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行政を読み解く力

「あら,ちゃんと教えたらできたわね。助かるわ」
「教える前からできないって見くびらないでよね」
「こんなことならもっと早くから教えておけばよかったわね」
#ジブリで学ぶ自治体財政

昨日の話は,自治体職員にとっては耳の痛い話だったかもしれません。


国民,市民が求める政策を実現することは我々公務員の使命です。
であるならば,政治家が選挙で掲げた公約を実現することが至上命題となるはずですが,こういうことが起こると「果たして本当にそうなのか」という疑念が沸き起こります。
私自身も,市職員としてこれまでいろんな仕事をしてきましたが,市民が行政の仕組みや財政について無理解であること,議会がそれに迎合し理性的な議論にならないことでモヤモヤしたこともたくさんあり,そんな中で「民意が全てではない」あるいは「選挙結果は必ずしも民意ではない」という考えに立ちたくなることもありました。
今も多くの自治体職員,あるいは霞が関で身を粉にして国民のために働いている国家公務員の皆さんも同じような思いで,大衆に迎合する政治家や選挙で勝ったという事実を背景に自己を正当化し専横する政治家を苦々しく思っているかもしれません。

「『民意に従え』は政治の自殺」という評論,皆さんご存じでしょうか。
2012年ごろに産経新聞の論説で語られた主張のようですが(ソースが明らかでないので,リンクを貼るのは控えます。),この論説で示されている概ねの主張は,選挙で選ばれた者がその正当性を過剰に主張し,「民意に従え」「民意を問え」と重ねて主張することで論理的でない結論へと導こうとすることへの警鐘です。
無知の民衆は耳触りの良い政策だけを求め将来の資産を食いつぶしてバラマキに明け暮れ,熱しやすい民衆は扇動政治家を生みファシズムにつながる。
かように政治を民意に委ねるとろくなことにならないので,一般大衆に比べ英知に優れた者に政治を委ね,愚かな大衆は黙ってそれに従った方が世の中全体うまくいくという「哲人政治」の思想に基づき,この論評は記されています。

確かに昨日の記事でも指摘したように「行政運営に関する基礎的な理解不足」は自治体運営上の大きなリスク要因になっているのは間違いありません。
しかし,だからと言って市民の意見を脇に置き,役所の中の論理やプロの政治家だけにしか通用しない密室の談合で物事を決めていいはずがありません。
私たちは,選挙で選ばれた人が選んだ市民の意見を代弁し,代議した末の決定を市民全体が受け入れるというルールの中で暮らしています。
私たち市民一人ひとりの意思を可能な限り尊重するという民主主義のプロセスによって得られる結果がまずいのは,民主主義そのものがまずいのではなく,その担い手である市民に備わるべき素養が不十分なのであって,それをどう高めていくかということだと思うのです。

話は変わりますが,ある自治体の財政課の方と枠配分予算制度について議論したことがあります。
財政課が全てを差配するのではなく現場に責任と権限を委ねたほうが各職場での自律経営が進んでよいというのが私の枠配分予算信奉の根拠なのですが,それは福岡市のような大規模な自治体の話であって,小規模自治体であれば現場に薄く広く権限と責任をばらまくよりも財政課で専門性の高い人材を育て,そこで集中管理したほうが効率程だというご意見でした。
確かに一人で何役もこなさなければならない小規模自治体であれば専門家を育成し長くその場で経験を積ませたほうが実務は回ると思いましたが,それでも現場が財政課に判断を委ねその指示に従うという仕組みでいいのか釈然とせず,その命題は今も私の心に残っています。
しかし,岡崎市の件を記事として書き,その続きを考える中で一つの考えに到達したのです。

昨日から述べている市民の「行政運営に関する基礎的な理解不足」は自治体運営上の大きなリスク要因ですが,このリスクの影響を自治体の中で一番受けるのは誰かと言えば,財政課を中心とした自治体経営の中枢を担う官房部門です。
従って,官房部門はこの問題に真正面から向き合い,市民の行政運営に関する基礎的な理解不足解消のため,自治体運営に係る情報発信や共有,相互の意見交換を通じて,市民との意思疎通に務め,市民の「行政運営リテラシー」即ち「行政運営について正しく読み解き,理解する力」の向上を図る必要があります。
しかし,各施策事業を担当する現場の職員が「首長が予算をつけてくれないからこの事業ができない」と市民や議会の前で予算編成の最終責任者である首長に弓を引くようなことをした場合どうなるでしょうか。

政策選択においては自治体として多様な背景を考慮し苦渋の選択をしていますが,現場として納得いかない部分だけを市民に示していては現場の不満が市民に伝播し市民の納得や共感を得ることから遠ざかってしまいます。
また,自治体の内部では今回話題になったような基金の積み立て,あるいは将来の市民負担を減らすための市債発行の抑制など,市民には見えにくい部分ですが持続的な財政運営ができるよう体質改善にも取り組み,安心して市民生活が営めるための縁の下の力持ちとして日夜行政運営に取り組んでいます。
市民にはそういった取り組みの全体像を理解してもらわないといけないのですが, 財政課をはじめとする官房部門が市民と直接接点を持つのには限界がありますし,現場のほうがより親密な距離で市民と接しているのですから,そのチャンネルを使わない手はありません。
このため,市民の「行政運営リテラシー」を向上させていくにはまず役所の中で現場職員のリテラシーをあげていく必要があり,その一手法として枠配分予算による組織の自律経営を目指すというのがよいのでは,という考えに至ったところです。

もちろん,枠配分予算という制度そのものを入れずとも,自治体の財政構造や現状,政策選択の仕組みなどの基礎的な部分を職員が理解し,どの職場にいても行政運営全般を自分事としてとらえることができるようになるのであればその方法は問わないのですが,私は与えられた範囲内での裁量と責任を委ねられる枠配分予算の仕組みを各現場で実践することが一番の近道だと思っています。
財政の問題を財政課で抱え込むのではなく,職員の間で共有し「自分事」と考えてもらえる仲間を増やしたい,というのが,8年前に職員向けの財政出前講座を市役所の中で始めたときの私の思いでした。
役所の中で職員を仲間にすることで,その外側にいる市民の皆さんにも仲間になっていただける,そうすることで市民の「行政運営リテラシー」不足によるトンデモナイ政策への投資などのリスクを回避できるはず,そのためにはまず職員に「行政運営リテラシー」を身につけてもらわなければ。
そう思うとこれまで二の足を踏んでいた枠配分予算制度の導入による組織の自律経営に舵を切る勇気が湧いてくるのではないかと思います。
全国の自治体財政課の皆さん,こういう考え方はいかがでしょう?

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