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死ぬときに何をのこして死にたいか

 コロナにより学校が休校になったのが昨年の3月1日だったそうだ。それからまる1年たった。自分のことを思い出すと、3月末に体調を崩し2日ほど会社を休んでいる間に「来週から基本はリモート業務になります」と突然のお達しがあり驚いたことを覚えている。東京は緊急事態宣言がまた延長されるそうだが、昨年4月の緊急事態宣言に比べると、そこまで生活が変わったという感じはない。緊急事態にも慣れてきた感じがある。慣れてしまうとそれが本当に緊急なのか謎だけど。

 昨年はコロナ禍により、新しい人に出会うことが難しくなった。最初の緊急事態宣言の際には、zoomによる打ち合わせも慣れず、人によってはzoomではなく電話で打ち合わせをしたこともあった。その頃に初めてお仕事をお願いし、もう10回以上zoomで打ち合わせをしたが、実物にはお会いしていないという人もいる。進めている企画もなかなか進みが遅く、昨年は編集者になってから一番本を出さなかった年でもあった。

 新しい人に出会うことも難しいなと思っていた昨年の夏、企画のヒントを探しながら昔の本を読みあさっていた。青空文庫や、Kindle unlimitedに入っている著作権が切れた本をとくに脈絡なく読んでいたときに、びっくりするくらい素晴らしい本を見つけた。内村鑑三の『後世への最大遺物』だ。青空文庫で見つけ、岩波文庫で読んだがはっきり言って読みづらかった。言葉遣いが昔のままだからだ。それでもなんとか読み通すと、とても感動した。これは内村鑑三が当時の若者に、「死ぬときに何をのこしたいか」というテーマで講演をしたものを記録した本だ。

『後世への最大遺物』を初めて読んだとき、お金や事業、教育や思想を遺すことは限られた人にしかできないが、自分の人生を真面目に生きるということは、誰にでもできて最も遺す価値のあることであるというメッセージに衝撃を受けた。子供の頃は、学校がミッション系だったこともあり、真面目になりなさいとか人に優しくしなさいとかよく言われて育ったような記憶があるが、社会に出て特にここ数年は、「真面目」よりも「効率よく」「負けないように」「なんでもいいからとにかく結果を出せ」という声のほうが大きくなったように感じていたからだ。だから「真面目に生きる」ことの価値をこんなにはっきりと伝えていた講演があったのかと清々しい気持ちになり、このメッセージを現代の人にもっと伝えたいと強く思った。そこからこの『後世への最大遺物』の現代語訳の企画が生まれ、ついに2月に『人生、何を成したかよりどう生きるか』というタイトルで刊行となった。

現代語訳だけでなく、後半ではご自身もクリスチャンでいらっしゃる佐藤優先生に解説をいただいた。コロナ禍によってそれぞれの価値観や生き方が問われる中で、今、『後世への最大遺物』をどう読めばいいのか語って頂いた。

最後に、この本のなかで私がいちばん好きなフレーズを紹介したい。

 一年後会ったときに、「この一年間で後世のためにこれだけお金を貯めた」「こんな事業をした」「思想を書いた論文が雑誌に掲載された」と言い合うのもいいでしょう。けれどもそれよりもっといいのは、「弱者を助けた」「不幸に打ち勝った」「よい行いをするよう努力した」「勇気を出して正義の味方をした」「私情をはさまずに、公平な判断ができた」などと言えることです。みんなでそんなエピソードを持ち寄って、また集まりたいと思います。(『人生、何を成したかよりどう生きるか』文響社 より)

私はこれを最初に読んだとき、心の底からしびれた。自分が何を達成したかではなく、どんなことかわからないけれど良いことをして生きて死にたいと漠然と感じた。とか思っていてもどうしても自分がまだまだ大事に思えてしまうことが多いけれど、この言葉を忘れずにいたいと思った。

『後世への最大遺物』は青空文庫や岩波文庫でも読むことができるが、読みづらい方は今回の現代語訳をぜひ試していただきたい。

そしてこの本の企画経緯について、会社のマーケティング部の方がインタビューをして記事にまとめてくださった。忙しい中、土日もつかって記事にしてくださったそうで、本当にありがとうございました。

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