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0011 キコ・コスタディノフ "00022017 Two Deaths, Three Births" SS17 レビュー

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キコ・コスタディノフ "00022017 Two Deaths, Three Births" SS17 レビュー

 キコ・コスタディノフのコレクションレビュー第3弾はセカンドシーズンの「00022017 "Two Deaths, Three Births"」を取り上げる。コレクションの性質上、ファーストシーズンをに関する記事も読んだ上で本稿を読んでいただけるとより楽しめるので、ぜひチェックしていただきたい。

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LFWデビューコレクションとしての00022017

 まずはこちらからコレクションのルックを一通り見てから読み進めていただきたい。

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 KIKO KOSTADINOVというブランドとして2シーズン目となる本コレクションには00022017というナンバリングと「Two Deaths Three Births」というタイトルがついている。タイトルの意味についてはまた後ほど触れるとして、ファーストシーズンがルックのみでの発表だったのに対して、今回はフルランウェイショーとまでは行かないが、実空間でモデルを使用したプレゼンテーションが行われた。
 わずか8 週間で準備したというこのコレクションはMAコレクションのアップデートだったファーストシーズンのさらなるアップデートなので、キコのコレクションを見ていく上で、MAから2シーズン目までは実質一つのコレクションと捉えていいだろう。また、このシーズンはNEWGEN MENというロンドンの若手ブランドを支援する制度のサポートのもと、London Collections: Mensの公式スケジュールのもと開催された。
 プレゼンテーションは地下駐車場のような薄暗いスペースを会場に、2度短いランウェイショーが行われた。セットには建設現場で使用される照明器具が設置され、MAコレクションから地続きのワーク&インダストリアルな雰囲気が醸し出されいていた。

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ここで一度ショーの記録映像を見てみよう。

 実際のショーも同様であったかは不明でだが、この映像で使用されている音楽はストラヴィンスキーの「春の祭典(Rite of Spring)」である。奇しくもこれは2015年に発表されたAitor Throupのコレクションタイトルと同じであり、キコはセントマに入学する以前にAitorのスタジオでインターンをしていたので(選曲は単なる偶然でしかないと思うが)。Aitorとキコの関係性については過去の記事で詳しく書いているので興味のある方はぜひ読んでみてほしい。
 ちなみに、このシーズンから工場での生産が始まったらしく、インスタグラムでは工場とサンプルのやり取りをしている画像が挙げられている。話によるとこの当時のスタジオは下に縫製工場が入っていたため、その場でサンプルのやり取りができたらしい。現在はChocolate Factoryという新しいスタジオに移動し、生産もより人件費が安くキコ自身の故郷でもあるブルガリアで行われている。
 またこの2シーズン目まではDover Street Marketが独占販売の契約をしていたため当時、ロンドン・ニューヨーク・ギンザのドーバー3店でしか入手できず、現在では極めて希少なコレクションとなっている。

 


ルネサンス期を彷彿させるシルエットとエレガンス

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 それでは、コレクションの概要に続いて、より細かい視点からこのコレクションを見てみよう。
 個人的にも一番好きなこの2シーズン目は、MAコレクションから続く現代日本の作業服をリファレンスに、ユーティリタリアン(機能主義的)なワークウェアというコンセプトのもと制作されている一方で、キコの服特有の女性らしいシルエットがすでに立ち現れている。雑誌のインタビューでも本人が述べているように、ワークウェアテイスト(3シーズン目まで)以降は意識的に昔のウィメンズのファッション誌をリサーチするようにしているという。
 このコレクションのポイントは、なんといっても冷たくマットな質感のワークウェアの中にある一種のケレン味だろう。その正体はMAコレクションからファーストシーズンにかけて展開したワークウェアアイテムに、ベレー帽とスカーフというアイテムを足すことで浮かび上がるルネサンス期の絵画のイメージであり、それがワークウェアを新たなエレガンスの次元へと昇華していると考えられる。また、実際に一部のインタビューではルネサンス期の絵画にインスピレーションを受けたとも述べている。

