見出し画像

料理系エッセイの効能

20代前半は、料理本ばかりを読んでいた。

その頃の私は、とあるガラス工房に勤めていて、肉体労働で毎日ヘロヘロ。正直料理はまったくせずに、外食かコンビニで済ませることがほとんどだった。それでも本屋に行くと、なぜだか吸い寄せられる料理本のコーナー。

多分、きちんとした生活感に飢えていたんだと思う。

24歳で初めての一人暮らしをするまでは、ずっと神奈川県の実家で暮らしていた。有り難いと思いつつも、このまま実家にいたらいつまで経ってもちゃんとした「自立」は出来ないんじゃないか、という気持ちが拭えず、どこか自信が持てないでいた。今思うと、実家にいてもちゃんと自立出来る人はたくさんいるのだから、自信のなさやモヤモヤした現状を「実家暮らし」が原因だと決めつけて、誤魔化していたところもあったと思う。

私は悩み事があると本屋を徘徊するクセがあって、二十代は特に色々な本屋をぐるぐるぐるぐる何時間も歩いていた。

どこかに自分が探している答えが書いてある本があるんじゃないか、何かヒントが欲しい、そんな気持ちと、一生かけてもここにある全ての本は読めないんだなぁという世界の広さを感じられて清々しい気持ち。そんな小さな開放感を求めて本屋を徘徊する。

そこで必ず立ち止まってしまうのが、どこの本屋さんにも必ずある料理本コーナーだった。

料理本コーナーから漂う、地に足のついた安心感。美味しそうな色とりどりの料理に美しいうつわやスタイリング。例え自分がそれらを作らなくても、ただ眺めているだけでもとてもリラックス出来る。その中でも私は特に、料理に関するエッセイが好きだった。

そこで今回は、特に思い入れのある本を簡単に紹介してみたいと思います。

高山なおみさんのエッセイ「日々ごはん」シリーズ

寝る前によく読んでいたこのシリーズ。文庫本よりも少し大きいこの本のサイズ感も好きだった。五感を開いて料理と向き合う高山さんの文章は、ヒリヒリして、空想のようで、でも現実感がある不思議な魅力。朝起きるのが苦手な私は、高山さんがすごく夜型で、毎日昼頃起きることも堂々とエッセイに書いていて、随分気持ちが楽になったりもしたなぁ。

高山さんの影響で、武田百合子の本もたくさん読んだ。「犬が星見た」のようなロシア旅行もしてみたい。

平松洋子さんの「夜中にジャムを煮る」

もうタイトルだけでも豊かな妄想が広がる、素晴らしい名著だと思う。ココアを小鍋でゆっくり練りながら沸かす、というのもこの本を読んでやってみた。もちろん夜中に。

有本葉子さんの「毎日すること。ときどきすること。」

有本さんのエッセイは、読むだけでスッキリしてそこら中を片付けたくなる。ここまで徹底して美しく暮らすのは私には難しそうだけれど、シャキっとしたい時、定期的に読み返している。

森下典子さんの「こいしい たべもの」

これは最近読んだエッセイだけれど、「日日是好日」で有名な森下典子さんの、どこか懐かしい香りが漂う優しい文章はもちろんのこと、森下さんご自身の挿絵もとっても可愛くて素敵だった。「日日是好日」は、確か大学生の時に読んで、こんな風に季節を感じながら歳を重ねていきたいと思った記憶がある。


料理系エッセイにたくさん救われてきたんだなぁ、と思う。
それぞれ「効能」は違うけれど、どれも美味しい記憶のように、思い出すとちょっと幸せな気持ちになれる、人生のスパイスみたいな本達。

本棚を整理していたら、なんだか当時の気持ちを懐かしく思い出して、こうして振り返って見た。

今読んでいる本も、いつか懐かしく思い出すのかな。



記事を読んでいただいてありがとうございます。いただいたサポートは、次のだれかの元へ、気持ちよく循環させていけたらと思っています。