見出し画像

それぞれの船で向かう途中

5/31追記:本文中「それぞれの船」は、「シスとトランスの船」を意味しません。人間がシスとトランスに分断されることには抵抗します。シス・トランスのような米国由来の概念で世界じゅう分けてしまうのではなく、たとえば北アメリカのトゥースピリット、たとえば奄美のチヂバッペー、非米国的な・土着の・個人の自認をも尊重するには、6色の虹で世界中塗りつぶしてしまわないためには、どうすればいいか、というのがわたしの思考です。

関連記事「一色しかない虹で塗りつぶされないように」
https://note.com/yurikure/n/n1441a831652b

間違ったものを見ると、自分は正しい、と思えます。
正しさのために戦う仲間も見つかります。
一人で泣かなくて済むんだと思えます。
それは、生き続けよう、という意思につながります。

だけどなんか、ね、痛くはないですか。
めっちゃ痛いな、って思ってます、いま。

やっとLGBTの虹の旗のもとで息ができると思ったのに、そこから拒まれる痛み。

やっとLGBTの虹の旗のもとで守られると思ったのに、そこにいたから狙われて傷ついた痛み。

痛みが癒えていきますようにということをまずはマジで思っています。あなたの、っていうか、わたしの、っていうか、

人類の。

今から書くのは、2019年東京のレズビアンコミュニティのトランス女性排除について、です。

ざっくり言うと、わたし個人は……あえて用語を使うならば……アメリカで生まれ、国際連合や国際学会を通り、国際基準ということになった用語を使うならば、シスジェンダー女性のレズビアンです。

で、こう思っています。

女を……他者にどう扱われようと女として生きる人たちを、分断し、対立させようとする、見えないもやを晴らしたいなあ

わたしには、悪を裁く正義の顔をすることもできます。
たとえば、「日本のレズビアンコミュニティにおけるトランス差別主義は正すべきだ。わたしの主催イベントはそんなことしないからね!」みたいなことも言える。
たとえば、「日本のレズビアンコミュニティがお客さんの身分証の性別をチェックしたり見た目でジャッジしたりせざるを得ないのは、レズビアンのふりをして潜入する悪意の人間がいるからだ。性犯罪者のせいでシス女性とトランス女性が分断される。われわれ女性はシスもトランスもなく連帯して性犯罪者どもをやっつけよう!」みたいなことも言える。

ジャスティス!!

でも、そうはしません。
「正義が悪を倒す」的なシナリオよりは、もうすこし虹色に近い未来をデザインしたいなと思うんです。

わからないままです。それでも、少なくとも、「正義が悪を倒す!」および「悪がわたしを苦しめる。もうむり」の外側を探りたいなと思って探索する試みがこの文章です。真っ暗だし、いまんとこ光ないけど。つれえなあ、「彼女とラブラブ同性婚❤️辛い過去、LGBTも頑張って生きてますっ!(スタジオ感動)」みたいなフリだけしとけばもっと“使いやすい”駒になれるんだろうな、「わあ虹ですね!感動しました」って言ってもらえるんだろうなと思うけど。

それでも。

それでも。

まだ外側を探りたいんです。さらなる自由を信じ求めて。

まずわたしが話しかけたいのは、実際にレズビアンコミュニティから「お断り」されたり、レズビアンコミュニティを狙うやつに傷つけられたりといった直接的経験をなさったあなたに、です。

超言いたいのは、「絶対あなたのせいじゃない」ってこと。

「生まれた時医者に女の子ですと言われなかったときからわたしはのけものにされる運命なんだ」とか、

「女として生まれてしまったからあんな奴につけ狙われたんだ」とか、

自分の在り方自体にうわあああああああってなってしまったら、まずとにかく、休んでほしい。
どう生まれるかは選べなくても、どう生きるかは選べるんです。
そしてわたしたちが、そもそもレズビアン向けのイベントをネットでオープンに告知しながら開催しても警察に踏み込まれないとか、そもそも生まれた性別をこえて(トランスして)生きるという法制度上の選択肢が世の中にある、女の格好で一人で出歩ける時間がある、女が家およびムラの外の情報に触れられる、という世を生きているのは、当たり前じゃない。かつて女に生まれ、「どう生きるか」をあきらめずに生きた人たちがいるからなんです。

