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Jリーグ 観戦記|等々力劇場|2022年J1第24節 川崎F vs 横浜FM

 感動した。涙がこぼれた。余計な言葉はいらない。感情の力を再認識させられた。人々の気持ちが一つになると、果てしない力を生むということを。試合展開に合わせて、移ろう拍手の音響。その一拍にも物語がある。四方八方から迫りくる響き。サラウンドとはまさにこのこと。

 美しい試合だった。観客の視線を掴んで離さない。そんな力が九十分もの間、観客席に降り続いた。一面の美しい青に染まった等々力。青と青の対決はJリーグにおける最高峰の戦いと言っても過言ではない。

 互いが互いの時間を奪い合う。これは自由を求める戦いか。高い強度と技術の応酬。突きつけられる壁が大きいからこそ、その壁を越えようとする跳躍は高く、粋が極まる。

 谷口のロングフィード。山根のワンタッチクロス。レアンドロ・ダミアンのヘディング。五秒に満たない、その刹那。マリノスの想定を超えた技術と肉体の躍動。等々力の夜を切り裂いた放物線とフライング・ブラジリアンの姿が記憶に鮮明な跡を残す。

 昼夜が反転するかのようなカウンター。川崎の攻撃は、マリノスの速攻へと姿を変える。エウベル、マルコス・ジュニオール、仲川で完結したゴールも岩肌を流れる清水のように艶やかだった。前を睨み、猛然と駆け抜けるエウベルの姿は獣のよう。そして、その動きは過去を彩った、エリキやジュニオール・サントスを想起させる。瞬きも許さぬほど、その時間は短かった。しかし、この眼が切り取る、それらの記憶からマリノスの確固たる指針のようなものを感じずにはいられない。

 その強度ゆえだろうか。選手たちは負傷し、主審さえも試合を退く。痙攣した脚を懸命に伸ばすジェジエウ。マリノスの攻撃を全身全霊で跳ね返し続ける瀬古。オールイン。全てがピッチに注がれている。

 勝利を求める等々力。その思いは拍手へと世界に転写される。ボールがマリノスのゴールへと迫るほど、その声音は大きさを増す。僕の腕も手も自然と動く。拍手が集まると、こんなにも音が大きくなるものだろうか。「ゴールは生まれる」。論理性に欠ける思いが頭をもたげた。等々力の拍手が川崎の攻撃を後押しする。輪郭を伴わない未来が、そこに浮かんでいるような不思議な感覚を体感したのは僕だけだろうか。

 天高く放たれる、家長のクロスの先にジェジエウはいた。ジェジエウも空を飛ぶ。力強く、しなやかに。ジェジエウの頭を叩いたボールはポストに触れ、ゴールネットを揺らす。歓声に包まれる等々力。スタンドへと走り出すジェジエウ。ジェジエウへと一直線に走る、サブも含めた川崎の選手たち。両の目尻から生暖かい涙が垂れる。等々力が劇場と呼ばれる真の意味を僕は知ったのかもしれない。世界の片隅に、こんなに素晴らしい時間を授けてくれる。だから、サッカーを愛さずにはいられない。

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川崎F 2-1 横浜FM

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