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豊かな社会とは 第3章第4節

この論文の最後の章です。今(2020年)、このころ(1990年)に書いた文章を読み直しても最後の章はやっつけになってる感じがいなめません。公開に値しないなぁと思いつつも、途中でやめるのもなんなので公開しちゃいます。

今、これを書いてるのは2020年3月28日ですが、ウイルスの流行で、世界中が大変なことになっています。海外ではロックダウン(都市封鎖)をしている国も多く、外出禁止となっています。それらの国のトップはyou must stay homeと呼びかけています。レストランの営業を禁止したりしています。理由は自分や他人の一人一人の命を守るためであることをとても丁寧に説明しています。一方、日本では、不要不急の外出自粛要請、若者は特に外出を控えてくださいといった呼びかけをしています。それに対して忖度をしてファーストフードがテイクアウトを割引する、新宿御苑のような公園は自主的に閉園にする、デパートも営業を自粛するといった対応です。「病院にいってよいのか?」とか、「食料の買い物に出かけてよいのか?」といった当たり前に行ってよくて、聞くまでもないことを心配する人がたくさんいて困るといった報道も、場の空気だけで考えてしまうからこその発想です。

社会保障の考え方も個の倫理と場の倫理の違いがすごく出てると思います。日本で議論されている、和牛券や旅行券を配るという発想は場の倫理です。和牛券や旅行券という発想は、その場の中にいる人たちだけのビジネスを助けようという発想ですし、享受する個人の自由がなくても問題ないと思ってしまうところが、場の空気に従うことが当然だと思う人の発想です。場を守ることが大事で、場を維持するために自粛するとなってしまうわけです。

これら対応の違いは、この論文でのテーマである「個の倫理」「場の倫理」が顕著に出てると痛感します。どっちにも功罪はありますが、とにかく倫理観が違うのです。倫理観の違いは、そんな簡単に変わらないんだなと思いました。

ただ、1990年ごろであれば、現代のように世界中の情報が個人レベルで簡単に知り得なかったので、このような違いが出てることは簡単に知れなかったと思います。そういう意味では、個人が自分で考えて行動するためにはよい時代になったとも思います。

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第3節で書いたような社会民主主義の考え方が実際に入っている西ドイツやスウェーデンなどの西欧の国と、日本では豊かさの意味が違うのではないかと思うほど生活が違う。

例えば生活の基本になる土地住宅に関しても、西ドイツと日本では多くの違いがある。西ドイツでは1960年に定められた連邦建築法で以下のことなどがうたわれている。

・市場における需給の法則は土地には当てはまらないこと
・土地に対する私権の制限は、所有権の否定ではなく、所有権の維持と創設に帰って役立つものであること
・もし土地を市場の法則に委ねれば、土地は高くなり、高い土地を買うことができない勤労者は遠い郊外から通勤せざろうえなくなること
・しかし、都市の利便を享受しながら、しかも日光と空地と緑に恵まれた住宅は、今日、どの住宅に取っても必要不可欠であること

それにくらべて日本では、東京で普通のサラリーマンが23区内で家を持つのは不可能に等しい。経済的に世界一の国でも、家を持てないのである。

他にも老人問題、環境問題(ゴミ処理など)、問題は絶えない。会社の中で(縦社会の中で)個人の自由が尊重され始めたとしても、それは利益追求の自由である。その証に、日本人の平均労働時間は西ドイツより500時間、アメリカやイギリスより200時間長いのである。ゆとりを潰した上での豊かさとは、本当に豊かなのであろうか?真に個人の自由を尊重することは、個人個人が豊かさを持って生きてこそ初めて可能なのではないだろうか。そのためにも個人個人がもっと強くなって、企業だけが金持ちになることをおかしいと思えるようにならないければならない。それらもろもろの(企業などの)「場」よりも個人に価値がなければならないのである。バーリンは「あらゆる価値は人間が作り出したものであり、そうである限りにおいてのみ価値と名付けるのであるとしたら、個人よりも高い価値は存在ないはずである」と個人の価値について論じている。個人の尊重のために場は必要である。場のために個人が手段にならないことが大事なのである。

個人が張り切っても、制度が変わらなければ、個人の自由は潰される、しかし、制度が変わっても個人が変わらなければ、それもまた同じなのである。だから、日本でもっと個人の自由が認められるようになるための方法というのはここでは提案できない。ただ、みんながそう思えば、簡単なこと*1なのであろう。

*1ジョンレノンのイマジンをRCサクセションがカバーした時の忌野清志郎の和訳からとってきています。RCのアルバム カバーズ

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