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こどもの日にーまず「格差がある」ことを認めることから始めよう

「頑張ればなんとかなる」という励ましの罪

今日は2021年5月5日。こどもの日です。
「こどものために何かしたい」と思う方に、ぜひお願いしたいことがあります。

それは、今の日本には、自分たちの努力では如何ともしがたい「貧富の差がある」ということから目を背けずに、そこに向き合うことです。

もし、今あなたが、安定して恵まれた生活をしているなら
例えば、大学を卒業して正規雇用についているとしたなら、それは誰のおかげでしょうか?
色々な人がサポートしてくれたから、家族や友人や学校の先生が応援し励ましてくれたから、そしてやっぱり、最後は自分が頑張ったから、と思いませんか?

私も、NPOの活動を始める前は、上手くいっている人と、上手くいかない人の違いは、やはり最後は本人の努力だと思っていました。私自身も塾や予備校に行かずに、自分でコツコツと頑張って勉強をして高校受験も大学受験も乗り切った(私たちの世代ではそれほど珍しいことではなかったのですが)ので、なおさらそう思っていました。
「なんだかんだ言っても、やっぱり、勉強しないから成績が悪いんだ。成績がいい人は、努力してたくさん勉強しているから成績がいいんだ。」と。

しかし、それは大間違いなのです。

勉強したくても勉強できない子どもが、日本にもたくさんいます。しかし、それを言うと「努力が足りない」「やる気があればなんでもできる」「甘えている」と非難されます。

「結局、最後は本人の努力。本人のやる気次第だよ。頑張れ。」

こんなアドバイスをしている人も悪気は全くないのでしょう。心の底から「頑張ればなんとかなる」そう思っているのかもしれません。励ましているつもりなのだと思います。

しかし、その無知から発せられる言葉は、何も状況を良くしないばかりでなく、教育格差という重大な社会課題を解決することを遠ざけます。今、一番必要なのは、「教育格差はある」ということをしっかりと認めることです。

困窮家庭の大学受験生の7割は1校しか受験しない

みなさんがもし大学受験経験者なら、何校受験しましたか?
お子さんを受験させたなら、何校受験させましたか?
私が受験したのは38年前ですが3校受けました。私は東京に住んでいますが、自分の二人の子どもは何校受けたか思い出せないぐらい、たくさん受けさせました。下の子の時にはインターネット出願になっていて、同じ大学で複数の学部を受験したり、時期をずらして何度もトライしたりが手続き上はとても簡単になっていました。煩雑な出願書類を何枚も書かなくてもクリックひとつで出願できます。あとは、どんどん増える受験料をクレジットカードで支払うだけでした。勉強を頑張っている子どもに対して、せめて親ができることはお金を払うことだと自分も周りも考えていました。
しかし、いくら子どもを大事に思っても、受験料を用意できない家庭がたくさんあるのです。愛情の強さは同じでも、受験料を用意できる家とできない家があるのです。

2020年、コロナの影響で減収した家庭の大学受験を支援する「受験サポート奨学金」として、高校3年生284人に5万円の現金給付を行いました。2021年3月に受験の結果などを調査しました。すると、受験サポート奨学金を受けて受験した高校生の7割は1校しか受験していなかったのです。どういうことかというと、約半数は、指定校推薦で大学進学をしていました。一般受験をしたのは29%しかいないのです。 

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保護者からは、苦しい声が届いています。

「経済的な理由もあって塾は諦めてもらい、指定校推薦枠内で受験できる大学1学部一点集中にしてもらいました」
「1校しか受験していませんが運良く合格しました。複数は受けることはできませんでした。だめなら諦めてもらう予定でした」
「我が家の場合は、後悔のないよう、自分のレベルにあった大学を何校でもいいから受験してほしかったので、本人にも伝えたのですが、本人は(共通テストや結局無駄になってしまう受験料や入学金をきにしてか)実力より少し下げたランクの大学に指定校推薦で進学が決まり、今は大学生活のためにアルバイトをしています。が、親の私としてはこれでよかったのか?と。何校でも受験させてあげられたら、将来の選択肢も広がったのでは?と考えてしまいます」

子どもたちからは、こんな声が届いています。

「勉強をする環境はとても大事で、家があるだろう、と言われるがすべての人が自分の部屋を持っているわけではないし、静かな環境とも言えない。」
「 狭いアパートでは、なかなか勉強する気にならなくて、ショッピングセンターのフードコートでやっていました」
「受験が、課金と情報戦の部分もあり、格差が大きく、クラスメートの話しを聞いて愕然とすることもありました」
「 本当は予備校に通いたかったです。通っている仲間がどんどん成績をアップさせているのを知ると、自分だけ取り残されてしまっているような気持ちがしました」
「大学共通テスト2万円は負担があり過ぎます。みんながみんな親が払ってくれるということではありません。子どもが払う場合が少なくありません。私には、高くて大学共通テストを諦めました。どうか、少しでも検定料を考え直してもらえると幸いです。」
「せめて「共通テスト」は無償にして欲しいです。受験料が払えないと、受験資格すらないのは辛いです。」

いくら頑張って勉強しても、お金がないから受験ができない。
これは、今、日本で起こっていることです。
どうか、ここから目をそらさないでください。

iphoneを貸与するだけで、成績が急上昇

困窮子育て家庭には、パソコンやタブレットがない家庭が少なくありません。インターネット回線やwifiがない家庭も同じです。私たちが支援している困窮子育世帯では、家にパソコンもインターネット回線もあるのは34%しかありませんでした。(2020年12月〜2021年1月調査 回答数649)
今の時代に、インターネットが利用できないということは、実は非常に不利益になります。また、スマートホンも今や欠かせないツールです。高校生の92%、中学生でも66%がスマホを持っています。本当は欲しいけれど、経済的な理由でスマホを持てないという子どももいます。