以下にルネサンス期に描かれた絵画の内、本コレクションのハットを彷彿させるものをいくつか参照してみた。

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ラファエロ・サンティ作「自画像」1504-6年

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ハンス・ホルバイン作「ボニファシウス・アーマーバッハの肖像」1509年

 さきほどルネサンス期のイメージと述べたが、私個人が最初に思い浮かべたのはチェ・ゲバラとフランス革命を描いた絵画であった。ゲバラのトレードマークでもあるベレー帽、ユーティリタリアンなミリタリーウェア、風になびく首に巻いたスカーフが革命の景色を思い浮かばせるのだ。

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ルイ=レオポール・ボワイユ作「サン・キュロットの扮装をした歌手シュナール」1792年

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エルネスト "チェ" ゲバラ(1928 - 1967)


ロンドンデザイナーの階級社会へのまなざし

 私がこのコレクションを見て「革命」を思い浮かべたように、ロンドンには常に階級社会というイシューが存在している。というかイギリス自体、歴史的に階級社会であるとされている。階級社会の果てにあるディストピアを描いた有名な作品としてジョージ・オーウェルの「1984」という小説がある。この作品の中で主人公は国を支配している政党の下級党員として働いているが、彼ら下級党員は青のつなぎを制服として着ている(一方で上級党員は黒色のものを着ている)。

 つなぎは上下が一つになった服の総称であり、英語圏ではさらに細かくジャンプスーツボイラースーツに分類することができる。ジャンプスーツはボイラースーツよりもタイトフィットであるとされ、これらは主に作業着として着用される。1930年代に英国首相だったウィンストン・チャーチルが提案し好んで着用していたレジャー服「サイレンスーツ」もほとんどボイラースーツと変わらないものである。

 労働者の制服としてのワークウェア、そしてよりスペシフィックにボイラースーツ。このアイテムはMAとファーストシーズンにはなかったが、今回のアップデートされたラインナップで追加されたものである。これがよりワークウェア性を高め、コレクションとしての強度を上げているといえるだろう。労働のための機能性、そして労働者同士の差異をなくし同時に一体感をもたらすためのユニフォームという概念は、ワークウェア期最後のコレクションとも言える3シーズン目でさらに明確に打ち出されている。「Clasless(無階級)」というコレクションタイトルからも明らかな3シーズン目についてはまた別の記事で詳細に解説するとして、話をシーズン2に戻そう。

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アイテム展開・分析

 アイテム展開はファーストシーズンの7アイテムに加えて、MAコレクションで登場したスタンドカラーシャツ(本コレクションでは特殊な染め加工が施されている)、今期の新作であるボイラースーツ、片腕とストールが合体したアクセサリーアイテム、コンパクトに折り畳めるパッカブルなアノラック、Tyvek生地製フーディー、フレア状の袖が特徴的なシャツジャケット等が新たに追加されている。
 カラー展開はブラック、ネイビー、チャコールグレー(ブラウン)、グレー、ホワイトの5色で、すべて同一の正規Ventile生地を色違いで使用されている。この生地のバリエーションの少なさは、当時のブランドの規模感を表していると言える。テキスタイルの種類は少ないが、Ventileは高価な生地なので、ディテールや副資材にとことんこだわる姿勢が伺える。
 ジッパーは業界の中でも最高峰、スイスのriri社製のものを使用し、スナップボタンも同社が展開するcobraxの高級スナップボタンを使用。3シーズン目からはこのスナップボタンにオリジナルの刻印を入れたものを使用している。また、このスナップボタンはファーストシーズンから最新のコレクションに至るまで同一規格のものを使用しているため、アイテム同士をドッキングする事が可能となっている。

