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男子バスケとルカ・ドンチッチ

東京オリンピックのバスケットボールは全て配信で観戦ということになったので、日本代表の試合とスロベニアの試合は現時点で全て見てみました。という話。(◯◯「選手」は略しています)

3人制の話はいつか別のところで書こうかなと思っているので、今回は5人制のことをメモしておきたいなと思います。

予選の話

予選グループは3敗ということで、決勝トーナメントに進むことは叶いませんでした。
バスケットボールのオリンピック出場国は12です。

決勝トーナメント進出
(頭のアルファベットはグループ)
(順番は勝敗数→得失点差)
(上位4)
Bスロベニア🇸🇮3勝+61
Aフランス🇫🇷3勝+44
Cオーストラリア🇦🇺3勝+33
Aアメリカ🇺🇸2勝1敗+82
(下位4)
Cイタリア🇮🇹2勝1敗+16
Bスペイン🇪🇸2勝1敗+13
Bアルゼンチン🇦🇷1勝2敗−8
Cドイツ🇩🇪1勝2敗−16
予選敗退
Aチェコ🇨🇿1勝2敗−49
Cナイジェリア🇳🇬3敗−33
B日本🇯🇵3敗−66
Aイラン🇮🇷3敗−77

ご存知の通り、アメリカが大差をつけて予選を突破したため、最後の試合、日本もアルゼンチンに勝てば下位4での決勝トーナメント進出の可能性は残っていました。
通過のチームを見てわかるように、実質上の死の組はやはりアメリカのいるA組だったと思います。アメリカは勝てば大量の点差がつけるので、この組だけ2チームが予選落ちしました。

FIBAのホームページには色々なデータが残っているのですが、ゲーム進行の分かるデータをもとに振り返ろうと思います。

初戦・スペイン戦

初戦ということもあり、スペインは硬さがあったように思います。点差は3戦のうちで最も少ない−11でした。2Qに一瞬だけ同点としたのが表にも残っています。

第2戦・スロベニア戦

序盤に並びかけましたが、その後はどんどん点差がつき、−35と相手に大量のリードを許して試合を終えます。

最終戦・アルゼンチン戦

立ち上がりに一瞬だけリードしましたが、その後離された点差を詰めることは叶わず、−20で終戦。予選通過のかかるアルゼンチンの並々ならぬ情熱になすすべがありませんでした。

勝てたのか?

どう思いますか。スペイン戦は点差が少ないので、チャンスだったとみるでしょうか。色々な捉え方はあると思いますので、私も思うことを。

見立てが甘い。

私は現状、こちらも相手も同じメンバーでやるとするならば、何回やっても結果は3敗かな、と思います。
思った理由は書いておこうと思います。

まず、スペイン戦。ヨーロッパ最年少の14歳からプロとしてプレーしているリッキー・ルビオに歯が立ちませんでした。明らかにエンジンを温めている最中のスペインは、旗色が悪くなったらルビオを出してリズムを取り戻せばいいだけ。という休みながら怪我せぬよう手堅く勝ち、八村が20得点と奮闘したものの、ルビオも20得点しており、打開策は見つからなかったです。

スロベニア戦では、ルカ・ドンチッチをNBAでディフェンスを買われ契約している渡邉を中心に懸命にプレーをさせないようにして25得点とし、対して渡邉は17得点と相殺以上に健闘しました。また、八村も34得点をマークしましたが、スロベニアはドンチッチ以外で91点。日本は八村渡邉以外で30点でした。

そして、アルゼンチン戦。アルゼンチンは4人が二桁得点(計70点)、日本は5人が二桁得点(計71点)と健闘するものの、アシストはファクンド・カンパッソ11(チームでは27)に対し日本は16、そのうえ、スリーポイントの確率が6/26という、現代バスケットにおいて致命的な数字なのは痛かったですね。

なので、現在地はまだやっとオリンピックに出られた、というところかな、と思います。
けれども、感傷に浸っている暇はあまりありません。オリンピックは一年延期したので次まで一年ぶん、準備期間が短いのですから。

3敗という結果に、バスケット関連も色々な論調が出ています。
一番多く見かけるのは、

・国内リーグを盛り上げよう!
(強い選手が出てくる・利益が資金になる、などの観客ができそうな貢献を勧めている)
・協会はもっと力を入れてほしい!
(体制を整えること・方針を明確にすること、などのテコ入れを期待している)

あたりでしょうか。この2つは、10年後も20年後も、代表が国際試合に出られて、リーグを存続させるためには必要なことだと思いますが、当たり前だな、とも思います。

さて、私はどちらかというと長期的な視野より、3年後のオリンピックに出られて、今より少しマシな試合ができるのか?が気になります。なので、バスケットとして何が必要なのか考えてメモしておきたいと思います。

ルカ・ドンチッチとチームスロベニア

ここで私が最もこのオリンピックで観たかった選手、ルカ・ドンチッチとその祖国チームスロベニアについて少し書きます。
スロベニアはオリンピックへの出場を今年6月5日に決めました。最後の枠を全勝して手に入れたチームです。オリンピック行きをかけたリトアニアとの最終戦では、ドンチッチは31得点、13アシスト、11リバウンドのトリプルダブルで締めくくりました。

このオリンピックでは現在平均得点1位。リバウンドは2位、アシストは3位。

さて、16歳からスペインでプレーし、ユーロリーグMVPを獲得したのち、20歳にはNBAのダラス・マーベリックスと契約しているドンチッチですが、ポジションはスモールフォワード、201センチ登録と、身長があまり高い選手ではありません。武器はステップバックスリー、視野の広いパスからのアシスト、当たり負けしない身体の強さ(身長の割に104キロ登録と太めです)、テクニカルをもらうほどの熱さと、抜群の勝負強さです。

