0007 キコ・コスタディノフ "00012016" AW16 レビュー

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 一つ前の投稿でキコ・コスタディノフの学生時代の作品の考察を一通り書けたので、ここからはブランドとして発表したコレクションのレビューを順に書いていこうと思う。第一回目は無題("Untitled"と洗濯表示タグに記されている)のファーストコレクション「00012016」について。

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キコ・コスタディノフ AW16 レビュー

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ファーストシーズンの商品企画
 2016年7月9日にDSMにて2016年8月27日にDSMGにてローンチされた本コレクションはMAコレクションのアイテムをベースに、使用する生地の種類や色、副資材等を製品化にふさわしい形にアップデートしたものとなっている。ティールベージュ鮮やかなブルー等で構成されたMAコレクションに対して、キコ・コスタディノフの名を冠した最初のコレクションは紺、黒、白、水色等、派手さを抑えたカラーパレットで構成されている。なぜそのようなカラーパレットの変更があったのか?
 その要因は、ドーバーが最初の2シーズンをサポートすると同時に、独占販売するという契約を結んでいたからであると考えられる*1(intelligent magazine参照)。ファーストシーズンの開発と生産はLFWデビューコレクションとなるSS17の発表を控えた時期に行われ、ドーバーはMAコレクションのサンプルを元に、販売するに見合う商品が出来上がると見越してオーダーを入れてくれたという。セカンドシーズンを見てみるとそのカラーパレットは白、黒、紺、グレー、ブラウンといった落ち着いた色合いになっていて、制作の時期が重なったことがファーストシーズンの色合いを決める要因の一つとなったことが推測できる。
 また、マーチャンダイジングの観点から、メンズウェアでは鉄板の黒アイテムと白シャツをベースにした(あるいはドーバーからそういったオーダーが入った)ということもあり得るだろう。現に、5シーズン目のAW18ではショーでは登場しなかった黒色のアイテムが展開され、店頭には黒を貴重としたアイテムが多く並んだ。

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上の写真は筆者がファーストコレクションが発売された際にフィルムカメラで撮影したものである。工事現場を彷彿させる什器が興奮を抑えられなくなるくらいにかっこよかった。

アイテム展開
 
では、初のフルコレクションでありLFWデビューコレクションでもあるSS17の準備期間中に同時進行で進められたファーストシーズンはどのようなアイテム展開だったのか。
 まず8枚のルック写真から分析していくと、アウター2型、シャツ1型、トップス2型、ボトムス2型の計7型展開となっている。ルック写真は前と後ろからの写真で構成されていて、ルック数は実質4体である。そのうちトップス2型は背中と左胸にグラフィックがあしらわれたTシャツとフードパーカーで、こちらはどちらも既成品にシルクプリントとカスタムが施されたアイテムとなっている。ちなみにこのグラフィックはAFFIXやマッキントッシュのコレクションでも協業しているマルチプレイヤー、タロウ・スミス(@taroray)によるもので、元々はクリスマスカードに描かれていたものと見られる。

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 今やストリートファッションファンにとってはキコ・コスタディノフと言えばアシックスのコラボスニーカーとシーズンの通し番号(ex. "00012016")が左胸にプリントされたTシャツが有名であるが、これはブランドにおいて毎シーズン展開されるエントリーアイテムとして位置づけられている*2(HYPEBEAST参照)。通常、春夏コレクションでは半袖のTシャツ、秋冬ではそれに加えロングスリーブのTシャツも販売されるが、実は2シーズン目まではフードパーカーが秋冬のストリートウェア的アイテムとして展開されていたことを知る人はそう多くないだろう。おそらくそのままTシャツとフーディーのストリートブランドとしてバズってしまうと意図しないレッテル張りをされてしまうので、ドーバーの独占販売が解禁された3シーズン目からはあえて展開していなかったと考えられる。しかしここに来て先日発表されたAW19ではついにフードパーカーが再び販売されると読み取れるポストがキコのインスタストーリーに投稿された。しかも今回はどうやらオリジナルのボディとなっているようだ。50年代のウィメンズウェアをリファレンスとして制作したというAW19は以前のコレクションに比べてラフなアイテムが少し減ったように見えたため、それを補うための施策だろうか。いずれにせよ転売目的の人やハイプビーストたちが飛びつくことは間違いないと言えるだろう。

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だいぶそれたが再びファーストコレクションの分析に話を戻そう。

アウター2型は両方共MAコレクションに登場したアイテムのアップデート版であり、生地やディテール、身体へのフィット感が改良されているらしい

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 まずルック12に見られるミドル丈のタクティカルジャケット。こちらはMAコレクションでも同系色で展開されたものが(細かな修正はあるだろうが)ほぼそのまま使われている。このジャケットの特徴として挙げられるのはその名からも予測できる通り、ポケットの多さである。画像ではわかりにくいが胸ポケットの下部がそのままフラップになっていて、その下には隠しポケットが付いている。また腰部のフラップポケットはその裏にサイドポケットが付いており、目視で確認できるポケットの数は合計8個となっている。

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 通常タクティカルジャケットというと、隠しポケットが豊富で表面がツルッとしたものや、弾薬ポケットが大量についたタクティカルベストを思い浮かべるが、これは大量のポケットをスマートに仕込むことでその中間を行き、非常に優れたデザインを成立させている。特に後ろ身頃が前よりも長く設定されていることによって生まれるそのシルエットには燕尾服にもつながるエレガンスを感る。

