無防備な剥き身の貝

先日、飲み会の席で思いもよらぬところから私の殻を剥ぎ取られてしまい、取り繕うのに焦り、すっかり社交エネルギーを使い果たしてしまった。

見せたくない、言いたくない、隠しておきたい、と思っていたことを勝手に暴かれてしまうのは、貝の口に鋭利な金属を差し込まれて殻を剥かれてしまう牡蠣のようなもので、たいへんに慌ててしまう。

意図しない形で周りの人たちに知られたくはなかった。私から言って回ることはないし、ごく限られた人しか知らないはずなので、誰だよ勝手に広めたの、と思っていたら、それが直属の上司だったことが判明し、がっかりした。そしてそれを聞いたもっと偉い人も悪気なく話を広めるものだから、参ってしまった。

たぶん世の中的には、全く隠すことでもないのかもしれない。それでも嫌なものは嫌だ。

まぁ、何かというと、出身大学の話である。
私は学歴のみで人を判断する人が非常に苦手で、そういう場面に居合わせて学閥的な話に及ぶのも非常に苦痛を感じる。もちろん、自分のことを大学名でどうこう言われるのもたまったもんじゃない。

大学に入って知った世界だが、大学の中にいる人ほどかんたんに人を大学名でジャッジしようとする。
「〇〇さんはどこ大?」(←初対面で)
「〇〇さんは〇〇大学だから云々」
「〇〇さんは〇〇大学で、〇〇先生と同窓」
「〇〇さんは大学出てない人だから云々」etc、、、
この類の話がもうほんとうに嫌。吐き気がするほど。

さらに、出身大学の話を、さもその人を表す最重要情報、重大な裏情報であるかのように取り扱い、おせっかいにも勝手に吹聴してまわる人までいる。何というか、傍目にはあちこちに火をつけて回る感じであって、その人自身もそうだしその情報で何かを知った気になって大騒ぎする人のことも、まったく理解に苦しむ。

なんで嫌かって、そういった出身大学の名前のみを重視する人は、たいていの場合ほかのことをほぼ無視する傾向があり、その人が今どういうことができる、どういうことを志向する、どういうことを努力し、どういうことを成してきたか、そういうのを簡単に吹き飛ばしてしまう。なきものとする。その人自身を見なくなり、周囲のバイアスを変に強化するのだ。

そういう空気の結果、何かが動けば、学閥によるものだと勝手に理由付けされ、勝手に納得されてしまう。
「〇〇さんって確か△△大でしたよね」「あ~、だからか。」みたいな風に。
だからってなんだろう。その人はいったい〇〇さんの何を理解し納得したんだろう。
ほかのことを一切無視したその物言いも嫌だし、もしかしたら本当にそんなことで人事が動いてるのかもしれない疑いを拭いきれないのも確かで、そこがまた嫌だ。

たとえば勤め先の大学では、毎年の異動希望を書く調書について、最終学歴を書く欄は書類のかなり重要そうな場所にあるのに、入職前の職務経歴を書く欄は一切ない。職場外での活動を書くところもない。学歴欄には、卒業大学のほかご丁寧にも卒業年まで書かされる。毎年の単なる異動希望調査なのに、だ。とにかく嫌でも学歴が目に入るようにできている。
所属や所属長が変わることも頻繁にあり、そのたびに所属長には自分が何ができるかよりも学歴を先に印象づけるようなかたちになっている。
そういう、制度の端々にちらちらと学歴主義の雰囲気が見え隠れするのも、個人的な思想に反して嫌だ。

さっきから嫌だ嫌だとばかり書いているが、ほんと、大学にいて一番嫌なのがこの空気なのだ。そういう価値観からは最も離れたかったのに、好むと好まざるとにかかわらず、巻き込まれて揉みくちゃにされる。
(余談だが、某大学の某特任准教授の一件も、そういう空気の中で醸成された特権意識や虚勢が影響したんじゃないかと個人的には思っている)

まぁ、文句があるなら辞めろという話であるし、どちらかといえば恩恵を受ける側なのに何を言っているのかと言われてしまいそうでもあるのだが、恩恵を受けるとすればそれはそれでかなり本意でないし、とにかく嫌だ(しつこい)。

人に学歴の情報が付帯され、それだけで会話をしてしまうことで、人からその人が剥がれ落ちていくような気がするのだ。私から私というものが剥がれ落ちていくような気がするのだ。
勝手に納得も期待もしないでほしい。
私や誰かよりよっぽど動けて何かを成すことができ、世界に意味を与えるほかの同僚たちや学生たちを、過去の入試がどうだったかだけで、人と比べて下に見ないでほしい。ありのままを見て評価してほしい。
そんな願いは、しかし残念ながら届きそうもない。

そういうわけで私は大学の話題になってもできる限り適当にはぐらかして来たのだけど、ついに逃れようのない状況になり、それが単なる事実の確認だけであればよかったのに、明らかにそれ以外のことを含みまくった意味有り気な口調に、自分の身から何かが剥がされる感覚を覚え、たじろいでしまった。

あーあ。

※これで今年を締めたくはないので、もう少し明るい話を次は書こうと思います。

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