗った。車内に満ちた疲れのようなものを身体はまとう。列車に揺られ、色に導かれた歩みの先にはハムデン・パークがそびえる。空から舞い落ちる雨。それは、三色からほとばしる熱と明確な対比を生む。しかし、その熱が失われることはない。

 ニルヴァーナの『Smells Like Teen Spirit』が選手を迎える。サッカーはスポーツである。それと同時に、エンターテインメントであり、戦いでもある。ギターの音色、観客の歓声、発煙筒の火花と煙。そのすべてが、その事実を僕の内に刻んだ。

 眼の前にはデ・ラ・ペーニャがいる。ダニエウ・アウヴェスがいる。カヌーテがいる。照明を受けて肌が輝く。芝生の上で躍動する姿は華麗であり、野性味にあふれていた。その象徴として、選手たちの肌に浮かぶ艶のような照りが忘れられない。

 ボールは止まらない。ボールの動きに呼応するかのように、観客が叫び、身体をくねらせ、息を漏らす。純度の高い熱狂がここにある。

 基本的にゴールは「奇跡」だと思っている。この夜、僕はそれを何度も目撃した。研ぎ澄まされた集中力。素晴らしき守備は、素晴らしき攻撃を生み続けた。

 ペナルティキックをパロップが止める。濃密なストーリーに終止符が打たれる。漆黒の夜空とエナメルのように輝く緑色の芝生。ここにもまた対比は存在する。輝きを放つ舞台の記憶は、欧州サッカーの原体験として僕の脳裏で生き続ける。欧州カップ戦の決勝として、僕は同国対決に一抹の物足りなさを感じていた。そんな浅はかな考えは露も残されていない。

 迷いながら、闇の中をグラスゴー市内へと歩いた。身体は鈍い痛みを感じる。しかし、それ以上に僕は頭からつま先まで、熱に支配されていた。

イギリス 2 (188)



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?