見出し画像

世界の最新宇宙活動と宇宙法政策-インド編

  今回は、2021年に開催された国連COPUOS(宇宙空間平和利用委員会)本委員会と同法律小委員会に加え、2022年2月7日から同月18日まで開催された第59会期国連COPUOS科学技術小委員会におけるインドの見解のポイントを交えながら、インドの最新の宇宙活動と宇宙法政策をご紹介します。

1.キーワードは「民間宇宙能力の開発」

 インドの宇宙研究計画は、1960年代にトゥンバ赤道ロケット発射基地(TERLS)の観測ロケットを使った地球大気の探査から始まり、衛星、着陸機、ローバーを使った太陽系探査へと発展してきました。
 
 インドの宇宙機関はISRO(Indian Space Research Organisation:インド宇宙研究機関)で、1969年8月に設立されました。

 インドの宇宙計画は「宇宙を利用したアプリケーションを国家の発展と統治のために活用する」という基本的な目的のもとに構築され、ロケット、衛星、宇宙アプリケーションの能力を向上させてきました。

 同様に、現在は、国家の発展と統治に宇宙技術を活用することを主な目的として、民間宇宙能力の開発を推進しています。

 インド政府は、近年、宇宙活動への民間企業の参加を拡大するための宇宙分野の改革を行い、インドの民間企業の宇宙活動を推進・支援し、ISROの施設、専門知識、技術を共有しています。

 このように、インドは民間宇宙能力の開発を強化しており、COPUOSにおいても、各議題において、かかる立場を基礎にして自国の見解を述べていました。

2.最新の宇宙活動

(1)打上げ

 インドは2019年に6回、2020年と2021年に各2回、ロケットを打ち上げました。
 
 ISROは、インド国内に加え、国外のペイロードの打上げサービスも行っています。2019年6月から2021年8月までの間に、ISROは、インドの基幹ロケットPSLV(Polar Satellite Launch Vehicle)による5つの打上げ輸送ミッションを実施し、インドの衛星5機と顧客の衛星49機を打ち上げました。

(2)月・火星探査

 2019年7月、インドのGSLV Mk-IIIロケットで2回目の月面ミッションとして月面探査機「チャンドラヤーン2」を打ち上げ、同年8月に100kmの月周回極軌道への投入に成功しました。

 ただ、残念ながら、無人探査機「ヴィクラム」による月面着陸には失敗しています。

 「チャンドラヤーン2」には8つの科学実験装置が搭載されており、主な科学的目標は、地形、鉱物学、表面の化学組成、月の希薄な大気などの詳細な研究を通じて月の科学的知識を拡大し、月の起源と進化についての理解を深めることとされます。

 「チャンドラヤーン2」は、25cmの解像度で月面の最も鮮明な画像を提供しています。このミッションで得られた重要な成果には、マイナー元素であるクロムとマンガンの初の遠隔検出、月面上のナトリウム分布の初の地図、12.5km×12.5kmの空間分解能での酸素線の初の全球カバー、低・中緯度の月外圏からのアルゴン40信号の初の時空間変動の観測などがあります。

 インドでは、「チャンドラヤーン2」のほか、2013年11月に打ち上げられたインド初の惑星間探査機である火星探査機「マーズ・オービター」、2015年9月に打ち上げられたインド初の宇宙多波長観測衛星「アストロサット」が続々とミッションを成功させ、貴重な科学データを提供しました。

 現在は、3回目の月面探査機「チャンドラヤーン3」と初の太陽探査機「アディティヤL1(Aditya-L1)」の準備が進められています。また、宇宙X線の偏光を測定する初の衛星「XpoSat」も、2022年の打上げを目指しています。

(3)有人宇宙飛行

 インド初の有人宇宙飛行プロジェクト「ギャガニァン(Gaganyaan)」が準備中です。

 このプロジェクトは、短期的には地球低軌道での有人宇宙飛行の実証を想定しており、長期的にはインドの持続可能な有人宇宙開発プログラムの基礎を築くものであると位置付けられています。

 最初の有人飛行は2023年に予定されており、それに先立ち、数回の無人飛行が行われる予定です。

(4)衛星データの活用

 インドの現在の宇宙資産には、地球観測衛星、通信衛星、NavIC(地域ナビゲーション衛星群)、科学衛星などがあります。

 インドでは、農業、都市計画、災害管理、気候変動、漁業、天気予報などに関連する様々な課題に対処するために、多様な政府省庁や組織によって、衛星のデータが活用されています。

 COPUOSで、インドは、2年に1度、衛星データを使った森林マッピングを定期的に行っており、2019年の森林マップでは、2017年に比べて森林面積が大幅に増加していることが明らかになったとしています。

 また、再生可能エネルギーの利用拡大に向けて、衛星データとGISを利用した水力発電所の立地選定が、特に遠隔地の山岳地帯で有効であることがわかっていると紹介していました。

