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2つの人生を同時に生きられるならどうしたいか

迷いのない人生を生きてみたい。そういう人に惹かれる。ぼくにはできないことだからである。なんでもいいけど、世情に無縁なことに人生をささげている人を見るとうらましい。ギャンブラーやカーマニアがうらやましい。コレクターという人種もうらやましい。ぼくはギャンブラーにも、カーマニアにも、コレクターにもなりたくないが、それにもかかわらず、うらやましいのである。

以前にも書いたことがあるけど、ぼくはシアトル在住のレトロゲームコレクター・ユーチューバーMetal Jesus(メタルジーザス)氏のファンである。

職業ユーチューバーをやっている以上、ゲームがイヤになることもあるはずだ。しかし、彼のコレクター欲をみていると、イヤイヤやっているようにはとても見えない。膨大な時間をかけて、ゲームコレクションをやっている。仲間と刺激しあっていることが大きいのだろう。

オレゴンには「ポートランド・レトロゲーミング・エキスポ(PRGE)」というレトロゲームコレクターの一大活動拠点があるらしく、日本でいうところの「コミックマーケット」にちかい熱気を感じる。

かれはそこに「メタルジーザス・アンド・フレンズ」というユニットのような形で出演している。この記事の見出し画像に並んでいるパネラーたちである。ユニットというより気の合う仲間たち。動画の中でもかれらが情報交換し、いっしょにゲームを遊び、コレクションを自慢しあう様子が、見ていてたのしい。

みな消費者側の人ばかりで、業界人やクリエイターはいない。建設現場で働きながら大学の日本語講座に通っている人など、経歴自体から好きでたのしんでいる雰囲気が伝わってくる。

しかし、彼のチャンネルも80万人を越えた。有名になるといろんなことを言いだす人が出てくるものである。

メタルジーザス氏は、隠れた名作、掘り出し物のゲームを紹介することが多いのだが、これだけチャンネル登録者がいれば、紹介した後に値段が上がることがある。その情報を事前に仲間に流して儲けているのだという動画を流し始めた連中がいた。

しばらくすると、うわさが彼の耳にも入ったらしく、ナレーションがぎこちなくなってきたのである。

・自分はこれらのゲームを楽しんでいるだけだ
・このソフトは値段が上がったら無理に買わないほうがいい
・この場所は無理を言って取材させてもらった。商品もお金を出して買った

こちらが聞いてもいないことをいろいろ言うようになった。

有名になったばかりで、見えない悪意にどう対処したらいいかわからない一般人のぎこちなさがよく出ており、うわさされているようなブラックな人には見えない。

仲間とのつながり方も判断材料になる。『釣りバカ日誌』の浜ちゃんとスーさんは社長と平社員の関係性を感じさせないが、利害関係でつながっている人と趣味でつながっている人とでは雰囲気がちがうものだ。

また、妙なうわさを流す人がどういう人なのかもつぶさに観察できた。

こういう知見が蓄積されると、他の分野で不穏なうわさが流れたときの真偽を見分ける目を養うことができるのでありがたい。しかしそういうことを考えている時点で、ゲームに没頭する人生とは無縁なのである。

ぼくは、ゲーム一筋に生きることなどできないが、もし複数の人生を同時に生きられるなら、そのうちの1回くらいはかれらのような人生を生きてみたい。世間と動きとは無縁なたのしみに没頭し、そういう自分に疑問を感じることなく生き切ってみたいものだ。

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