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ビリヤニのおそろしさを知っているか

ビリヤニ。インド・ネパールで食べられる炊き込みご飯。その単語を初めて聞いたのはいつだったか。そういば、食に対して感度の高い会社の先輩が残業中に「ビリヤニ食いてぇ…」と突如悶えはじめたことがあった。

そのときはまだ「ビリヤニ?なにそれおいしいの?」という感じでよくわかっていなかった。はっきりとその存在を認識したのは、今年の春頃バズっていたこのツイートがきっかけだ。



ユーモアと哀愁に満ちたこのツイートは、私の脳裏に深く刻まれた。

そこからまた半年ほどの時間が経過する。頭の中にビリヤニのことが気になりつつ、ただ近所に食べられるお店がないためなんとなく先延ばしになっていたのだ。

ところが、私の友人までがこの危険な食べ物に染まってしまった。ある日彼女のタイムラインをのぞくと、普段は現代アートや文学に関する知的ツイートがならぶ彼女のタイムラインの中に、偏差値3くらいのものがポツポツと混ざっているではないか。

「ビリヤニ食べたい」

「そろそろビリヤニ食べたい!」

「ビリヤニ食べちゃった!!!」

もはや中毒患者のそれだ。

最初は怪訝な面持ちでスクロールしていた私だったが、たっぷり5分ほど彼女のタイムラインを遡るうちに、どうしてもビリヤニなるものを食べてみたいという気持ちを抑えられなくなってしまった。

ふだん感情をあまり表に出さない彼女の本能を、目覚めさせてしまった食べ物。食べてやろうじゃないか。

というわけでくだんの「ナンたべたツイート」のお店を目指し、私はひとりで颯爽と新高円寺に向かった。

オープン直後の11時。まだお客さんは誰もいない。ほんとビリヤニ(本格ビリヤニの意)のラインナップは4種類。本日のおすすめはチキンだよ、ということでチキンビリヤニを注文。

とうとうもう少しでビリヤニと対面できる…!とそわそわしていると、店員さんから無言でそっと漫画を差し出された。これでも読んで待っておれということか。タイトルは・・・

『踊る!狂気のJK カーリーちゃん』

タイトルから溢れる猟奇的な感じに若干気圧されながらもページをひらく。内容もタイトルに負けず劣らず猟奇的だったけど、意外とわかりやすくインド・ネパールの神様について知識を得られる良作でした。

対戦相手の首を刈り取って狂喜乱舞する争いの神、カーリーの絵を眺めているところにお待ちかねのビリヤニが来た。

お行儀よく盛られたお米は、スパイスに染まっている。初めてかぐ香りなのに、食欲をそそられる。

いざ口に入れると、お米はふんわり。葉っぱや茎(?)や種のようなものや、とにかく様々なスパイスがふんだんに使われており、ひとくち口に運ぶごとに違う香りがたちのぼる。一緒に炊かれたチキンはほろほろで、慣れないスパイスで麻痺しそうになる舌にやさしい。

いい意味で容赦のない、本場の味だな、と思った。いや本場のビリヤニなんて食べたことがないけれど。でもわかる。「日本人の口に合わないから」なんて理由で海外の料理がジャパナイズされてしまう例はたくさんあるけれど(そしてそれが必ずしも悪いとは思ってないけれど)、このビリヤニはきっとネパールで食べられる味とおんなじだろう。そう思った。

およそ2合ぶんくらいあろうかという量のビリヤニだったけれど、気づいたら完食していた。恐ろしい。

そして何より恐ろしいのは、この文章を書いている今、もうすでにビリヤニを食べたくなっているという事実だ。

明日はビリヤニをテイクアウトして、家で「ビリヤニパ」をしましょうと同居人にもちかけている。というか脅している最中である。

願わくばこの文章を読んだあなたも、ビリヤニの呪いにまんまとかかり、ビリヤニ中毒になってしまうことを祈りつつ。

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