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シリコンバレーとスタートアップと甲子園

人はいつ、学生時代の「部活ノリ」、仲間と一緒に汗を流して一つのゴールに向かって頑張る、ちょっと泥臭いマインドセットを失うのだろう。


僕はシリコンバレーにあるスタートアップでグロース・マーケターとして働いている。主に新しいユーザーをいかに獲得するかが僕の仕事だ。

一年間のサンノゼ州立大学での学部留学を経て、Loop Now Technologiesというスタートアップに出会った。創業者は二人とも35歳の連続起業家、CEOは投資銀行に勤めたのち、Stanford Business School在学中に起業し今ではシリーズBになるAI系スタートアップを同時に経営、COOはLinkedInの創業メンバーかつMobileチームを自ら作り出したという、ファイナンスとエンジニアリングのエキスパートがタッグを組んだ豪華なチームである。

”企業価値 一兆円($10B)以上のコンシューマー向けサービス”を作る・ "Make a big impact to the world" (世界に大きいインパクトを与える)がチームのスローガンだ。「LinkedInによって、就職活動からビジネスの仕方まで一気に変わった。そういったものをもう一回作りたいんだよ。」と隣で運転しながらさらっというCOOに僕はすっかり魅了されたのを覚えている。

経験豊富な創業者とその大きい目標により、シードラウンドで数億円調達する大型スタートアップであった。人数も創業4ヶ月で15人はいた。

ここまで聞くと何も恐れるものも、失敗するものもないと思う方もいるかもしれないが、入社からの約一年間はチーム(会社)としてはとてもきつい一年だった。企業向けのサービスに比べ、コンシューマー向けサービス(e.g. Instagram, Facebook, Snapchat)はただ単に問題解決のソリューションであるだけでなく、デザインや世界観、世の中の流れ、ユーザーフレンドリーなUXなど多くの要素がユーザーに受け入れられて初めてヒットする。僕たちは最初に大学生向けのメッセージアプリ(Slackの学生版)を作ったが開発四ヶ月後に4-5万ユーザーでピポット(事業転換)を決意。その次に新しいタイプのマッチングアプリを作ったもののそれも同じような期間、ユーザー数でピポットを行った。この期間は何をやってもいい数字がでず、チーム内の雰囲気も徐々に重くなり数人がチームを抜けたりもした。

しかしそんな辛い期間だったからこそ多くのことを試し、多くの失敗から学んだことは多い。特に大きい学びであったものを以下に箇条書きにする。

1. 大型資金調達による資金ショートの可能性の低さ、それによる打てる施策の多さ

いつ資金がショートするかわからない不安の中で仕事をすることはなかったのはとてもラッキーであったと他のスタートアップで働く友人の話を聞いていて思うものだ。コンシューマー向けアプリは何が当たるか予測しづらいということもあり、資金が潤沢にあったので今作っているアプリが当たらずともまだ次があるというマインドセットでいることができた。毎回ピポッドをするたびに前回のサービスで学んだLearningをしっかり次に生かせたことも大きい。

2. 毎週土曜日に行われるチーム全体でのサービスリサーチの運営

一つ目のサービスを開発している途中から、今世界中で流行っているアプリやサービスを各々がリサーチし、社内で発表する勉強会を行っていた。グローバルなチームだったので、中国からブラジルまで各国で流行るアプリとそのグロース詳細を毎週キャッチアップできていた。故に世界中のサービスとの開き(特に中国)を感じることもできたしいいものは自分たちのものにできた。よく中国人のVCの方がオフィスに遊びに来ては最近伸びているアプリとそのグロース法を教えてくれたのも非常に勉強になった。

3. ピポッドを決断すると1ヶ月でMVPをリリースしてしまう強力なエンジニアリングチームとそのマインドセット

MVP = 価値を検証できる最低限のプロダクト。つまり一ヶ月でアプリをリリースし、まず世の中にコンセプトが受け入れられるかをテストした。このエンジニアリング力があったからこそ、ピポットを数回行うことができた。普通のベイエリアにあるエンジニアチームとは少し異なり、朝早くから夜遅く、そして土日にも開発を行っていたエンジニアチームには頭が上がらない。

