新常態「その仕事、AIで」、定型業務、求人30%減、問われる人材教育


【コロナが後押し、人で不足を人工知能で賄う】
 新型コロナウイルス収束のめどが立たないなか、人工知能(AI)で業務を自動化する動きが広がっている。日本経済は新型コロナで変調するまで慢性的な人手不足に苦しんでいた半面、デジタル化は遅れていた。人の接触を減らすためにも、自動化の機運は高まる。ニューノーマル(新常態)に備えて働き手の教育を充実し、自動化される仕事から人材を移す必要がある。

【自動化されやすい職種 主に事務、製造の現場職】
 採用の手控えが広がる転職市場のなかでも「自動化されやすい職種」は求人減が目立つ。パーソルキャリアの転職情報サイトに掲載された約2200職種の求人(正社員と一部契約社員)を英オックスフォード大学の研究をもとに、自動化されやすい職種(約250)とそれ以外に分類。5月と6月の求人数は、自動化されやすい職種が前年同月より30%以上減り、それ以外は1割程度の減少だった。  自動化されやすいのは定型的な作業が多い事務職(35~37%減)や製造業の現場職(30~31%減)。19年から伸び率の差が目立ち始め、企業が自動化にシフトし始めていた可能性がある。さらに新型コロナでは、「密」を避ける手段としても重要

自動化を担うのがAIやRPAだ。茨城県は今春、休業要請に応じた企業への協力金の支払いで、システム入力作業にRPAを使った。外出自粛で出勤する職員は限られたが、作業時間を延べ1800時間減らして乗り切った。効果がわかれば広がりは早い。RPA大手、米ユーアイパス日本法人によると既存の顧客が用途を広げる例が相次いでいる。  感染予防のため少人数での運用を迫られるコールセンターは、AIの活用を進める。ベルシステム24ホールディングスとソニーは顧客との会話をAIで分析して、オペレーターが業務の参考にする「回答例」を改良していくシステムを開発した。経験を素早く共有すれば、効率的に問い合わせに応じられる。  

【工場も非接触を意識する】
工場も人の接触を減らす。制御システムを手掛ける独シーメンス日本法人の藤田研一社長は「日本では熟練技術者への信頼が自動化の障害になってきた面がある。コロナは日本のものづくりのデジタル化を後押しする」と話す。  企業は自動化や効率化につながる情報分野に積極的に投資する。経済産業省の特定サービス産業動態統計では、新型コロナで企業活動が停滞した4~5月も情報サービス業の売上高が前年より増加。もともと日本は、先進国の中でも自動化が遅れていた。米マッキンゼー・アンド・カンパニーは日本で将来的にAIやロボットに代替される可能性がある雇用の割合が、56%と試算。世界54カ国・地域の平均(50%)を上回った。  デジタル技術は仕事を奪うだけではない。新しい雇用も生む。米マイクロソフトは2025年までに、データ分析などで世界に1億4900万人分の雇用が生まれると予測する。ただ必要な知識や技術は、新しいものだ。米国ではその変化に合わせた人材の再教育に動き出している。

【オンライン研修で、あたらしい仕事の手助け】
 米議会の超党派のグループは5月、コロナ禍で失業した人に1人4千ドルの職業訓練費用を支援する法案を提出した。デジタル関連などの高度技術を習得するプログラムの受講者が対象で、民間でもマイクロソフトや米グーグルが、オンライン研修の提供や支援を表明している。  一方で日本のコロナ対策は雇用調整助成金など、既存の雇用を維持する目的のものが中心だ。コロナ禍の先にある社会で必要とされる人材を育成することが、日本に求めらる最大の経済戦略だ。

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