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楽しい会議

「対話」の魅力に魅せられた半年間の研修を終えた私でしたが,直ちにその成果を日々の業務に生かせたわけではありません。

着任した市民局スポーツ課では,当時,策定途上にあった「スポーツ振興計画」の策定が主たる業務として与えられました。
生涯スポーツ,競技スポーツ,プロスポーツと,目的も対象も多岐にわたるスポーツ行政を俯瞰し,提供する施設,機会とそれらを支える人材の育成に関する取り組みについて,それぞれをどう関連付けて体系化し,スポーツ振興施策としての総合化と重点化を図っていくか,なかなか一筋縄でいかない難しい命題でした。
また,既に行われている施策事業は所管課,部,局もバラバラで,積年の課題が残された事業もあり,計画策定に向けた関係者の意思疎通,合意形成は至難の道のりに思えました。
そんな局面を打開してくれたツールの一つが「対話」だったのです。

ある時は,市役所内部で複数課が関わるある事業の見直しについて協議する際に,会議出席者にいったん所属,職責からわざと離れてもらうことをルール化し,誰が何を言ったかという議事録をとらないことを前提に個人として自由気ままに発言しあうグループワークを複数回にわたって行ったことがありました。

役所の中で行われる「関係課協議」はお互いに自分の組織の立場を正当化し防衛する主張が行われることが多く,その対立の調整に非常に労力を要するのですが,互いに自分の立場を守ろうとするあまりに問題の本質にたどり着けないことがあります。
この案件についてはそれが顕著で,その課題を検討するための事務局となると,その問題の解決に責任を持たなければならなくなるとの組織防衛本能から,誰も事務局を担おうとせず長年課題が放置され続けているというトンデモナイ状態でした。

そこで,所属を離れた立場からの発言を容認し,その発言者や組織に責任を取らせない「安全な場」として運営すること,また,結論の方向性について予断を持たず,肩の力を抜いて個々人が発する意見が創り出す場の流れに委ねることとしたところ,誰かを攻撃するでもなく,自分が責任を負うわけでもないという安心感から積極的な「対話」による課題の洗い出しが行われ,結果として非常に建設的な課題解決の方向性が見いだせました。

またある時は,都心部で働く人を対象にした運動不足解消のための新規施策を検討するため,実際に福岡の都心部で働いている民間人の方々にお声がけして「楽しく体を動かすってどういうことだろう」と題したワールドカフェを実施しました。

BGMをかけ,お菓子を用意して,まるでカフェのようなリラックスした雰囲気で,官民の垣根を超え,職業,立場を脇に置いて自由に言葉を紡ぎ,話題の花を咲かせていく楽しい対話の場では,これまでの行政主体の会議では味わうことのない「ゆるーい」楽しい時間を過ごすことができ,その中できらりと光るアイデアはもちろんのこと,それを実現するうえでのキーパーソンや協力者を確保することができました。

当時のブログにはこれらの挑戦への期待やその手応えが書かれています。
https://ameblo.jp/yumifumi69/entry-12550825922.html
https://ameblo.jp/yumifumi69/entry-12550825944.html
https://ameblo.jp/yumifumi69/entry-12550825952.html

こう書くと,私がいかにも半年間で学んだ研修の成果を生かしたいと積極的に組織の中で提案し,実現したものであるかのように読めますが,実はそうではありません。
これはすべて,当時私と組んでこの難題に取り組んでいた部下職員の発案なのです。
私と違って独学でファシリテーションや対話に興味を持ち勉強をしていた彼女と出会い,この発案を受けたとき,私は衝撃を受けました。
私が17年間の公務員生活でたまった垢を落とすと意気込んで地元を離れ,仕事を離れ,半年の研修期間で体得してきたこの価値観を,通常の仕事をしながら学び,それを実践しようとしている。
自分がこれまでの公務員生活で何の疑問も持たずその場に安住していたことを恥ずかしく感じる一方で,たった半年のにわか仕込みの自分でも彼女と組めば研修で学んだことを実践できる,と勇気づけられたのです。

たった1年半でしたが,この職場で彼女と好きなようにやらせてもらい,役所の中では相当に挑戦的な「対話の場」を仕事の上で作ることができたことで,私の「対話」に関する思いは一層強くなりました。
また未熟ながら自分の手でその場を作ることも不可能ではないということを知り,自信にもなりました。
今思うと,ここでの小さな成功体験を経て,逆に言えば不相応な挑戦で立ち上がれないほどのダメージを受けるというようなことにならずに済んだことで,「研修の成果を生かし,市役所の組織文化の改善改革に貢献したい」という思いは,心の中の種火となって私の中で燃え続けることができたのです。

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