 さらに、衛星を使った耕作可能な荒地と耕作不可能な荒地のマッピングとモニタリングは、農業生産性の向上、貧困の緩和、環境保護を目的とした荒地開発活動を行う農村開発部門に大きく貢献していると明かしました。

 インドによる多様な衛星データの活用法は、宇宙活動に関心のある途上国の参考となったのではないかと考えます。

(5)国際協力とキャパシティビルディング

 インドは現在60の国と5つの国際機関と正式な協力協定を結んでいます。

 最近では、ブータン、モンゴル、ナイジェリア、チュニジアが加わり、2021年にはコロンビアが新たなパートナーとして加わりました。
 国際協力プロジェクトの中では、ロシアのRoscosmosやフランスのCNES(フランス国立宇宙研究センター)との有人宇宙飛行支援プロジェクト、NASA-ISRO合成開口レーダー(NISAR)ミッション、ISRO-JAXA月面極地探査(LUPEX)ミッション、ブータンとの共同衛星ミッションなどがあります。

 このうち、ISRO-JAXA月面極地探査(LUPEX)ミッションは、日本とインドが共同で月の極域の水資源を探査するもので、日本の月資源開発にとっても重要なプロジェクトになります。

 また、2017年5月にインドが南アジア地域協力連合(South Asia Association for Cooperation)諸国のために打ち上げた南アジア衛星は、これらの国々で衛星通信サービスを提供しています。

 加えて、第59会期COPUOS科学技術小委員会で、インドは、キャパシティビルディングとして、ISROが、国連アジア・太平洋宇宙科学技術教育地域センター(UN-CSSTEAP)やインドリモートセンシング研究所(IIRS)を通じて、これまでに109カ国の3420人の職員に宇宙技術の応用に関するトレーニングを提供してきたと紹介していました。 

3.最新の宇宙法政策

 インドは、宇宙5条約のうち月協定を除きすべて加盟しており(月協定は署名のみ)、国連のスペース・デブリ低減ガイドラインを含むすべての関連文書を実施していると表明しています。

  また、インドは、宇宙飛行の安全のためのベストプラクティスの交換やデータ共有のための他の宇宙活動国との協力、国連登録簿への宇宙物体の登録、打上げ前の通知など、多くの透明性と信頼醸成措置(TCBMs)を実施していると表明していました。 

 COPUOSでの発言からは、インドの主要な関心事もスベース・デブリの低減にあるようでした。

 インドは、国連やIADCが推奨するガイドラインに沿ったスペースデブリ低減策を自主的に採用しているとします。これらの対策には、上段のパッシベーション、打上げ時の衝突回避(COLA)評価、運用中の衛星の宇宙物体接近解析、ミッション後のGEO(静止軌道)衛星の超同期墓場軌道への廃棄、ミッション後のLEOでの存在を最小限にするためのLEO(低軌道)衛星/ロケットステージの寿命末期の脱軌道化などが含まれるとしていました。

 インドは、宇宙状況把握(SSA)が安全で持続可能なオペレーションに不可欠な要素であることを認識しているとして、宇宙物体観測施設(レーダーや光学望遠鏡)を設置するプロジェクトに着手したと明かしています。

 最近の宇宙改革で宇宙分野を民間企業に開放したことで、インドは民間企業が宇宙活動に参入する新たな段階に入りました。

 そうすると、インドの民間企業による宇宙活動に関する国連やIADCが推奨するガイドラインの準拠が課題となります。

 インドは、民間企業の宇宙活動を促進し、許認可・監督等を行う機関として、インド政府の宇宙省の下に、インド国家宇宙振興・認可センター(IN-SPACe)を設立しました。

 IN-SPACeの設立により、打上げロケットの製造や打上げサービスの提供、人工衛星の製造と打上げ、人工衛星の所有と運用、宇宙関連サービスの提供など、宇宙のあらゆる面で民間企業の参入が進むことを期待されます。

 そして、インドでは、宇宙分野への産業界の参加を容易にするため、宇宙省傘下の公共部門であるNSIL(New Space India Limited)に、産業界や学術界と直接対話をさせることが決定されました。これにより、NSILは、国内での技術移転に相乗効果をもたらすための重要な触媒としての機能を有することになります。

 インドの最新の宇宙政策で重要な点は、インドでは、宇宙産業促進のみならず、インドの民間企業の宇宙活動に対する国際的責任(宇宙条約6条)としての監督・規制メカニズムをも構築していることです。

4.おわりに

 2021年のCOPUOS法律小委員会や同本員会の期間中、パンデミックの影響を大きく受けていたのがインドでした。

 インドはオンライン参加すらも難しい場面もあり、事前録画も駆使して、自国の見解を積極的に述べていました。

 インドの宇宙活動に加え、民間宇宙活動の促進と監督・規制メカニズムに関連して、どのような政策が講じられ、国内法が制定されるのかは、日本が抱える問題とも関連するため、今後も注目していきたいと考えています。