コロナで大変な子どもたちのサポートにと、ソフトバンクから2021年3月末までの通信費付きのiphone6を200台提供いただきました。そこで、これを高3、中3の受験生を中心に困窮子育て家庭に貸し出しました。これも終了後にアンケートをとってみたところ、「iPhoneのおかげで成績が上がった」というお子さんがたくさんいたのです。

まず、iphoneを貸し出した利用者の状況は以下の通りです。回答してくれた97名のうち、家族所有のものも含めて、自由に使えるパソコンが家にある子は24%です。インターネット回線が全くない子が20%。スマートホンを持っていない子は49%でした。

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iphoneを使用して、学力が向上したと思いますか?という問いに、70%が「はい」と答えています。特に中学3年生では95%が学力が向上したと答えています。

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「貸与期間中の冬休みに、塾主催の模試を受けました。塾には通っていないので、スタディサプリやNHK語学アプリ、学習用動画を視聴していました。
模試5教科の総合偏差値57.4、好きな社会は、受験者437人中、1位の成績でした。(中2)」
「英単語の復習をとにかくやったようです。そのおかげで偏差値は10ぐらいは上がりました。(中3)」
「家でネットで調べ物をする手段が親の携帯しかなかったので、親が仕事中でも、iPhoneで英単語の意味や漢字、地理、ニュースなど 調べることができ、おかげさまで都立高校の推薦に合格することができました。(中3)」
「学校でも、当たり前に授業でも利用するので、最低限必要なアイテムでした。我が家では買うことできず、子どもには苦労させました が、貸与のお陰で大変助かりました。(高2)」
「隙間時間も利用出来るので20%位アップ。学年トップもキープできました
(高2)」
「学年で2位まで成績が上がりました。(高2)」
「英検二級に合格しました。模試結果や学内テスト結果も良くなりました。(高2)」
「ほとんどの科目で成績が5に上がりました。(高3)」
「オンラインで視聴した英語のリスニングが一番伸びて、9割以上共通テストで取れました。その前までは8割切っていました。(高3)」

すごくないですか?勉強を教えたわけではありません。ただ、iphoneを無料で貸し出しただけでこんなに、学力が上がっているのです。

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確かに、努力をすれば、インターネットがなくても、調べ物はできるかもしれません。図書館に足を運べば不可能ではありません。しかし、スマホがあれば、一瞬でできることに、何時間も何日も時間をかけなければならないのです。英語のリスニングの対策も、評判のいい無料の動画授業を活用しなくても、努力をすれば、時間をかければできないわけではありません。だからといって「お金がなくても頑張ればなんとかなる」と言うのは、あまりにも酷ではないでしょうか?もし、あなたが、スマホを持てない側だったら、インターネットを利用できない側だったら、この不公平を、しょうがないと甘受できますか?

まずは認めることから始めよう

私は、もう10年以上、いわゆる困窮家庭の方々に接していますが、皆さん驚くほど控えめです。私は今の状況はあまりにも不公平だし非合理的だとも思うので「困窮子育て家庭にもっと現金を支給して欲しい」「給付型の奨学金を作って欲しい」等々、色々政府に要求していますが、これは決して保護者や子どもから頼まれてやっているわけではありません。困窮家庭の方々は、自分たちを優遇してくれとか、自分たちだけに特別なことをして欲しいと要求しているわけでは決してないのです。

「共通テストをコロナで諦めました。そんな生徒がいた事を知ってほしい 」

この高校生の悔しさを、私たちはしっかりと受け止めなければならないのではないでしょうか?

本人がいくら頑張っても、自分たちの力ではどうにもならない壁があることを知って欲しい。自分たちが、自分の親が決して怠けているのではないことを知って欲しい。

格差があると認めることは、今、安定した場所にいる人にとっては、辛いことです。自分の今の成功は、自分の努力の賜物ではなかったのか?足元が崩れるような不安と向き合わなければなりません。しかし、私たちは勇気を持って、そこから目を背けずに対峙する必要があるのではないでしょうか?

最後に、フェミニストの研究者である上野千鶴子さんの、平成31年度東京大学入学式祝辞の一節を引用させていただきます。

すべての子どもたちにとって、良い「こどもの日」になりますように。

あなたたちはがんばれば報われる、と思ってここまで来たはずです。ですが、冒頭で不正入試に触れたとおり、がんばってもそれが公正に報われない社会があなたたちを待っています。そしてがんばったら報われるとあなたがたが思えることそのものが、あなたがたの努力の成果ではなく、環境のおかげだったこと忘れないようにしてください。あなたたちが今日「がんばったら報われる」と思えるのは、これまであなたたちの周囲の環境が、あなたたちを励まし、背を押し、手を持ってひきあげ、やりとげたことを評価してほめてくれたからこそです。世の中には、がんばっても報われないひと、がんばろうにもがんばれないひと、がんばりすぎて心と体をこわしたひと...たちがいます。がんばる前から、「しょせんおまえなんか」「どうせわたしなんて」とがんばる意欲をくじかれるひとたちもいます。

あなたたちのがんばりを、どうぞ自分が勝ち抜くためだけに使わないでください。恵まれた環境と恵まれた能力とを、恵まれないひとびとを貶めるためにではなく、そういうひとびとを助けるために使ってください。そして強がらず、自分の弱さを認め、支え合って生きてください。


2021年も困窮家庭の高校生・浪人生のための受験サポート奨学金を支給するために、現在クラウドファンディングを行なっています。よろしければぜひご協力ください。