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世界の最新宇宙活動と宇宙法政策-中国編

 今回は、2021年に開催された国連COPUOS(宇宙空間平和利用委員会)本委員会と同法律小委員会における中国の見解のポイントを交えながら、中国の最新の宇宙活動と宇宙法政策をご紹介します。

1.キーワードは「真の多国間主義」

 2021年は、中国が国連における法的地位を回復してから50年目にあたりました。

 この間、中国は、国連との連携を日増しに深めていきました。

 COPUOSで、中国は、この50年間、多国間主義と国連を中心とした国際システムを積極的に支持し、COPUOSがグローバルガバナンスと宇宙空間の平和利用における国際協力のための主要なプラットフォームとしての役割を果たすことを支援してきたと表明しました。
 また、宇宙空間の平和利用のために、COPUOSがより積極的な役割を果たす必要があるとも主張していました。

 そして、中国は、自国の発表の際、「真の多国間主義」というキーワードを何度か使用していました。

 例えば、宇宙資源開発や“Space2030”アジェンダの議題です。
 中国が強調する、すべての締約国の広範かつ平等な参加による協力やすべての締約国の共通の利益の完全な反映などの文脈で使用していました。

 加えて、中国は、近年、月探査などの国際協力を「政治化」する傾向があるがこれは多国間主義の精神にそぐわないとも指摘していました。

 中国が主張する「真の多国間主義」とは、COPUOSにおいて何を意味しているのでしょうか。

 その検討に当たっては、2021年10月25日に、習近平国家主席が「中華人民共和国の国連における合法的議席回復50周年記念会議」で行った演説が参考になります。

 国連の権威と地位を断固守り、真の多国間主義を共に実践すべきだ。人類運命共同体の構築を図るには、強力な国連が必要で、グローバルガバナンスシステムの改革と整備が必要だ。世界の各国は国連を中心とする国際システム、国際法を基礎にした国際秩序、国連憲章の目的と原則を基礎にした国際関係の基本的準則〈規範〉を守るべきである。国際ルールは国連の193の加盟国が共同で定めることしかできず、ごく一部の国と国家グループで決定してはならない。国際ルールは国連の193の加盟国が共に順守すべきで、例外はなくまた例外があるべきではない。国連に対して、世界の各国は尊重の姿勢をとり、この大家庭〈共同体〉を愛し守るべきで、決して都合がよければ利用し、都合が悪ければ捨てるようなことをしてはならず、人類の平和と発展を促進する崇高な事業において国連により積極的な役割を果たさせるべきである。中国は各国と共に協議・共に建設・共に享受する理念にのっとり、協力の道筋を模索し、協力の方式を革新し、新たな情勢下の多国間主義の実践を絶えず豊かにすることを願っている。

中華人民共和国駐日本国大使館HP 
「中華人民共和国 国連合法的議席回復 50周年記念会議での習近平演説<全文>」より一部抜粋http://www.china-embassy.or.jp/jpn/jzzg/202110/t20211026_10426184.htm


 COPUOSで、中国は、「真の多国間主義」を、米国が国連の枠外で主導するアルテミス合意(及び署名国)に対する牽制として用いていたと考えられます。

2.最新の宇宙活動

 中国の宇宙能力はここ数年で飛躍的に向上すると共に、宇宙活動は拡大し、続々とミッションを成功させています。

(1)打上げ

 2021年の中国のロケット打上げ回数は55回で、世界最多です(米国43回、ロシア25回、日本3回)。
 遡ると、2017年は18回、2018年は39回、2019年は34回、2020年は39回で、2018年と2019年も世界トップとなりました。

(2)有人宇宙飛行と宇宙ステーション

 2003年に「神舟5号」で中国初の有人宇宙飛行を自力で成功させた中国は、現在、独自の宇宙ステーション(China Space Station:CSS)を建設中です。

 中国が2011年9月に最初に打ち上げた軌道上実験モジュール「天宮1号」は、無人宇宙船「神舟8号」と有人宇宙船「神舟9号」によって中国初の無人及び有人ドッキングを相次いで成功させました。
 その後、有人宇宙船「神舟10号」のドッキング及び中国の宇宙飛行士3名の一時滞在を経て、2016年3月に制御不能になり、2018年4月に南太平洋上空で大気圏に再突入しました。

 2016年9月には、「天宮1号」と同型の「天宮2号」が打ち上げられ、「天宮2号」は有人宇宙船「神舟11号」や無人宇宙貨物船(補給機)「天舟1号」とのドッキングに成功し、2019年7月に運用を終了しました。

 これら2回の試験を経て、中国は、2021年にいよいよCSSの打上げを開始しました。
 同年4月に「天和」コアモジュールを打ち上げ、同年5月には、CSSに必要な物資を搭載した無人宇宙貨物船(補給機)「天舟2号」が「天和」コアモジュールとのランデブーとドッキングに成功しました。