だから、あきらめたくなっちゃったら休んでほしい。
傷つくよね。痛いよね。

それでも生きている。生まれた先に、生きていける。ってことは、休むと思い出せることなので。

それから、ネット上など、直接的でない形で触れて傷ついている方に。まず、「部分だけで世界に絶望しないでほしい」とわたしからお願いしたい。

いや、絶望ー!って思って当然の状況です今。まじで。わたしも「まじむり」ってかんじだもん。

でも悲しみと怒りにひそむ真の心を知りたい。もののけ。「この件についてツイッターで何も発言してないからあの人は逃げたんだ」とか「こんなイベントがあるなんて日本の状況は絶望的だ」とか、見えてるものだけで決めつけて悲観することは、確かにそれ以上傷つかなくて済む効果を生むかもしれないけど、いわゆる悲観ってやつです。自分の悲しみの沼、自分の怒りの炎で、自分を苦しめないでほしい。自分には知らないことがあるって忘れないでいられる自分でいたい。

以上、わたしのものみたいに思えるあなたの痛みを、わたしがやわらげようとするこころみでした。

で。

結論、目指したいのはさ。

そりゃ、シスもトランスも何にもなく、誰でもオッケーいえーいでパーティできるダイバーシティな場だよね?

そこに行く過程での避難船がどうしても必要になってしまう、っていう嵐なんだと思う。いまは。

船は小さい。規格も統一してない。船によって「フェム限定」とか「著しく女性に見えない方は……」とかそれぞれやり方を考えないと乗り切れない。乗せてもらえないのは辛い。でも他に乗れる船もある。それで島に向かうしかねえなって思う。断られたり一緒に乗れなかったりするの、つらすぎて人魚姫みたいに消えたくなるけど、ここで沈むの、沈められたみたいで悔しいじゃん。拒否られても泳ぎたい。乗れなくても泳ぎたい。泳げなくても、浮かんでいたい。休んだらまた、他の船を、一人きりでも泳ぐ方法を、さがせるかもしれないから。その可能性があるから。

なんかポエムちっくになっちゃったので最後、経験を具体的に書きます。

わたしにはかつて、「レズビアンだから」と盗撮されたことがあります。「レズビアンならこれ好きでしょ?」って自宅を工事する業者の男に局部大写しポルノを見せつけられたこともあるし、「レズビアンなら警察に言えず泣き寝入りすると思って」というやつに付け狙われたりネットで変な画像を送りつけられたり脅されたりしたことも、あります。

そういうわたしを守ってくれた人がいました。その場を作った人でした。その人は、レズビアンの集まる場所に潜んで友達とわたしを盗撮していたやつを見つけ出して動画を消させ退散させてくれたんです。数年後に改めて「忘れられないです」とお礼を言ったら、覚えてないみたいだった。どんだけ同じようなことがあり続けたんだろうか、って、思いました。

脱出しよう。

宝島を目指そう。

その船旅のとちゅうにあるいまは、せめていまは、お願いです。いろんな船があることをどうかゆるしてほしい。乗船を断られた人に、「乗せないなら乗せないってはっきり書くべき」と言われ、提案された表現をそのまま書いた、あまりにも正直に従った船がある。はたして、いますぐその船を沈めるのが解決策だろうか、って、思うんです。わるいシス対かわいそうなトランス、って話じゃないとわたしは思うんです。同じ嵐に吹かれるいまは、いろんな船があることをどうかゆるしてほしい。船に乗れなかったと思っても、きっと宝島があることを忘れないでいてほしい。

守ってくれる人だけに砲撃が集中しないようにしたいんだ。
お互いを撃ち合って沈めあわないようにしたいんだ。

ねえ、きっと宝島を目指そう。
いまは、全員が乗れる船を開発できてない人類でも。わたしたちは……シスもトランスも女性も男性も同性愛も異性愛もなにもかも引っくるめたカテゴリとして、わたしたち人類は、いつも目指してきたはずだから。

この先を。

いまは、それぞれの船で向かう途中。

画像1


応援していただけるの、とってもありがたいです。サポートくださった方にはお礼のメッセージをお送りしています。使い道はご報告の上で、資料の購入や取材の旅費にあて、なにかの作品の形でお返しします。