世界企業、守りの資金確保、過去最高水準、需要蒸発に対応、中銀マネーが支え。

【企業 手元の資金確保を増やす】

 世界の企業が手元に持つ資金を増やしている。3月末の手元流動性は月商の2・4カ月分と過去最高の水準となった。新型コロナウイルスの感染拡大で経済が事実上停止し、売り上げは急減しているが、固定費の支払いなどで資金は出ていき、資金不足への危機感は強い。各国の中央銀行が異例の金融政策に乗り出すなか、資金不足を防ぐために借り入れを通じて確保を急いでいる。
 欧米では経済を再開する動きが出るが、元に戻るには時間がかかるとの見方は多い。企業がさらなる資金調達を迫られる可能性が高いが、借り入れが増えることで財務の悪化は避けられない。


【リーマンの時にはなかった 有利子負債が自己資本を超える】
QUICK・ファクトセットで2020年1~3月期決算を公表した金融除く世界の上場企業約5500社を集計した。
 3月末の手元資金は3兆7000億ドル(約390兆円)と1年前に比べ15%増えた。1~3月の平均月商の2・4カ月分で、0・4カ月分増えた。売上高が5%減ったが、それ以上に手元資金が膨らんだ。有利子負債は11兆4700億ドルと約1割増え、自己資本を上回った。リーマン危機時にもなかった状態だが、市場は「信用リスクが意識される局面では容認される」(東京海上アセットマネジメントの橋爪幸治氏)とみている。
 米コカ・コーラは1~3月に80億ドルを調達、手元資金を176億ドルと57億ドル増やした。4月以降も「進行中のものを除きすべての設備投資を一時停止」(ジョン・マーフィー最高財務責任者)して、流動性を高く保つ。 業種別では世界中にサプライチェーンを広げている自動車(2・6カ月分)と機械(2・9カ月分)が0・8カ月分増やした。一方で空運は0・4カ月増えたが、2・2カ月分にとどまる。


【景気が回復し、工場の稼働率が戻るのは3年かかる】
 企業の調達を支えるのは、中銀の金融緩和だ。米連邦準備理事会(FRB)は3月からコマーシャルペーパー(CP)の買い取りに乗り出した。4月からは社債の買い取りも始め、低格付け債を含めて発行市場と流通市場で総額7500億ドルの買い入れ枠を設定した。
 企業は資金調達がしやすくなり、4月にはボーイングが総額250億ドル、デルタ航空が35億ドルの社債を発行した。米企業の4月の社債発行額は2294億ドルと月間で最高となるなど、今後企業の手元資金がさらに膨らむ可能性もある。
 中銀から企業に資金が供給されても、新型コロナの感染が収束し、雇用が安定しなければ需要は回復しない。資金が投資に回って「景気が回復し、工場の稼働率が戻るには3年ぐらい見ておく必要がある」(JPモルガン・アセット・マネジメントの重見吉徳氏)との見方もある。

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