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もしあなたが、ぶりを一本もらったら

「鰤(ぶり)の半身返し」という言葉を聞いたことがありますか?


私は石川県加賀市の出身ですが、最近初めて聞きました。先日鰤の刺身を食べていた時、同郷の友人が

「鰤といえば、叔母さんが嫁いだ時に、鰤を一本贈ったのか、貰ったのかそんなことがあったな…」

と言っており、「突然、家に鰤が一本贈られてくることがあるのか!」と思ったのでした。


その後、石川県能美市出身で加賀市在住の祖母に聞いてみると下記のような話をしてくれました。
以下、インタビュー内容(南加賀の言葉遣いそのままでお送りします。カッコ内筆者加筆)

水上:鰤を一本贈る話って聞いたことある?どんな時にするん?

祖母:嫁に来た最初の年のお歳暮や。夏(お中元)は燻製したイナダ。嫁に来たウチへ、実家から送る。春のうちに(嫁に)来たら、お中元にイナダゆうたんや。お盆過ぎに嫁に来たら、お歳暮に生ぶり。半分料理して、半分は返すんやわ。半分切って、親戚やらに分けて歩くんや。

水上:料理してというのは捌くということ?

祖母:そうや。魚屋行って料理してもろて、近所や親戚に配って歩くんや。ばあちゃんなんかは春に来たさけ、イナダやったわ。3月に嫁に来とるし、夏はイナダやったわ。

嫁いだ家の方は鰤なんか、ナーンも流行らん家やったから、半分返さんかったみたい。あんなもんは地域の流行りやな。下(しも)の方がよけ(よく)するんや、美川やら金沢やら。大聖寺になると上(かみ)や。上はあんまりせんのやわ。また、最近はあんまりせんのやけど。数年前に切り身をもろたこともあるけど、覚えねえわ。

まあ、鰤なんてもんは、嫁の実家はちゃんとしたもんやとふれて歩くようなもんや。切り身を配って歩くんやさけ。見栄以外のなんでもねえ。そういうこっちゃ。


という具合で、まとめると下記のようなことのようだ。

・鰤は嫁の実家から、嫁ぎ先へ贈られるお中元 or お歳暮

・捌いて半身にしたら、半分は返す。残った半分は親戚や近所に配る


また、ここからは私の独自解釈ですが、鰤の贈与による効果は?と考えると…

・鰤を贈ることで、嫁の実家が気前がいい、経済的にしっかりしている等の印象を与えることができる

・嫁の実家の強さを誇示すること(見栄をはること)によって、嫁ぎ先での嫁の地位を保全する

⇨嫁を不当に扱われないようにするための抑止力としての鰤?

とも考えることができるのではないでしょうか?

ということで、皆さんも鰤を一本もらったら、「料理」して、配ってみてください!

#バナキュラー #エッセイ #人類学 #民俗学 #インタビュー

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