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今回のメインテキスタイル「Ventile」について

 今回のコレクションは先述したとおりVentile生地と、今回ほとんど市場に出回らなかったTyvek生地、白のシャツ生地の3種で構成されている。Ventile生地はイギリスのVentile社が開発したコットン100%の撥水透湿生地で、糸を高密度に織り上げることでその撥水性を実現している。正規品の他にライセンス品もあるが、このコレクションでは英国製の正規品が使用されている。その証拠にこのコレクションの服の内側にはVentileの正規品タグが縫い付けられている。

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 一方、Tyvek生地とはアメリカのデュポン社が開発した高密度ポリエステル不織布で、主に建築資材として使用されることが多いが、アパレル製品に使用されることも少なくはない。よく見かける例として化学防護服があげられる。

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多様な人種のモデルたち

 注目すべきはモデルの人種の多様性である。白人から黒人、アジア人まで多種多様な人が採用されている。ちなみに次の0003ではアラブ系、0006ではインド系と、移民デザインナーらしく ーあるいは、これは人種の坩堝である「ロンドンらしさ」なのかもしれないー キャスティングにも多様性の観点から意識を向けていて、こだわりを感じる。これはキャスティングを担当しているエージェンシーの力であるかもしれない。

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コレクションタイトル ”Two Deaths Three Births”の意味

 コレクションタイトルの"Two Deaths Three Births" は一体どこから来たのか。調べてみるとわかることだが、これは映画監督であるロベール・ブレッソン(Robert Bresson, 1901-1999)の映画に関する方法論に出てくる言葉である。では「二度死に、三度生まれる」とはどういうことなのか?その言葉が出てくる彼の著作「Notes on Cinematography(1975)」における一文を参照してみよう。

On two deaths and three births. My movie is born first in my head, dies on paper; is resuscitated by the living persons and real objects I use, which are killed on film but, placed in a certain order and projected onto a screen, come to life again like flowers in water.*
* To "cinematograph" someone is not to give him life, It is because they are living that actors make a stage play alive.

Robert Bresson "Notes on Cinematography", p.7


 なぜキコはブレッソンの言葉を引用したのか?その意味に共感したのか、それともコレクションのインスピレーションにブレッソンの映画があったのか。私はそれを確かめるためにブレッソンの作品を鑑賞してみた。
 中でも私が注目したのは1959年公開の「スリ(原題:Pickpocket )」である。スリ集団がターゲットから財布を抜き、華麗にパスし、人を欺くシーンは圧倒的であり、そこに美しさすら見出すことができる。ここからは私の単なる妄想だが、もしかしたらこのシステマティックな動きが、今回のコレクションのインスピレーションとなっているのかもしれない。実際、本コレクションのコートには中に履いているズボンのポケットにアクセスできるようにスリットが入っており、服におけるポケットの役割や機能性に着目してデザインされていることが分かる。

おわりに

 さて、ここまでいくつかの切り口からコレクションを見てきたが、この頃までは一部のマニアックなファッションファンが熱狂的に支持しているブランドという印象が強かったKIKO KOSTADINOV。一方、その実力はたしかなので業界内では卒業直後から注目され、ASICSやMackintoshのプロジェクトがすでに進行していたことを考えると、カリスマ的な若手ブランドとして一気に駆け上がるまで秒読みという感じがしてこちらまで武者震いがしてくる思いである。
 適当な締め方になってしまったが、とりあえず公開してから徐々に更新していくというスタイルを取っているためお許しいただきたい。次回のアップデートでは本コレクションのアイテムを参照してより細かなディテール面にフォーカスした文章と、ブレッソンの作品をよりインプットして「Two Deaths Three Births」がどういった意味を持ちうるのか考察していこうと思う。
 最後になるが、本記事を書くにあたって参考にした文献やサイトのリストは有料エリアに置かせていただいたので、気になる方や単純にこの活動をサポートしていただける方はぜひ課金していただきたい。次回のテーマは引き続き、キコの過去コレクションを追っていく形で「FW17 00032017 Classless」を取り上げる予定である。すでに書き溜めているため、1月中にはまた更新できると思うので楽しみにしていてほしい。

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yuri

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