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13日の金曜日

なんとなく不吉に思ってしまうのは、「ジェイソン」の登場するあのアメリカのホラー映画を知ってるからなのだろう。

前もって釘を刺しておくと、私はホラーやグロテスクな実写映画は大の苦手だ。

何度も挑戦したが「ムカデ人間」「呪怨」「悪の教典」「ミュージカル」...。何を見ても途中で全身の血の気がひいて指先が冷たくなって内臓を締め付けられて断念。

リアルな血や生肉、嘔吐物は全般苦手。ホラーが好きな人とはきっとその部分においては一生分かちあえない自信がある。

そんな私がなぜ、一昔前に流行った『13日の金曜日』というタイトルのホラー映画を知っているのかというと、少し前に付き合っていた人にオススメされたからだ。

正確に言うと「騙された」と言っても過言じゃない。

当時、高校生だった私は学校終わりに大学生だった彼と図書館や、ファミレス、駅前のカフェで勉強会をするのが日課だった。

その日もファミレスでドリンクバーと山盛りポテトを頼み、勉強会という名のデートをしていた。

勉強会と言いながらも、次の日が土曜日ということで久しぶりに行くことになったデートの計画を練る。

うきうき気分で意気揚々と手帳についているカレンダーを開く。すると彼が突然「あ、今日って13日の金曜日なんだな。」と何かを思い出したように呟いた。

その頃の私ときたら、自分に自信なんて無くてすぐにヤキモチ焼くし嫉妬も束縛もしちゃう高二病ガールだった。

だから付き合ってる人の「私と出会う前の思い出話」に対して、すぐにしかめっ面しちゃうしむかしの女の影が垣間見えるとすぐ泣いてしまう所謂、面倒臭い女だった。

今回もきっと彼の脳内で昔話を繰り広げられるんだろうなと勝手に思い込みもやもやした。

「そうだ、映画見たい!次のデートは映画見に行こ!」

話題を無理やり変えようと咄嗟にデートの内容の提案をした。

「映画かあ...」

彼はそれでもまだうわの空で曖昧な返事だけを返してきた

「ねえ、きいてる...?なに考えてるの?」

いらいらが募る。

「え、ああ。ごめん。『13日の金曜日』ってアメリカの古いホラー映画があってそれ思い出してたわ(笑)」

呑気な返事が私をさらに煽る。

「えー、なにそれ?13日の金曜日に何かあったの?」

前の彼女との記念日なんて言ってきたら一発殴ってやろうかとも考えた。

「やっぱ知らないかー。キリストの最後の晩餐に13人いたとか、イエス・キリストが磔刑にされた日っていう俗説から13日は不吉な日といわれるようになったんだよ」

しかし、返ってきた言葉は全く見当違いで、ほっとしたのを気づかれないように冷たい言葉を投げかけた。

「ああ、なんだ。キリスト教のよくあるうんちくね。」

相変わらず可愛くない。

「まあそう言わずに(笑)そこからアメリカのホラー映画として『13日の金曜日』が誕生したんだ。ジェイソンっていうお面をかぶったひと殺しが出てくる。」

彼は優しい口調で映画について語ってくる。

「なんで金曜日なんだろう。金曜って私からしたら平日が終わって、楽しい終末を迎える幸せの前日なのに。」

こうやって明日からの休みのデートの計画をたてられる金曜日は私はとても好きだった

「なんでだろうね。タイトルつけた人が金曜日が嫌いだったんじゃないかな?」

金曜が嫌い...?

「金曜日が嫌いな人っているの?休みが来て欲しくなかったのかな。それとも木曜日まで頑張りすぎて金曜日なんてなくなれーって思ったのかな」

私の質問攻めに彼は呆れた顔で笑いながら応える。

「そうかもね(笑)それよりさ、これから一緒に見ない?その映画。」

左耳がピクっと反応する。

「え、私がホラー苦手なの知ってるじゃん...」

あからさまに怪訝な顔をする私。

「大丈夫、そんな怖くないし最後は泣けるヤツだから」

微笑んでるのか、ニヤついてるのかわからない表情でわたしを見つめる彼。

「えー、ほんとに?」

怪しむ顔で見つめ返す。

「俺が嘘つくとでも?」

まっすぐに私の目を見つめる彼の眼差し。

「わかった。信じる。」

根気負けしたことと、彼の家に行ける口実ができた嬉しさでわたしは見ることを決めた。

...

......。

そう言って、彼の家で見た『13日の金曜日』は案の定、怖すぎてギブアップ。

「...嘘つき」

部屋に置いてあった一ヶ月前のデートでゲーセンでとったぬいぐるみを抱きながらつぶやく。

「ごめん、まさかそんな怖がると思わなかった...(笑)」

半分面白そうに私のことを見てくる。

「きらい」

悔しくなって、思ってもない言葉を口にする

「...ほんとに?」

さみしそうな顔をされて折れそうになる心をむりやり引っ張るように

「うん、きらい!!!!もう別れる!!!!!」

と勢いよく叫んでしまった。

「ええー(笑)ちょっとからかっただけじゃん。ごめんって、ほらアイス奢るから、な?」

それなのに、全く動揺せずに頭を撫でながら優しく接してくるところが好きだったのかもしれない。

「...許す」

我ながら思い返すと単純な女だったなあ。その日から、13日の金曜日はちょっと嫌いになった。はずだった。

昔の彼を思い出すし、彼から教えてもらわなければきっといちいち気にすることもなかった。

夜だって、ビクビクしながら独りベットでうずくまることもなかっただろうし、トイレにも平然と行けただろう。

今でも13日の金曜日は、
怖くなってしまう。

世の中には知って幸せになることと、
知らない方が幸せでいられることが
あると思い知ったのは、この経験が
あったからだ。

でも逆に言うとこの経験がなかったら、今日こうやってスマのの画面に食い入るように文字を打つことも、noteを書くことも無かったのかもしれない。

そう考えたらあの日、あの時、あの瞬間に知ることができて幸せだったのかも。

今となっては、彼の隣で泣きわめいた13日の金曜日だっていい思い出だ。

なあんだ、13日の金曜日って
意外と悪くないじゃん。

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