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 上の画像はSS17時の物だが、見ての通り同じジャケットが再び登場している。これはファーストとセカンドシーズンがそもそもMAコレクションをベースとしているからで、おそらく当初はAW16コレクションをリリースする予定はなかったのだろう。急遽提案されて組んだからこその4ルック、7アイテムというカプセルコレクションになったと予想できる。

 次にもう1型の釣り人が着用するジャケットに似たディテールが見られるアイテムはワークウェア感が前面に出たアイテムとなっており、キコの初期のコレクションのムードを象徴する一点となっている。また、キコ本人がこのルックを丸々着ている写真が非常に印象的で、東欧から移住してきた移民である彼の風貌とブルーカラー的ワークウェアから漂うその雰囲気にはどんなモデルにも出せない特別な何かが醸し出されている。

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 自分が着たいと思う服を作ると言っている通りに、本人が一番似合っているのがキコ・コスタディノフの服であると納得させられる一枚である。なによりこのワークウェアにバルキーでハイテクなHOKA ONE ONEのトレイルランニングシューズ(Mafate Speed 2)を合わせるあたり、並のスタイリング力ではないと思い知らされる。

 次に注目したいのが本コレクション唯一のシャツである。これは日本のナース服からディテールを取ってきたというシャツで、私が3年前に初めてキコの服をtumblr上で見かけた一枚である。

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こちらはあえてルック写真ではなくインスタグラムに投稿されたアウトテイクの一枚を掲載する。というのも、私が目撃してひと目で心奪われたのがこの写真だったからだ。このブランドに出会わせてくれた今は死につつあるtumblrと、Unflavoredwaxedfloss 2.0氏には感謝する。
 さて、ここで注目すべきポイントはこのルック写真がなぜ背中を見せているかということである。今回のファーストシーズンはルック体数自体4つと少ないものを、少しでもビジュアルを増やすために前後で計8枚の写真に仕立てたということもあるだろうが、それよりもここで読み取りたいのはこの写真が発するこの服のディテールを見ろというメッセージである。
 ネックポイントから裾まで伸びるプリーツが作り出すフレア状のシルエット、それをウエストで絞るベルト。これは本来のナースウェアではスッキリとした、かつ女性らしいシルエットをもたらすためのディテールらしいが、ここでは寸胴になりがちなメンズウェアのシルエットにアクセントをもたらす役目を果たしている。

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よく見るとポケットの形もナースウェアのそれと同じデザインになっていて、スッキリとした印象の中に実理性が組み込まれているそのかたちは、それまでの男性向けユーティリティウェアにはなかった女性的なエレガンスがデザインされている。
 キコの服を研究していて思うのは、女性的なシルエットやウィメンズウェアからのリファレンスが多く見られること。そしてそれがそれまでのメンズウェアにはなかった新鮮さや奇妙さをもたらしているということだ。まず大きな特徴として挙げられるのが、身体を筒状の物体と捉えたときどこを絞り、どこを広げるかである。キコの場合、その特徴がとりわけ膝とくるぶしに現れる。
 膝ですぼまりくるぶしに向けて広がるパンツはキコがシグネチャーとするシルエットで、例えば以下のSS19(6シーズン目)ルック14ではそれを裾にダーツを仕込みジッパーで調節できるようにしてある。ひとは脚を動かし歩く際、決まって膝を曲げ前に振ることで片足ずつ前進する。そのとき膝が視点となりその上と下にある布は身体に吸い付くようにすぼまる。以下の画像がまさにその瞬間を捉えているといえる。
 一方でズボンの先端であり脚という振り子の先端にもある裾はその遠心力によって脚を取り囲む布が前後に揺れることになる。こうして、ある程度ゆとりをもたせたズボンを履いた人が歩く際に生まれる瞬間的なシルエットは膝ですぼまりくるぶしで広がるシルエットになるのであるまた、このシルエットは足と脚を一体化させ脚長効果をもたらす。それを利用したのがベルボトムジーンズやフレアパンツなのだろう。

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 いずれにせよ、キコの服はメンズウェアに女性的なシルエットを自然と持ち込むことで新鮮味と違和感を発生させていると考えられる。ワークウェアの文脈で語られることの多いデザイナーであるが、実は逆で、男性的なワークウェアに女性的なエレガンス(かたち)を持ち込んでラグジュアリーウェアへと昇華させているのではないか。どちらにしてもワークウェアとハイファッションをミックスして新たな価値観を生み出していることに違いないだろう。

 ちなみに、残りのボトムス2型は一つがリバースプリーツトラウザーと呼ばれる細身のパンツで、もう一つは膝裏にアクションプリーツが仕込まれたワイドパンツである。リバースプリーツトラウザーはその名の通り、前後逆方向に折られた複数のプリーツが先述した膝ですぼまりくるぶしで広がるシルエットを作り出している非常に凝ったパターンのパンツである。もう一方のワイドパンツはこれまた秀逸なデザインで、すでにゆとりのあるデザインにもかかわらず裾にはスナップボタンで開閉できるプリーツが仕込まれていて、シルエットを調節できるというキコの服の醍醐味を実現した一点となっている。画像については上記のルック写真を参照していただきたい。

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 さて、ここまでつらつらとファーストコレクションの個人的な分析を述べてきたが流石に5000字近くなってきたし、執筆している現時刻も夜深くなってきたので、ひとまずこの状態で公開しようと思う。後日また自分で読み直してリンクを追加したり文章を書き足したり、修正する予定である。
 次回、0008番目の記事はおそらく「キコ・コスタディノフ SS17 "Two deaths, Three births」となるだろう。なるべく今回のような勢いで書き上げて後日修正するというスタイルを実践していこうと思うので、ぜひまた読んでいただけるありがたい。

それでは。

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yuri

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