照れもなく
「まりかといるとさ、何ていうか、照れがないよね」
「わかる!
ほかでなら恥ずかしいことも、コウジの前ならさらりと言えちゃうし、できちゃう」
金曜の夜、まりかの家でお風呂上がりに素っ裸でウロウロしながら、ふたりは言った。
この夜、まりかは仕事つながりの人と飲みに行って、コウジが迎えに来てくれた。
一緒に飲んでいた人はふたりとも、信頼できたから、彼は30分ほど飛び入り参加。
マスターはじめみんなのむちゃぶりに、彼は小林旭の「熱き心に」を歌い上げ、拍手喝采を浴びたのだった。
マッチングアプリで知り合ってひと月も経たないうちに、三晩続けて一緒にすごすのもどうかと思うが、一糸纏わぬ姿でお酒を酌み交わすのもどうかと思う。
でも、おたがいひとりの時間をそうやってすごすと知り、自然な流れでそうなった。
いま大地震で外に避難しなくてはならない事態にはなりませんように、と、まりかはそっと思った。
二度目に会ったときに、彼からおつき合いをと言われ、夜のメッセージで好き、と伝えてくれた。
ああ、この殿方はまりかが「私のこと好き?」とおねだりしなくても、おやすみと同じくらい自然に好きと伝え合えるのだ、と思った。
それも、照れも力みもなく、あたかも十万年前からそうしてきたように。
コウジは、まりかがこれまでに知り合っただれとも違う。
比べることすらできない、唯一無二の存在だ。
どんなことばも、ふたりを語るには陳腐なものに感じてしまう。
なぜだろう。
それがご縁というものだ。
何かに導かれるように、ふたりはここにいる。
「さすがに寒いわね。
パジャマ着てこよう。
あ、スリップがよい?」
「それがいいな」
まりかはビールのグラスを置くと、ベージュのシンプルなスリップをするりと素肌にまとった。
コウジの視線が、まりかの胸のふたつの点と、背中からヒップにかけてのS字ラインにべったりとまとわりつく。
きっと一時間もしないうちに、彼の手でこの薄衣ははぎ取られるのだろう。
照れもなく。
さくらまりか52歳、幸せである。