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#小説

「彼ほど頼りになる探偵はめったにいない」

「彼ほど頼りになる探偵はめったにいない」

読み始めたころはお元気だった・・

ハードボイルド作家で、直木賞作家の原尞氏が、今年の5月4日に亡くなられたそうだ。享年76歳。

ぼくは、長年の原尞ファンである。しかしファンの割には訃報に気づくのが3か月遅れて、追悼するには時機を逸してしまった。

言い訳をするなら、最新作『それまでの明日』(2018)を読みはじめたのが昨年の11月で、読み終えたのが一昨日だった。読んでいるあいだは、作者が存命か

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宇宙と世間とどっちが大きいか?

宇宙と世間とどっちが大きいか?

こう聞かれたら多くの人は「当たり前のことを聞くな」と言うだろう。宇宙のほうが広いに決まっていると。

たしかに宇宙は広大で、銀河系はそのごく一部分にすぎない。そして、その銀河系のすみっこに太陽系というのがあって、その太陽系の中の小さな惑星が地球である。

その地球の中のごく一部分が「世間」と呼ばれている場所なのだから、そう考えれば、宇宙と世間の広さを比べるのはおよそバカげている。そう思うのがふつう

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すべての文章はきれいごと

すべての文章はきれいごと

強度のアニメオタクの人たちは、3次元の異性に興味を抱かず、2次元のキャラクターに恋をするそうだ。このことについては、まえまえから不思議に思っていたし、いまでもよくわからない。

しかし、実は、ほんの少しわかるような気がしないでもないと思うこともあり、アニメのことはわからないが、小説やマンガについてややならわかる。

小説やマンガに描かれている世界は、たとえ「現実を忠実に描写している」と評されている

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アートな恐怖もあると思う

アートな恐怖もあると思う

昨日は笑いと恐怖について書いてみたんだけど、おしまいに「ホラーはサービス業だ」と書いた。

ホラー映画でも、ゲームでも、ジェットコースターでも、お化け屋敷でもなんでもそうだとおもう。客を怖がらせるために作り手は四苦八苦している。こっちからどひゃーっと来ると見せかけて、あっちからどひゃーっときたりして、あの手この手でタイヘンである。

「これで怖がらないのは、客にセンスが足りないからだ」などとは言わ

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まちがって2冊買った本

まちがって2冊買った本

ススキノ探偵シリーズで知られる作家 東直巳氏の作品に「南支署」シリーズというのがある。シリーズと言っても2作しかない。

『札幌方面中央警察署 南支署 誉れあれ』
『札幌方面中央警察署 南支署 誇りあれ』

見てわかるとおりタイトルがややこしくてよく似ている。

数年前、1作目の『札幌方面中央警察署 南支署 誉れあれ』を読んだあと、2作目の『札幌方面中央警察署 南支署 誇りあれ』をネットで購入しよ

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松本清張の色気

星新一というSF作家をごぞんじだろうか?

90年代に亡くなっている。

熱心なオールドファンがいる一方で、「誰それ?」という若い人も多いだろう。

1作品が2-3ページで完結するショートショート(超短編)小説を極めた人だ。

かれの作品には、時代背景などはいっさい描かれない。

「いつの時代でも読める普遍性を追求している」と、ご本人があるインタビュー記事で語っていた。

主人公の名前も「エヌ氏」

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アリの巣の記憶

大学の二回生の初夏のころ、あらゆることに疲れ果てて、八方ふさがりになったことがある。学業もバイトも人間関係も、なにもかもがうまくいかず完全に参っていた。

そんなある日の午後、裏庭に出て直射日光を受けながら地面にしゃがみこんでアリの巣をみていた。

二十歳そこそこの男の子が地面にしゃがみこんでアリの巣をじっと眺めている姿はやや病的だ。

ただしそれから数分経過したところで、気づくと、ぼくの気力と体

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