私だけの庭で、私だけの花が咲く ~早見沙織『GARDEN』レビュー~

ノンタイアップのミニアルバムを2作品連続でリリースして、音楽的に成立する声優さんもなかなか珍しいだろう。

早見沙織さんの話である。

これまで私は、いつも早見さんの話をするときに「歌がうまい声優」という書き方をしてきてきたように思うけれど、『GARDEN』を聴いていると、もっと思いっきり音楽側の視点から語った方が適切な気がしてくる。
例えば、「言葉が綺麗なアーティスト」のような。

『GARDEN』には、まるで生まれ育った“庭”に戻ってきたかのような温もりがある。
豪華クリエイター陣が参加していた『シスターシティーズ』がさながら”姉妹都市”のように様々な色合いを見せていたのに対し、すべての楽曲に作詞作曲として本人が関わっている『GARDEN』は、終始早見さんらしい小さい花が咲いている。

往々にして声優さんは、本人名義の楽曲においても自分ではない誰かを演じてしまいがちだ。
本職が演者なのだから仕方ないといえば仕方ないが、やはり“アーティスト”としても知名度の高い水樹奈々さんや坂本真綾さんは自分自身の歌い方を持っている。
そして早見さんも、『GARDEN』を通じてまた一歩、自分らしさの鍵を拾ったように思うのだ。

自粛期間中に作成されたという『GARDEN』は、タイトルにも示唆される通り内なる世界が描かれている。
忙しい日々の中で忘れかけていた「私だけの庭」へともう一度還っていく――それは否が応でも自分自身と向き合わざるを得なかった自粛期間中の私たちの想いにそっと重なるような歌詞でもあり、そして早見さんの歌声にもちょうどそのような強さがある。

もちろん、元々の早見さんの歌声に早見さんらしさがなかったという訳ではない。
ただ1曲1曲の個性が際立っていた『シスターシティーズ』と比べると、『GARDEN』はどの曲が好きだとか嫌いだとかではなく、まるで『garden』から『ワンスモア』までが1つの曲のようにすら思える。シャッフル再生などせずに、レコードに針を落とすように、決まった手順に沿って丁寧に聴きたくなる。
「もう一度きかせて/あなたの声を」――ライブで聴いた際にはまったく異なる意味に思えた『ワンスモア』も、このアルバムに入ると「あなた」が「自分」を示すように思えてくるから不思議だ。

正直、驚きや感動は少ないかもしれない。『GARDEN』における早見さんは、あまりにも早見さんだから。
それでも、心にじんわりと染みわたってくる温かさ。
10年後も20年後も、今はまだちょっと彷徨っている私だけの庭で、私はこのミニアルバムを聴いていたい。

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