情熱的で強気なプレースタイルのため、若干ファウルがかさみがちではありますが、文句なしのスター選手。しかもまだ22歳です。

ドンチッチは16歳からスペイン、そして今はNBAにいるため、なかなか祖国には戻ってきませんが、代表としてプレーすることを楽しみにしているようです。

そんなスーパースターを擁するチームスロベニアは、どういう編成で臨んでいるのか。

ポイントガード登録の選手は2人いますが、2人のプレータイムはあまり多くありません。ドンチッチがボール運びやアシストにも適性があり、脅威として使えるからでしょう。プレータイムが多いのは身長213センチ、211センチのセンターと、アウトサイドを得意とするシューター陣です。

高い身長だけはドンチッチがないものであり、また、アウトサイドシュートは入れば入るほど効率的です。

日本戦でのショットチャートを見てみましょう。成功したシュートの分布図です。

イン&アウトが徹底されている黄緑のスロベニアです。ドンチッチへのマークに人数が割かれることを予測して、他の選手へキックアウトする戦略があり、また、コーナースリーはよく練習されているのか、他の試合でも多く見られるプレーです。

オリンピックになると、どの国にも1人か2人はNBA級の選手がいます。その選手は徹底的に警戒されるので、どちらかというと勝敗は残りの選手のがんばりにかかってくる、といっていいでしょう。

日本にもスター選手は、いる

話を日本代表に戻したいと思います。八村・渡邉両選手のNBAクラスはまだ若く、次のオリンピックの時期でも元気にプレーすることが期待されます。

八村はインサイド、ペリメータショット、スリーポイントが打て、シュートレンジが広く、他の選手の得点をサポートする地味な仕事もできるスモールフォワードの選手です。

渡邉は3&D(スリーポイント&ディフェンス)の選手としてNBAに生き残っており、エース級の選手へのディフェンスにも評価できます。また、持ち前の性格の良さからチームの雰囲気を高めるメンタルが非常に尊敬されている選手です。

今回の日本代表では、インサイドに純粋な身長を出した編成は組んでいません(エドワーズギャビンは206センチ)。期待の若手であるシェーファーアヴィ幸樹(206センチ)と渡辺飛勇(207センチ)はサイズ自体はそこそこあるものの、オリンピックレベルでは実戦に適用できず、ギャビンが欠場したアルゼンチン戦ではセンターを八村、パワーフォワードを渡邉に任せる場面もあり、本来の持ち味が十分に発揮できなかったもどかしさもありました。

3試合のリバウンド数をみてみます。

及びませんでした。ここは分かりやすい課題だと思います。ドンチッチはリバウンド数もあることから、サポートさえあれば身長に多少差があっても獲得できる数値です。

漢は黙ってボックスアウト。私の好きな言葉ですが…。

ついてまわる宮城リョータ問題

今回の日本代表は、サイズを出すために田中(192センチ)をPGにコンバートし、臨みました。控えるのは章題にもある宮城リョータ的PGの富樫(167センチ)。

結論から言うと、サイズがあるもののPGではない田中だとTOしないのが精一杯で、日本的なPGである富樫だとスコアしてもディフェンスではフィジカルで不利。

というイメージでした。田中の丁寧なプレーには好感が持てますし、富樫の速さは目を見張るものがあります。が、片方ずつでは世界では厳しい。
この予選、アシストランキングは

1位 トマス・サトランスキー(チェコ)8.7
2位 リッキー・ルビオ(スペイン)7.3
3位 ルカ・ドンチッチ(スロベニア)7.0
4位 ファクンド・カンパッソ(アルゼンチン)6.0

でしたので、アシストに優れた選手のいるグループと日本代表は対戦できました。アメリカのように、個人技で殴るバスケットよりは、チームバスケットでパスを回しアシストする方が日本にとっても現実的かと思いますので、世界レベルのポイントガードのプレーは参考になったのではないでしょうか。

ルビオとカンパッソ。ルビオはスコアする代わりにリバウンドは任せています。カンパッソはどちらにも努力するタイプ。身長はさほどありませんが、両者ともに緩急をつけたドリブルワークとパスの精度が素晴らしい選手です。

ただ、両者ともにディフェンスの際、スイッチされて大型の選手とマッチアップするのは得意ではありません。
それを差し引いても余りある支配力と、それをカバーできる他のタフな選手が揃っているからこそ、彼らは代表選手として存在しています。

大きいか小さいかは個別の事象としては私はさほどこだわりはありません。全体としての、収支が合えば、やれるならいいんです。やれるならば。

エモーショナルであること

オリンピックは、人の想いが溢れる場でもあります。

アルゼンチン代表ファクンド・カンパッソはスペイン戦で5ファウルになり、コートから去る際に自らへの怒りからかユニフォームを破きました。

勝つ気持ちで試合に臨んでいた渡邉は、敗退が決まり、顔を覆います。

12得点と封じ込められながらも勝ち抜いたドンチッチは吠えました。

誰しもがエモーショナルな性格だ、とは限りませんが、世界で代表として戦うレベルにある方々は、これほどまでに強い感情でプレーしているのだな、と思いますし、日本代表でも、気持ちがその領域に辿り着ける人が3年後、オリンピックでプレーしていたら嬉しいな、と思います。


2021.08.