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肉と実

ほんとうに、しんから可愛い子だなあ、って感じの友達に、「何食べたい?」って聞いた時の答えが、あまりにも可愛かった。

「肉と米」

もう10年くらい前の話だ。彼女の食の好みも変わっているかもしれない。それにしてもなんでおれのまわりの女の子たちはみんな男の子とつきあいたがるんだろうな。しかもなんか知らんけどだいたい飲食店、それもホストクラブとかじゃなくて本当に飲食だけを目的とするお客さんが来るタイプの飲食店で働いてる男の子とおつきあいなさるじゃん。なんで? 肉も米もあるから? そっか。じゃあ仕方ないね。

話が逸れた。

うちは米を火で炊いている。何年か前の台風のさなか、停電しそうで焦って三合くらいまとめて米を炊いていたら、なんと米が生煮えの時点で停電してしまい、しかもブレーカー落ちましたとかじゃなくて物理的に電線が切れるタイプの停電が起こってしまい、復旧に何日もかかり、おれはとちくるって生煮えの米をろうそくの火で炊こうとして無理だったので生煮えでポリポリ噛んで食べたのだ。あの味は忘れない。二度とごめんだと思った。誰かの作った電気エネルギーと工業製品に頼り切り、火と水で米を炊くこともできない人間でいるなんて、非文明的だと思った。もうこれ以上そういうふうでありつづけたくない。おかまを買った。台所用品の意味でのおかま。そんでおかまに米と水を入れて火で炊いている。まあ火は固形燃料をつかってるけど。最悪まじでアポカリプスなことになってしまってハルマゲがドンした場合も、おかまで米を炊くことには慣れている。おれはUSBトーチライターをソーラーパネルで充電し、その辺の落ち葉とか流木で煮炊きして食っていこうと思っている。

「肉と米」

あんなにセクシーな答え方ってあるだろうか? 信じられない。山崎ナオコーラさんのエッセイ集「指先からソーダ」に出てくる、火を起こしてホッケを焼こうとした男の子たちのエピソードを思い出す。火の中に、なんか、何かを見てしまい、途中でホッケがどうでもよくなって、「男は火が好きなんだ」とかなんとか言って、黙り込んで火を囲んでいた男の子たちの話。

「何食べたい?」
「肉と米」

そんなふうに答えてくれる可愛い子がいたらもう、「僕はマンモスでも狩る」という気になってしまう。今のは中島みゆきの「空と君のあいだに」の節で歌ってください。

「僕は悪にでもなる」
「僕はマンモスでも狩る」

Apple Musicにあったのは槇原敬之版のカバーだった。ものすごく一音一音はっきり発音して歌うなあ、この人は。

「なぜ女はついてゆくのだろう」

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