 同年6月、中国の3名の宇宙飛行士が有人宇宙船「神舟12号」で「天和」コアモジュールに入り、CSSでの3ヵ月間のミッションを開始しました。
 同年7月と同年8月の2回船外活動を行い、同年9月に無事帰還しました。

 同年10月には、新たに3名の中国人宇宙飛行士が有人宇宙船「神舟13号」でCSSに送り出され、約半年間のミッションを開始しました。
 同年11月には、中国の女性宇宙飛行士としては初めての船外活動も行われました。

 なお、中国初の女性宇宙飛行士は2012年の「神舟9号」に搭乗しました。

 2022年中にはCSSの建設が完了するとされています。

(3)月探査

 中国は、2003年から開始した月探査計画「嫦娥計画」を、現在、精力的に進めています。

 2019年1月には、無人探査機「嫦娥4号」が、困難と評されてきた月の裏側への着陸に世界で初めて成功しました。
 「嫦娥4号」は、月の裏側での探査ミッションを継続中です。

 2020年11月に打ち上げられた無人探査機「嫦娥5号」は、同年12月、月のサンプルを地球に持ち帰りました。月のサンプルリターンは米国・旧ソ連以降、44年ぶりでした。

 2021年3月、中国とロシアは国際月面研究基地を共同で建設するための覚書に署名し、同年4月のCOPUOS科学技術小委員会のサイドイベントで、中国国家航天局(CNSA)とロシア国営宇宙公社(Roscosmos)は共同声明を発表しました。同年6月には、国際宇宙探査会議2021(GLEX2021)において、共同で、ロードマップとパートナーガイドを国際社会に向けて発表しました。

 中国には2025年から2030年に有人月面着陸を実施する構想があるとされています。

 COPUOSで、中国は、月探査のプロセスに「開放、共有、Win-Winの協力」という考え方を常に取り入れ、国際協力を支持し、奨励してきたと主張していました。

(4)火星探査

 2020年7月、中国は初の火星探査機「天問1号」の打ち上げに成功し、中国初の独立した火星探査ミッションをスタートさせました。

 「天問1号」の周回機(オービター)は、2021年11月に火星全体のリモートセンシング軌道に入ることに成功し、火星の全域探査を開始しました。

 また、2021年5月15日には、「天問1号」の着陸機(ランダー)が火星への着陸に成功しました。火星への着陸は、旧ソ連、米国に次いで3番目になります。

 同年5月22日には探査機「祝融号」(ローバー)が火星の表面を航行することに成功し、探査データを持ち帰りました。同年8月には、CNSAが最新の火星画像を一挙に公開しました。

 中国は、同年8月30日のCOPUOS本委員会で、「祝融号」は同日時点で着陸地点から南に1064m移動していると明かし、良好な状態にあると付け加えました。
 「祝融号」には追加ミッションも予定されています。

 また、中国によれば、CNSAと米国航空宇宙局(NASA)は、同年6月以降、火星軌道の安全性を確保する取り組みの一環として、火星探査機の軌道データを定期的に交換しているとのことです。

(5)科学研究

 中国は、2016年に世界初の量子科学試験衛星「墨子号」の打上げに成功し、世界に衝撃を与えました。

 その他にも、2015年に中国初の天文衛星とされる暗黒物質(ダークマター)探査衛星「悟空号」、2017年に中国初の硬X線変調望遠鏡衛星「慧眼号」、2018年に電磁環境モニター試験衛星「張衡号」、2019年に重力波探査技術実証衛星「天琴1号」と中国初の宇宙重力波検出技術試験衛星「太極1号」など、多くの科学衛星を打ち上げています。

(6)測位航法

 2020年7月、全球衛星測位システム「北斗3号」が正式に運用を開始しました。

 「北斗3号」とは、中国が独自に展開している衛星測位システム(GNSS)で、中国版GPSですが、個別の衛星の呼称ではありません。
 複数の衛星により運営する地球測位システムそのものを指します。

 中国は、「北斗1号」で中国と周辺国内の航法利用の衛星測位を実現した後、「北斗2号」で全世界をカバーする地球測位を目指し、アジア太平洋地域全域における精度を上げたとされています。

 そして、「北斗3号」で、全世界をカバーする地球測位システムを完成させました。

 中国によれば、「北斗3号」は安定的に運用され、性能は着実に向上しており、世界120以上の国と地域にサービスを提供しているとのことでした。

(7)リモートセンシング(地球観測)

