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#5 『ジェンダーで見るヒットドラマ 韓国、アメリカ、欧州、日本』治部れんげ著 〜ゆるり書評〜




この5作目より少しだけ構成を変更し、最初に総評を入れてから、細かい部分を評していくことにします。
今回取り上げるのは、


『ジェンダーで見るヒットドラマ 韓国、アメリカ、欧州、日本』治部れんげ著


でございます。
noteの読書の秋キャンペーン対象作品であり、読もうと思い積んでいた中に有ったので丁度よい!と思い立った次第です。では総評からゆるりといきましょう。

【総評】
多様化の進む現代社会の様々な問題点や価値観を、各国製作のドラマに触れた筆者自身の視点によって形作られたジェンダーの現在地をマッピングされた地図のような一冊。

この総評に至ったポイントとして、
◆娯楽作品にこそ、時勢が宿るということ。
◆日本の取り上げ方に見る、自分自身の置かれている状況と認知について。
◆敢えて言わせてもらうなら。
上記3点を早速ゆるりと評していきましょう。



◆娯楽作品にこそ、時勢が宿るということ。

本書はわかりやすい構成です。著者が見てきた数々のドラマの中からジェンダー目線で解説を加えながらオススメしていきます。興味深いのは取り上げられているドラマの放映開始年と、舞台となる時代の設定です。放映開始年はおおよそのものが2015年以降です。それはブラック・ライブズ・マター運動(BLM)が世界規模の運動になっていく段階に入って以降になります。一方ドラマの舞台となるのは、現代劇ばかりかと思えば古いもので1800年代の時代をベースにしたものまであります。

つまり、様々な時代や舞台を下敷きに近年作成されたどのドラマも、現代社会の様々な価値観や問題点が浮き彫りになっていること、そしてそれがどういった問題提起でどう読み解くべきか指し示されています。更にそうした問題提起の読み解き方と同時に、ドラマ自体の娯楽作品としての面白さを伝えることができていることこそ本書の素敵な部分だなと感じる訳です。



◆日本の取り上げ方に見る、自分自身の置かれている状況と認知について。

読んでいて一番共感し、同時にショックだったのは日本の取り上げられ方です。日本以外で取り上げられているドラマについては、その多くが主に女性視点でのジェンダーに関する問題提起と読み解き方が語られています。(この視点の偏り方について思うことがある方もいらっしゃるかもしれませんが、これまで虐げられてきたのが圧倒的に女性側という歴史的事実を考えると妥当なバランスだと私自身は考えます。)

ただ日本のドラマの取り上げ方だけは違います。まず日本のドラマにおける女性登場人物の多くが前時代的なステレオタイプを脱せていないということです。詳しくは日本編の総評を読んで頂きたいのですが、実際筆者は日本編を書くことに一旦白旗をあげています。

では日本編はどう書かれているかというと、一部を除けば男性の同棲パートナーや独身を選んで生きていくことと言った具合に男性側の問題提起と読み解き方が主をなっております。女性視点への言及がグッと減った事に寂しさは感じながらも、男性である自分自身の価値観をアップデートするのに十分な視点を頂きました。特に自分の人生を、自分の権利により決めていく=自己決定権の大切さを強く意識しました。この強い意識を持てたことが本書を通しての読書体験が大切なものとなった大きな要因となったことは間違いありません。



◆敢えて言わせてもらうなら。

ただし気になるところもいくつかあります。
まずはタイトルに入っている「韓国、アメリカ、欧州、日本」という部分が実際の内容と順番が少し違うということです。内容に倣うならば「韓国、アメリカ、日本、欧州」とあるべきかと思います。
また各章の分量含め欧州が後から付け足されたのでは?とも感じられました。本書において確かに多様な国のドラマを扱う事自体は価値観の幅と一緒で大切だと思います。ただ付け足してまで入れるべきか、またその場合構成を国ごとではなく提示されている価値観別にすることもできたのでは?との感慨を抱くに至ったほどには気になりました。
またこれは今後更に期待する部分ですが、男性の著者が同じ作品を扱うとどう映るのか誰かアンサー本書いてくれないかな、と感じもしました。私自身にはそこまでの力量到底無いので、どなたか是非。



さぁ、ゆるりと書き綴るのもここまでです。
ちなみに各ドラマのネタバレについては絶妙なラインで語られているのでご安心ください。案の定私もいくつかの作品を見始めました。読書の時間は削られますが。
では、次回乞うご期待。



yururi

※作品情報
タイトル:『ジェンダーで見るヒットドラマ 韓国、アメリカ、欧州、日本』
著者:治部れんげ
出版元:光文社新書
価格:税込1,034円

#読書の秋2021  #ジェンダーで見るヒットドラマ #ゆるり書評 #治部れんげ

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