春のご飯会と2020年の作品三点・・・『邦人奪還』伊藤祐靖       『死者の声を運ぶ小舟』小川洋子  『この禍を記憶する人であれ』閻連科

 在外勤務しかも途上国赴任経験が20年ともなると、いやでも鍛えられるのが自宅パーティー術。JICA時代はその国の邦人数にもよるけれども、大体出張者が来れば一度は必ずお招きして自宅で和食もどきを提供していたっけ。  

 その前の国連ミッション時代にはそれこそ家を建てる現場監督から始まる様な土地に赴任(といってもアフガニスタンのバミヤン、風光明媚ないい場所でしたが)していたので、粉と玉子とチーズとトマトでピザを焼いたりして喜ばれたりもしました。という訳で、女子も男子もフィールド仕事を希望する方はお料理は出来た方がいいですよ。自分の精神安定にもこういう手仕事は役立つし、人間関係もぐっとよくなります。

 という訳で、海外赴任時の私の記録は45名のパーティーをメイドさんと二人で切り抜けたアンゴラ時代でした。しかし、若かったなあ。日中・平日は仕事をして夕方に買い出し、週末の朝に家を大掃除するところからはじまり花を飾るところまで。思い出しても本当によくあんな事をやっていたもんだ。

 2013年に帰国してからも、その癖が抜けずにしばしば自宅を開放して10~20名程度でのお食事会を催したものです。海浜幕張の海と富士山の見えるマンションで、そして等々力渓谷の上流、谷沢川の川べりの部屋で、昨年からはやや小さめの部屋に引越した事とちび子の受験もあり、人をお招きする事は止めてしまいましたが。手作りのご飯とおしゃべりの各シーンはその土地の様子や参加して戴いた方々の事と共に私の記憶のアルバムの一枚として残っています。

 ですが、最近は大学同窓の友人が管理している留守宅を時々解放して4-5名でのお食事会を開催してくれるので、他人のおうちで遠慮なくお料理したものを持ち込んでまた気楽におしゃべりができるようになりました。

 今日は「木の芽の会」。そのおうちのお庭の山椒の木が芽吹いてきたのでそれに会うお料理を・・との命題。

女子四名で揃えたお料理は以下の通り。


サザエのお刺身&壺焼き蕗味噌添え
鰹、鮪の刺身
穴子の白焼き
蛍烏賊の辛子酢味噌
蕗の薹、こごみ、菜の花の天ぷら
菜の花と湯葉のお吸い物
鯛めし

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筍、豆腐の片栗粉焼き
茹で芽キャベツ、茹でさつま芋 ネギ味噌添え 

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菊花の胡瓜巻き
牛脛肉の肉じゃが
フォワグラソテー
ジャガイモとチーズでつくったもちもちポテト(擬き)
苺、メロン
桜のケーキ
ミントティー
スパークリング ロゼ

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ね、女子っていいでしょ?わざわざ外食しなくてもスーパーとキッチンさえあればこの位のものはさっと出来てしまうんですよ。

 お料理はいいとして、今日話題になった中で記録しておきたい事は、本の事。私の大学同窓は非常に仲が良い事で有名で、FACEBOOKにも読書会のグループがあり(非公開)、なかなか活発に様々な本の紹介などが行われています。また現在は2020年に話題になった本の投票がおこなわれているのでみてみたら、なんとダントツ一位になっているのが、『邦人奪還』伊藤祐靖さん。私は伊藤さんのファンなのでとても嬉しかったが、彼はそもそもは作家・・なんだけれども、それよりも特殊部隊の方(既に引退済ですが・・)。たしかに『邦人奪還』はものすごく面白い本ですし、伊藤さんはそれに輪をかけて魅力的な方(一度お目にかかっただけですが、強烈なオーラを出す人)なんだけれども、文学的にはどうか・というとまたそれとは違う作品。

 昨年は他になかったのかなあ・・と、考えてみたら、私の記憶に強烈な印象を残している作品が二点、一つは小川洋子さんの『死者の声を運ぶ小舟』、もう一つは閻連科氏の『この厄災の経験を記憶する人であれ』、両方とも寄稿という形で発表されています。つまり出版、本としては出版はされていないんですよね。この二つは(あるいは私が気が付かないだけでもっともっと多くの素晴らしい文章が発表されているのでしょうけど)2020年を語る際に永久に残って欲しいと思っている文章だし、作家のお二人も、仕事として商売として書いた文章ではなく、いわば「書かなければいられない」というような強い「何か」に憑りつかれて書いたのではないかなっと思っています。そう、三島由紀夫が『英霊の聲』を残した時のように。電子媒体ではいまだに広まっているこの二つの作品、でも出版はされていないし、される気配もない。

 そう、出版されても大して儲からないのなら、それでも世に出したいから、後世に残さなければいけないから・・という理由で本として残されてきた作品達、それらは紙の本で各自の家に大量に積まれるよりも電子媒体で残しておくように世の中が変わってきているのでしょう。

 本当に優れたものは、電子媒体にて残る。著者はそれを世に出す事を、後世に伝える事を求めているのであって、そこで儲けようとは考えないから多くの場合は無料、しかしこの世の中電子媒体で溢れかえっているから気が付けば電子情報の流れと共に時間が経てば流れて消えていく。かたや『邦人奪還』の様なエンターテイメント性の強いものは紙媒体で世の中に出され、人々はそれを購入し、自宅において読む。自宅にその本がある限りそれは人の記憶にもまた実際にあるものとして底に残る。そして人々はその様なもののみを「読書」と認識する。今後はこの流れがどんどん加速されていくのでしょうか。そうすると、これから我々に求められるのは「出版されていない作品」の匂いを嗅ぎつけ、辿り着き、時の流れの中で見失ってしまう前に時々それを記憶の中から引っ張り出し、世の中に再提示し・・という作業になるのかなあと考えたりもしています。

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とはいうものの伊藤さんのこの本については、いろいろ思うところがあるのでまた別途書く事にします。

#春のご飯 #女子会 #小川洋子 #閻連科 #伊藤祐靖

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