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トンガ火山噴火による津波の危険予測

火山噴火は数回にわたる可能性もありますので、今後も予断を許さない状況です。同様の状況で発生する津波?はやはり12時間前後(注1)で到達すると考えられるので、噴火がわかれば準備は可能です。どのような危険があるか、波の性質から推測したのでご参考に。

結論

先に結論を。通常の津波よりも波長が短い津波を仮定すると、

  • ちょっとしたことで津波が弱まる場合があり、弱まった地域を参考にすると痛い目を見るかも

  • 隣町で被害が異なる可能性もあるから、自分こそが一番酷い津波にあっているという前提で行動しよう

という話です。

注1:

実測値は噴火が2022年01月15日13:10、日本へ津波の到達が16日00:00で7時間50分、約11時間50分前後で到達。
理論値は太平洋の平均水深は約4000mとして、近似式v=3.6√(9.8×4000)で計算すると時速約712.7km/h(注2)。トンガと日本との距離は約8000kmとして、t[時間]=8000/712.7で約11.22時間。それほど誤差は無いので、今後も12時間前後を目安として良さそう。

注2:

時速約700km/h越えというのを見て、「ありえない!東日本の津波はそんなに速くなかった!」って言う人がいますが、間違ってないですよ。津波の速度は水深(の平方根)に比例して減速します。陸に到達する頃には、運動エネルギーの多くは「波の高さ」という位置エネルギーに変化するので、速度は遅く、波は高くなります。700km/hは平均速度です。

津波は波

津波は波じゃない、というのは、一種の比喩です。津波は一般的な波じゃない、少なくとも周期や波長を目視できるサイズの波ではないという意味で、津波もやはり波です。ただし、波長がめちゃくちゃ長く、盛り上がった部分(山の部分)はせいぜい1個か2個で、その長さは数キロメートル。だから津波は人間サイズからすると水塊の移動にしか見えません。

波は一般的に「波長が長いほど回折しやすい」ので、津波は多少の障害物があっても陸に到達しやすいといえます。逆に、波長の短い小さい波は、消波ブロックでかなり減衰できますし、いわゆる防波堤が有効です。一般的な波は波長が短いので回折しない、つまり防波堤の内側までほとんど回りこまないのです。

じゃあ、今回の津波はというと、データが手に入らないとなんともいえませんが、恐らくは波長が津波ほどではないが一般的な波よりは遥かに長い、中間的なものではないかと推察されます。

一般的な津波は海洋プレートなどのプレート境界で大規模に海底が「跳ねた」ことによる物理エネルギーが伝わっていくので、波長は動いたプレートの大きさに比例します。

一方で、トンガの津波は明らかにプレート性ではない。可能性として考えられるのは、

  • 火山爆発の強烈な空気の衝撃波を受けて火山周辺の海水が弾き飛ばされたか強く圧縮されたことによる海水の急激な移動が波として伝わった

  • 海底からの爆発で、爆発の衝撃波が直接海水に伝わり、衝撃波をエネルギー源とした疎密波として伝播した

  • 山体崩壊や火砕流に起因する、土石流入による海水の押し退け

可能性が考えられ、両方ということも有り得ます。

仮説

ここでは仮にトンガの津波を中波長津波と呼ぶことにしましょう。通常の津波が波長数キロに及ぶことがあるのに対して、中波長津波はせいぜい数百メートル、もしかしたら100m以下の波長かもしれません。

こういう中波長津波が現実に存在した場合、どのような性質を持つと考えられるでしょうか?

一般的な波の性質として、波長が長いと

  • 減衰しにくい

  • 回折しやすい

ことが挙げられます。

我々が良く知る長波長の波は赤い光です。赤い光は可視光の中でもっとも波長が長いです。赤い光が遠くまで届き、また多少の障害物があっても回り込んでくるのは、

  • 赤信号の光は青信号より遠くでも見える

  • 夕日が赤く見える(空気による散乱がおきにくいので、日没直前まで目に届きやすい)

ことでもおなじみですね。

この性質は、津波では

  • 防潮堤・防波堤があっても回り込んでくる(回折)

  • 遠くまで減衰せずに伝わってくる

性質として観測されます。

では中波長津波ではどうなるかというと、

  • 防潮堤・防波堤にも多少は回り込んでくる(長いと回り込めない)

  • 障害物があるとちょっと減衰しやすい

ということになります。


地理

日本の場合トンガから直線距離で約8000kmですが、北陸に到達するまでには目立った障害物はありません。したがって、比較的素直に波が到達できます。一方、伊豆・小笠原海嶺を乗り越える必要がある西日本、南西諸島海嶺を乗り越える必要がある九州沖縄では複雑な挙動を示すことが推測されます。

波長に対して障害物の長さが大きいとより急速に減衰します。海嶺を障害物としてみた場合、通常の波長が数キロ単位の津波は減衰しにくいですが、中波長津波は海より大きく減衰します。

他国においても、アメリカ西海岸を除いて大抵は何らかの障害物があるため、中波長津波は減衰する要素が多く、地理的に近くても被害は軽微になるかもしれません。

このように、通常よりも波長が短いと、到達時間はそれほど変わらないにもかかわらず、海底地形に大きな影響を受けるため被害状況にバラつきがおきます。近いから危ない、遠いから安全とは言い切れない。

結局、中波長津波というものを考えると、近隣の状況は参考にはならず、常に慎重よりの被害予測の元で行動する必要がある、というのが僕の意見です。

再度同様の噴火があった場合、同じ挙動とは限りません。日本より早く津波が到達するはずの地域よりも、被害が大きくなる可能性もありますので、十分ご注意を。


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