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お似合い

髪を切った。

暑くなってきたので、バッサリと。シャンプーしてくれたお姉さんに「まるで元々こういう髪型だったかのうようにお似合いですね!」と言われたので、これは世界が変わったのかもしれないと思って、表参道の大通りを歩いた。今日こそリア充の勲章のひとつ「『Tokyo Grafiti』の取材を受ける」が得られるかもしれないと考えたのだ。

神宮前交差点付近に、彼らはいた。今日も「お前らが撮り合ったらいいんじゃね?」とツッコミたくなるおしゃれStyleで、インターンの学生たちがたむろしている。相変わらず熱心で、楽しそうだ。無給なのにすごいなと毎度感心する。何かがほとばしっている。

しかし臆することはない。何せ今日は「まるで元々こういう髪型だったかのようにお似合い」なのだ。余裕がある。若人が声をかけやすいよう、ゆっくりと彼らの前を歩く。目線はまっすぐ――。タイミングが悪かったのだろうか。「ちょっとよろしいですか?」とは聞こえてこなかった。こういうのは機を見るのが大事である。出直しだ。

青山通方面へと歩き、ローソンで遅めの昼食をを買う。歩道端の手すりに身体を預け、たまごサンドを頬張る。歩道橋付近にも、彼らはいた。何かがほとばしっている。スマホの電源を切り、ポケットにしまう。画面とにらめっこしていてはいけないのだ。目線を高く保った人間だけが、チャンスを手にする。まだ声はかからない。

15分ほどかけて、ゆっくりとサンドイッチを食べる。たまにAGFのトリプレッソを飲む。まだ声はかからない。サンドイッチがなくなる。トリプレッソを吸うと音が鳴った。まだ声はかからない。ストローを噛む。スマホの電源を入れる。

「◯◯さん、◯◯さんが、あなたの写真にコメントしています」

なんだ。もうとっくに、声はかかっていたのだ。

食べがらを捨て、僕は次の目的地へと向かった。