4. 全く下を向かずその先を見続けるファウンダーの姿・姿勢の大事さ

開発しているサービスがうまくいかず、チーム内で意見が分かれる場面もよくあった。そんな中でも常にポジティブな姿勢でチームを率い、朝一番早く働き始め夜一番遅く働き終えるのはファウンダー達、創業者だった。この姿・姿勢は絶対に忘れないようにしようと思う。


さらに、アメリカのスタートアップ生活において自分自身苦しんだ二点についても触れる。それは英語と日本文化との違いだ。

1. 英語
これは人によって意見も異なるので参考程度にしてただきたいが、ネイティブと同じくらい英語を読めて聞けて話せる能力は必須であると僕は感じた。英語力が劣ると、チーム内コミュニケーション、マーケティングのメッセージ、参考記事のreadingなど、全てにおいてネイティブの人と少しずつ差が生まれ、誤解や小さいミスが生まれる。考えてみてほしい、他国から来た片言で話す外国人にマーケティングの大事なメッセージングを任せられるだろうか?大事な商談相手とのミーティングで商談させる機会を与えるだろうか?より多くの人と、より大きいプロジェクトを率いようとすればするほど、英語力は必須と感じるようになり、自分自身甘えを捨ててこれから二年でネイティブ並みの英語力をつけようと思っている。

2. 脱日本文化
小中高と真剣に野球をやっていたこともあり、僕の体にはある程度しっかりと”体育会系上下関係”が身についていた。何も良し悪しの話をしたいわけでなはない。全く考え方が違うのだ。これは入社二ヶ月目にCEOから直々にもらった僕へのフィードバックの一部だ。

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先ずはチームに慣れるため、他の人の意見を尊重して自分は自重しよう。そんなマインドセットでいた僕にとって、「いい奴でいようとするな。たとえ上司であろうとプロジェクトが遅れていたらそいつを動かせ、たとえ社長にでもShut up(黙れ)と言っていい。それができないとこのアメリカのビジネスでは生き残っていけないぞ。」こんな言葉は寝耳に水であった。

フィードバックをくれたCEO自身、中国からやって来てシリコンバレーで1社目の起業をした時に中国とアメリカのビジネス文化の違いにぶちあったったそうだ。今では僕のアメリカでのメンターの一人である彼にこういった文化の違いを学べたのは大変貴重であった。

二つ目のプロダクトのピポットが決まった後、雰囲気は重いまま社内全員で次のプロダクトになりうるマーケットのリサーチ、今流行っているアプリのリサーチを一週間かけて行った。ファウンダー達が毎日会議室にこもりきり、熱い議論を交わしていた。そして決まった3つ目のプロダクトは短編動画である。アプリ名を「Firework(ファイヤーワーク)」という。

2回のピポットを経た僕たちは強かった。エンジニアチームは一ヶ月でアプリをローンチし、GTMチームはアプリがない状態でポテンシャルユーザーの獲得に走った。全て過去の8ヶ月間で得た学びや工夫を凝らした施策が打てていたように思う。何より、次こそは決める。というチームの雰囲気をみんなが感じていたように思う。

すでにポーランドではApple StoreでNo.1、アメリカでもApple Storeでアプリが取り上げられた。チームも追加調達を行い、有名企業からエグゼクティブが入社して彼らの知識やコネクションを元にどんどん新しいプロジェクトが生まれている。

僕自身はビザの関係で一度日本に帰るが、引き続き日本からリモートで働くと共に、日本法人を立てていいタイミングで日本でも本格的にマーケティング、開発を進めていく。

時には辛く、時に悩みながらもチームで一丸となって甲子園を目指していた、高校野球時代に感じていた感覚、大学に入って忘れかけていたあの感覚をシリコンバレーで味わってきた。まだまだこれからが面白い。歳も違う、国籍も違う、バックグラウンドも違う、そんな仲間達を尊敬しあい、知恵を出し合いながらチャレンジすることにとてもワクワクしている。チーム全員がUnlearn, Relearnしながら努力し、世界中の人々に使ってもらえるようなサービスを作ろうとしている。

チャレンジを仲間と楽しめる環境は最高だ。それがシリコンバレーのスタートアップだった。

瀧澤優作
steve.takizawa@fireworkhq.com

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