今日も虫とり

大学職員の仕事ってどんな感じ?みたいな質問はよくあるのだが、最近思うのは、虫とりみたいな仕事が意外と多いな、ということだ。むろん、本物の虫を採集するのではない。集めるのは先生に出してもらう数々の書類である。

対象者全員の全部が期限内に揃わなければだめな提出物というのが結構ある。処理後に他所への提出があり大学の責任として守らなければならない締切が待っているもの。そうしないとどこかに迷惑をかけたり、法令や契約の違反になったりするもの。たとえば、成績やシラバスなど学務関係の情報や、出勤簿や年調みたいな総務系の書類、旅費や経費の精算書、研究費の報告書、などなど。で、そういう類の書類は、先生自身が作業しなければならないものが多く、事務局ではまず漏れなく集めることから仕事が始まるケースが非常に多い。

しかし厄介なことに大学の先生というのは勤務する場所も時間もバラバラだし、事務処理の優先順位は低めの人が多いし、みんな忙しいしうっかりもあるし訂正もあるし、何かが一発で揃うなんてことはまずない。もし何も働きかけをしなければ、揃わず、結果として処理できず、法令違反や契約不履行になってしまうので、事務局ではありとあらゆる手を駆使してまず出してもらって揃える努力をすることになる。

そのために必要なのが、先生の生態を知ること。
何時に大学に来るか、どの時間帯に研究室にいるか、何曜日の何限はどこで何の授業をしているか、普段何時頃事務室に来るか、もしくは来ないか、誰と一緒にいることが多いか、よく現れる場所はどこか、委員会や会議はあるか、つながりの深い部署はあるか、話を通しやすい職員はいるか、メールは見るか、見る人なら即レスタイプか既読スルータイプか、電話には出る人か、車は何で普段どこに停めるか、TwitterやFacebookはやっているか、出張の予定や非常勤の予定、来るパターン来ないパターンの日、普段の言動の感じから今日は機嫌が良さそう悪そう、時間がありそうなさそう、などなど、事務局では常々、先生を捕まえるのに有益な情報を集めている。
先生方は知らないかもしれないが、期限をすぎることが多い先生は、おおかた行動特性が職員に把握されていると思ってよい。そして、遅れることが予見されるので、事前にメール打っとこうとか、見かけたら声かけようとか、個別に対策もされる。リマインドや督促のタイミング、方法、回数、言い回しなんかも人によって変える。

捕まえづらい先生の場合は部局を越えて協力して攻略する。本当に急いでいるときは、目撃したら電話ください、と様々な部署にお願いをしておき、目撃情報をもとにダッシュで研究室に押しかけたり教室の出待ちをする。それが一番確実な方法だ。
苦労するタイプは、電話、メールは一切受け付けない、メールボックスを見に来ない、長期不在がち、特定の人からの話しか受け付けない、声のかけ方やタイミングを見極めないと噴火する、みたいな先生。しかしこちらとしてはその後のための書類やデータを揃えることがファーストミッションであるから、たとえお互いに嫌な思いをすることになろうとも貰いに行く一手しかないのだけど。

なので、仕事のためには、専門知識や処理スキルなどの業務自体のスキルもそうだが、情報をキャッチしたり仲間と連携したりするコミュニケーション力や、何をどこまで融通効かせられるかの判断力、臨機応変に対処する応用力、普段からの良好な人間関係の構築など、先生を捕まえてスムーズに必要なものを出してもらうスキルみたいなのが必要になる。

生態とか攻略法とか捕まえるとか書いたが、これがほんと、虫とりみたいだと思う。出現がレアな先生もいたり、行けると思っても今日は違ったかー、みたいなこともあって、そんな試行錯誤のあれこれまでが似ている。

締切までにすべての必要書類が自動で揃うのであれば、本来いらない仕事ではある。しかし、先生が忙しいのもわかるし、こっちが勝手に締め切りを決めて要求している自覚はあるし、書類仕事にはこんなのなんで必要なのかとか様式が意味不明だなとか面倒くさいなとか指示が分かりにくいなとか期限短すぎだなとか、とにかく小さなイライラがつきまとうのもわかっているので、このくらいのことはしょうがないんだと思いながら今日も書類集めに奔走する。

年度末と年度始めは、そんなこんなで繁忙期がより繁忙になる。仕事の前の仕事がやってくる。
今年もそんな季節になってしまったなぁと、今日も督促をかけながら、思う。

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