 中国は、リモートセンシングによる地球観測衛星に力を入れてきました。

 専門家の間では、リモートセンシング衛星はスパイ衛星にもなり得ると評されてきました。

 2019年11月、中国は「高分1号」と「高分6号」による「解像度16m」の全地球データ共有プラットフォームを立ち上げ、その地球観測データを世界に開放しました。
 中国によれば、2020年には、中国の「高分」衛星によるリモートセンシング衛星データを世界各国に37回提供したとのことです。

 2021年8月には、中国(CNSA)、ブラジル(AEB)、ロシア(Roscosmos)、インド(ISRO)、南アフリカ(SASA)が「BRICSリモートセンシング衛星コンステレーションの協力に関する協定」を締結しました。

 この構想は、CNSAが2015年に開始したとされます。
 協定の目的は、BRICS諸国の既存の衛星からリモートセンシング衛星のバーチャルコンステレーションを形成し、衛星データの共有による協力を促進することで、世界的な気候変動、大規模な自然災害、環境保護など人類が直面する課題に関係国が共同で取り組むことにあるとされています。

 特に、中国とブラジルは、地球資源衛星(CBERS)での30年以上にわたる強い協力関係にあり、これは「南南協力」と称されている途上国間の協力関係のモデルケースとも言われています。

3.最新の宇宙法政策

 中国の国内宇宙法政策としては、その政治体制から、現段階では、法規制そのものよりも政策を知ることが重要だと考えます。

 中国が進める二国間及び多国間のパートナーシップでは、ロシアとの協力関係に加え、2019年に締結された「海洋衛星データに関する中仏協定」や宇宙気候観測機関(SCO)などフランスとの関係に注目しています。

 また、COPUOSで、中国は、宇宙活動の長期的な持続可能性に対する新たな課題を整理・検討する一方で、宇宙活動の規制、宇宙運用の安全性、キャパシティビルディングの各レベルで、従前COPUOSで採択されたガイドラインを自主的に実施するための効果的な措置を講じていると表明していました。

 中でも、2014年11月に国連の傘下として中国で開設されたアジア太平洋宇宙科学技術教育地域センター(RCSSTEAP-China)に注目しています。 
 
 その理由は、COPUOSで、中国が、特に途上国との国際協力の拡大を精力的に推進するとした上で、キャパシティビルディングの強化をLTSガイドライン(宇宙活動に関する長期持続可能性ガイドライン)の実施のための基盤と位置付けていたからです。

 LTSガイドラインは、21のガイドラインと前文からなり、ワーキンググループでの8年間にも及ぶ議論を経て、2019年のCOPUOSで採択されたものです。
 加盟国が自主的に実施すべき指針であって非拘束的ではあるものの、すべての宇宙活動のすべてのミッションフェーズを対象にし、スペース・デブリ、宇宙物体の安全を含む宇宙活動に関する幅広いルールについて、国連の場で合意されたものです。

 RCSSTEAP-Chinaは北京の北京航空航天大学内に設けられており、中国政府の工業情報化部(MIIT)が主導し、CNSAが運営指導機関となり、北京航空航天大学がホスト機関とされます。
 HPでは、途上国からの参加者に向けて英語で講義をし、リモートセンシング・地理情報システム、GNSS、宇宙法・政策について修士号を与えるフェローシップを設けていると標榜しています。

 中国の戦略としては、着々と進めてきた途上国での宇宙インフラ整備の次の段階として、途上国の将来を担う専門家・人材育成による影響力形成の段階に進んでいると考えられます。

4.おわりに

 2021年のCOPUOSで、中国は、すべての加盟国と協力して真の多国間主義を堅持して実践し、COPUOSを広範な交流と対話を行う重要なプラットフォームとして活用することを期待していると表明しました。

 そして、中国の発言を通して、キャパシティビルディングでは中国は日本を意識している、そう感じる場面も何度かありました。

 以前、中国が、2010年ころに、10年間で宇宙法研究者を100倍に増やし、国際宇宙法形成に影響を与えるという計画を立てたとされるとの記事を読んだことがあります(https://www.nippon.com/ja/japan-topics/c06505/ 青木節子 nippon.com(2019‐9‐24)参照2022‐1‐20)。
 ちょうど、2016年7月に南シナ海における中国の権利主張を否定した、国連海洋法条約附属書Ⅶに基づいて設立された常設仲裁裁判所の判断内容と、これに対する中国の反論を検討していた時期だったので、強く印象に残っていました。

 2021年のCOPUOSに出席したことで、中国が進める国連との連携、途上国の宇宙分野における影響力の形成、国際宇宙法分野での中国国内の人材強化を実感することにもなりました。

 今後も、宇宙資源開発、スペース・デブリ問題、宇宙交通管理(STM)、宇宙法分野のキャパシティビルディングなど、中国の動向に注目すると共に、私自身、研鑽に励んでまいります。