【深夜のショート・ショート】東京同志交友記
このショート・ショートは、
トヨタ理のXにて【毎週月~金、深夜0時】に投稿している
深夜のショート・ショート群像劇「今日、きみがいい夢を見られますように。」の一編をまとめた記事です。
##1
聳える荘厳な逆四角錐の棟。
キャリーケースを転がす若娘。
ザックを背負う男衆。
色物の群衆が其処へ吸い込まれる様に武者震いが起きる。
「なあに。たかが本を配るだけじゃあないか」
悪友が家に持ち込んだゲエム。
それが今日、俺を同志達の集いに駆り立てた。
いざ行かん、我らの聖地へ。
##2
悪魔のゲエムに魂を奪取され一日で参加を決した。
然うして三日三晩寝ずに書いた一五◯ページの超大作。
準備も抜かりは無い。
だのに、閑古鳥は一時間以上俺の側で鳴き続けている。
一方で人集りを作る両隣。
まるで醜態を晒されているような気分だ。
「本は無謀」と嘲笑った悪友の顔が浮かんだ。
##3
昼下り後。
両隣の机の上には誇らしげなパイプ椅子。
対してこちらは重々しい本が三十部。
もう引き上げようか。
「一部いいですか」
天の声に撤収の手が止まる。
「あ、ハイ」
「よかったぁ間に合って」
本を手渡すと天日の神は満面の笑みで言った。
「本楽しみです。ありがとう」
##4
「だーから言ったのに」
牛肉を火で炙り悪友が笑う。
話さずとも心を見透かすこの男、超能力者か。
「驕っていたのは認める。一部配れたのは奇跡だ」
「いや二部だ。俺にもくれ」
「無謀な本なのだろう」
「無謀でも面白いよ。お前の話」
手から箸が落ちた。
流石だ悪友よ。
今とは卑怯な奴め。
##5
悪友に付き合い漸く帰宅できたのは夜半だった。
意想外の喜びと、結果への遣る瀬無さ。
混迷する感情のまま机上の相棒を開くとメイルが届いていた。
約二千字の文を要約するとこうだ。
『本最高でした!』
「俺はどうも御天気者らしい」
指が軽快にキーを叩く。
未知の世界へ旅立つ為、今日も。
(終)
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