窓際で永遠針刺してる
こんにちは、ドイツベルリンの夏は気持ちがいい。
それはそうと今作っている作品があまりに終わらない、
焦りももどかしさも全ては流され今はひたすら穏やかな単調運動が繰り返されるのみ。
分厚い服の生地に針をくぐらせては刺繍糸を巡らせていく。
糸が短くなったら切って、新しい糸を4本に解き、針の穴に通してまた続きを縫っていく。
小さな丸机を窓際に置いて部屋の端で作業をするのがここ数週間のお気に入りだ。
日が登りそして暮れていく。
大きな窓の外、中庭を挟んだ向かいの建物、真向かいの部屋は先日まで内装工事を行なっていた、
朝7時から大きい音を立てて壁を壊しては、4階の窓から伸ばした滑車で砕いた破片を運び出していた。
古い建物、住人が出て行ったそばからリノベーションして高い値段で貸し出すんだろう。
古く安く住める時代はものすごい速さで終わりを迎えているように思う。
左手には小学校の建物、今は夏休みで静か。
向こうの窓のない壁には緑の蔦が延び先端が赤くなっている、秋になったら蔦の葉は燃えるように色付きやがて全部枯れる。
ふと気がついた、煙突の先端だろうか、柵がある場所に鳥が止まっている。
しばらく眺めたが飛び立つ気配はなく、刺繍に集中した。
少し開いた窓から涼しい風が入る、今日は風が冷たい、8月も後半に入ると秋の香りがたまに顔を出す。
家のまえの川沿いに生えたプラタナスの木々は早々に葉を茶色くさせてしまった、最近は地面に落ち葉を増やしている。
服の刺繍の休憩に椅子を降りて部屋をうろついてみた、
右手の壁には自分と同じくらいの大きさキャンバス作品が3つほど同時進行で置いてある、キャンバスに円形に広がる刺繍の線が気になった、少し針を進めた。
刺繍の休憩に刺繍してることに可笑しくなった。
おやつに作っておいたプリンはゼラチンを入れすぎて少し固かった。
右手が震えるので手首にプリンのガラスの容器を置いて筋を冷やした、手首を固定しようかな、まるでスポーツ選手だ。
キャンバスとの試合みたいな勢いのある作品も作ってみたい。
そのためには今作っているものを終わらせたい、
終わらせたいのか、終わらせたくないのか、よくわからなくなってきた。
日が暮れ始めてふと顔を上げるとまだ煙突の鳥がいた。
かれこれ鳥を発見して4時間くらい経っている、
もしかして他の鳥を寄せ付けないためのダミーなのか?
確かに外を眺める度に、あ、鳥がいる、と思っていたような気もしないでもない。
そもそも鳥がいない状態を見たとしても、あ、鳥がいない、とは思わないから自分の記憶というのは曖昧だ。
そしてこの日記を書いている間、暗闇が広がり始めた頃にもう一度目を凝らしたら鳥はいなくなっていた。